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12 やはりラノベ脳は偉大だということ(その二)

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12 やはりラノベ脳は偉大だということ(その二)


「すまんがな、二人ともすぐに奥の院に来てくれ。」

 グレッグが投げる赤い結界ブーメランをプリミーが追いかけるという遊びに興じている最中、二人の脳裏に黒猫ラミーの声が響いた。

「来た来た!異世界定番の念話だぜ!」

 グレッグがそう叫ぶと、赤い結界ブーメランはぽとりと落ちた。突然終焉を迎えた楽しみを諦めきれないプリミーはブーメランをくわえてイヨタのもとへと走り、飛び上がって続きを催促する。だがイヨタはそれには応じずにプリミーを抱き上げると、こう言った。

「せっかくの初念話なんだから、声に出さずに味わえよ。」

 要は念話だから頭の中で返事を念じるだけにしろということだ。しかしそこはグレッグのこと、返事より先に結界肉まんの準備を終え、さっさと乗り込んだ。イヨタとプリミーも乗り込むとグレッグが口を開く。

「運転手さん、あのテーブルマウンテンの頂上まで頼むよ。」

 それは聞いたイヨタはカラカラ笑ってこう返した。

「お前、それ、ずっと言いたかったんだろ。」



 古典映像作品集という公共ライブラリーの中にテレビドラマというジャンルがあり、その中の刑事モノというのを職場でよく見ていた。研修という名のレクリエーションだったのだが、犯人の乗った車両をタクシーで追うというシチュエーションに「ありえねー」とグレッグが歓喜していたのを思い出す。二人は思い出したついでにほら穴まで刑事モノごっこを続けた。そのせいで初お出かけは行きよりも帰りの方がずっと遅くなった。



「刑事ごっこはもういいのか?」

 ほら穴奥の扉を抜けて庭を歩いていると、隠れ家の前で黒猫ラミーが待っていた。

「黒猫先生、見てたのか!」

 グレッグが礼儀として驚いてみせると、黒猫は右前足で顔をひと撫でしながら言う。

「念話を切ってからにしろ。お前らのしょぼい芝居が脳みそに鳴り響いてノイローゼになりそうじゃったわ。ところで、あれこれ手伝って欲しいことができてな。早速で悪いが手伝ってくれ。あー、それとプリミーはそのままで大丈夫なのか?」

「あっ!」

 二人同時に声をあげて慌ててプリミーを見る。イヨタに抱かれたプリミーはグレッグとイヨタが同時に自分の方を向いたので、ただご機嫌にワンとひと鳴きした。

「大丈夫のようじゃな。大したもんじゃ。わしは銀熊になって身体を家の中に移すから、グレッグ、この黒猫の身体をこっちまで運んでくれんか。」

 黒猫によると、プリミーはグレッグが肝臓を魔力タンクにするという発想を得た後に作ったので、おそらくそういう仕様になっているのではないかということだった。

「プリミティブ(原始的)なのに最先端・・・」

 イヨタがぼそりとそうつぶやくと、黒猫は大いに笑った。そしてほら穴に出て銀熊になった。黒猫の方はおとなしくグレッグに抱かれている。猫を抱いているのでご機嫌かと思いきや、グレッグは珍しく眉間にしわを寄せている。

「銀熊先生、アルファ地球はそんなにまずいのか?」

 銀熊はグレッグの方を振り向かずに答える。

「まずこの銀熊の身体を保存してからでもいいかな?前回ほら穴に寝かしておいたら随分と痛んでいたからね。」

 そこからは三人とも無言で家の中に入り、銀熊はグレッグから黒猫を受け取って一人掛けのソファに身を預けた。そしてゆっくりと目を閉じ、長いような短いような数秒の後、黒猫先生が口を開いた。

「なんじゃ、まるで葬式じゃな。わしは生きとるぞ。」

 だがグレッグとイヨタはうつむいて黙ったままだ。プリミーは分かっているのかいないのか、イヨタとグレッグの間を行ったり来たりしながら、つかまり立ちで抱っこをねだっている。とうとう根負けしたグレッグはプリミーを抱き上げ、ついでのように黒猫に問う。

「黒猫先生が前に言ったじゃん。主神様から救出依頼を受けたって。つまり俺たちをアルファから『救出』してくれたんだろ?それってアルファが何かおかしいってことなんじゃないの?」

 黒猫はそれには答えずに銀熊ボディの膝からひょいとテーブルの上に飛んだ。随分と長い距離をだ。そして朝入れたまま放置されていたタンポポ茶に首を突っ込みペロペロと舐めた。ヒゲに茶をつけたまま顔をあげた黒猫はやっと口を開く。

「アルファ地球は健康そのものだ。いつか向こうに戻ればお前たちもそれに気づくだろう。」

「じゃあ何に備えて銀熊ボディをしまうのさ?長旅になるからだろう?」

 グレッグは食い下がる。何かを感じるのかプリミーは鼻を鳴らしてグレッグに甘える。

「長くなるのか、すぐに戻って来られるか、正直分からん。はー、まあいい。伝えておこう。永原とオニキスに連絡がつかんのじゃ。」

「ボスとオニキスに何かあったのか?」

 そう言って立ち上がったのはイヨタだった。

「そう急くな。あったのか、なかったのか、分からんから様子を見てくるんじゃ。」

 ヒゲについた茶の水滴で顔を洗いながら黒猫はそう言った。

「この前ボスにカモられた将軍に拉致られたか?」

 イヨタはそう言うが、ボスがそんなヘマをするわけがない。そうなっても大ボラ吹いて切り抜けるに決まってる。グレッグはそうイヨタに言ってやりたかったが、今回は言葉にならなかった。なんかモヤモヤする。そんなモヤモヤを黒猫は見抜いたのか、独り言のようにこう言った。

「永原の行方不明は過去に何度もあるが、オニキスまで連絡がつかんというのは気になるところじゃな。」

 グレッグにとってもイヨタにとっても、ボスの永原は父のような伯父のような大切な存在だ。だが同時に、これまでも何度か死亡届を取り消す羽目になるような破天荒オヤジでもあった。筋力や武力ではなく口先による不死身の男がボスだ。だがオニキスは違う。アバターもアンドロイドボディも持たない対話型インターフェース。びっくりするくらいリアルなため息をつくAI。もし彼女が保存されているサーバーが破壊されていたりしたら・・・。



「黒猫先生・・・」

「ダメじゃ。連れては行けぬ。行ってみなくては分からんが、戦争が始まっている可能性もある。アルファは星そのものは健康じゃがヒトと国は限界が近い。ある国は二十二世紀にいて、ある国は十八世紀のまま。つまらんきっかけで弾けるじゃろ。」

 黒猫がここまで言うのなら既に弾けているということだとグレッグは思った。確かに人力で井戸から水を汲み上げ、ロバに鋤を引かせて耕している国がある一方で、日本の農業は生産管理AIによって制御される農業ビルディングが主流だ。おかげで農家は富裕層の代表のように言われる。

「分かった。でも正直気になって何も手につかなくなりそうだ。」

 グレッグがそう言うとイヨタも大きくうなづいた。

「気持ちは分かるんじゃが、そこを押して頼みがある。口で説明するのは苦手なのでな、データを送る。念話を受けるイメージをしてくれ。」

 そう言われて脳内で会話するイメージをすると、ディスプレイにいくつものウィンドウを開けるような感じでデータが脳裏に浮かんでくる。

「わしが子どもの頃にな、ファックス電話という珍妙な電話機が作られてな・・・」

 データと一緒に黒猫の声が送られてきて頭蓋内に響く。

「電話回線で文字や絵を送るんですよね?インターネット以前の旧時代製品として博物館で見ました。体験コーナーがあるんですよ!」

「ならば話が早いな。あの、文字や絵を電気信号に変えて有線電話で送るなんて発想は子どものわしから見ても非効率的じゃと思ったさ。だが念話が使えるようになると、あの珍妙な機械を知っていたことが役に立つ。念話で概略図と指示書を送るなんて発想はただの魔法使いでは思いつかんじゃろ。」

 黒猫がそう言い終わる頃には全ての指示が頭に入っていた。

「これはすごいぞ。感動だ!」

 イヨタはプリミーの両前脚をバンザイさせながら喜び、プリミーはそのイヨタの手指を甘噛みして反抗する。

 一方のグレッグは脳内の指示書に一気に目を通し、実行する際の優先順位を決め、すぐに念話で黒猫に返信した。するとやはりすぐに黒猫から「それでよし」と文字で返事が来た。ファックスのようなメールのようなこの念話の使い方は後々ベータ世界に大きな影響を及ぼす。




「では行ってくる。」

 そう言い残して黒猫はさっさと奥の院の隠れ家を後にした。

「イヨタ、今日のメシは俺ががんばるからお仕事第一弾、頼むぜい。」

「おお、任せとけ。」

「プリミーもこのやり方で作ってやりたかったなー。」

「グレッグ、それは違うぞ。それではプリミーではなく、ポチになってしまう。」

「あー、何となく言わんとすることは分かる。確かにそうかもな。」

 こう早口でやりとりする今の二人はこれまでにないくらいやる気に満ちている。






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