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雨の中で

サラっと登場人物


春樹

高校2年生(16歳)

雨男

自分では気づいていないが相当な雨男。小学校の遠足などは大抵雨だった。が、本人は気づいていないし気にしていない。


高校2年生(16歳)

晴れ男

天性のキラキラのおかげなのかイベント事がある時は9割9分9厘晴れ。唯一雨だったのは前に春樹と遊びに行った時。

あの日の苛立ちは消える事なく俺の中に留まっていた。しかも、それは日を追う事に増していく。

原因がわからないから余計に苛立つ。いや、原因はわかっているのか。

目を閉じても、ぼーっとしても俊の顔が浮かぶ。あの時見せた嘲笑った顔が。俊らしからぬ表情が。それとあの夢だ。謙介が屋上に俺を迎えに来た。当たり前なような顔をして。

二つが重なって大きな蟠りとなり俺を蝕んでいく。


俊……。


隣で笑う俊の顔が浮かぶ。寂しさに近い感覚が頭の中を巡る。

考えても無駄だと思った俺は、また屋上に行く事にした。例え俊の来ない日でも。毎日、俊が来るまで。俊と話ができるまで。

雨の日でも構わずに。




✳︎




キィィ……ガシャン。


鈍い音が響く。


「…はる、ちゃん?」


俺は待っていた声に胸を躍らせた。


「遅い」


微かに笑ってみたのだが、俊の顔は青くなるばかりだった。


「何してるんだ!そんなところにいたら風邪をひいてしまう!」


ずっと雨は降っていた。


「もう遅いだろ」


俊は持っていた傘をさして俺の元に駆け寄った。


「バカなのかい?こんな雨の中、傘もささずに」


俊が怒った。俺はそれを喜んだ。俊が俺の事を思っている証拠だ。自分の頭がおかしくなったのを身を以て感じた。


「俊も同じだろ。雨降ってんのにこんなとこ来て。傘まで持って。反論の余地なしだな」


俺はそのまま抱きつこうと思ったがやめた。こんなびしょ濡れのまま抱きついたら俊まで濡れてしまう。それに、抱きつくなんて俺らしくない。しかし、そんな俺の配慮なんて御構い無しに俊に抱きつかれた。傘がずれて二人とも濡れる。俊の体温が直に伝わってくる。温かい。


「春ちゃんのバカ、傘くらい持って来なよ…。いつから居たんだい」

「いつからだったかな」

「雨の時は踊り場にいるんじゃなかったのかい」

「俊の驚いた顔が見たかったから」

「なら教室に来ればいいじゃないか」

「教室は嫌だな。空気が悪い」


俺は満足だった。俊が前みたいに普通に話してくれて。それだけで十分だった。自分がこんなに安い事がおかしくて口元が緩む。

俊の温もりに抱かれながら、降りしきる雨が、俺達の上だけに降っていればいいのにと思った。




✳︎




放課後になるまで俺達は屋上にいた。俊が持って来た小さい傘に二人で入って。


「悪い…」


気づけば俊もびしょ濡れになっていた。


「構わないよ」


俊は俺を抱きしめて小言を言ってから、また話さなくなった。この間と同じ状態。しかも今日この距離で。

一瞬でも満足した自分がアホらしい。そして、自分の言いたい事だけ言って黙り込んだ俊に少し不満を感じた。この距離感だと、向こうが何かを我慢している事がわかる。でも、それがなんなのかはわからない。聞けなくて、もどかしくて、余計に腹が立つ。

俊の方を見る。左側に座る俊。俺が表情を見たい時に限って俊は左側に座るのだ。

話しかけてはいけないような、何も聞いてはいけないような。そんな空気を醸し出している。俊はいつだってずるい。


「春ちゃん」


思わず勢いよく俊を見てしまった。まさか俊から話し出すとは思っていなかったため、驚きが隠せない。


「なんでここに居たんだい?こんな雨の中…」

「…」


俺は返事をせずに黙っていた。言われてみれば、自分でも何故こんな馬鹿みたいな事をしているのかわからなかったのだ。苛ついてたら俊に会いたくなった。そもそも、苛ついていたらその原因に会いたくなるなんてのが矛盾している。蟠りを晴らしたいと思うなら俊の言った通り、直接教室に行けばいいだろうに。何故俺はここまで意固地になって屋上で待っていたんだ。


「答えてよ」


鋭い俊の声に俺はやっと口を開いた。


「別に、理由なんて…。わからない」

「わからないって…」


俊は呆れたような声を出して項垂れた。俺はどうする事もできず焦った。俊からの問いに答えなくてはいけないと思うほどに、頭の中が絡まっていく。


「…ごめん。そろそろ降りようか。ほんとに風邪引いちゃいそうだ」


俊が立ち上がる。傘がずれ、裾が濡れる。それが示す遠くなった二人の距離に、もどかしい気持ちが生まれる。


「…会いたかったんだよ」


歩き出そうとする俊を引き止めたくて零した言葉。


「会いたいって思うのに理由なんていらないだろ。ただ会って話したかったんだ…前みたいに」


立ち上がり俊の肩を掴み、無理やり自分の方を向かせる。しかし、俊は頑なに下を向いた。


「….前みたいに、ね」


俊の傘を持っていない方の手には力がこもっていた。

俊はそれからしばらくは動こうとも、口を開こうともしなかった。俺も俊に合わせるように、突っ立っていた。

雨は降り続ける。


「…春ちゃん」


呟いた言葉に俊を見つめる。俊の表情はどこか物憂げで、何かを訴えるように俺を見ていた。

雨に濡れた髪が整った顔にまとわりつき、腫れた目元が俊をいつもより幼く見せた。妙な色っぽさに釘づけになる。


「今度こそ降りようか。夏だっていうのに寒くなってきたや」


俊が無理やり笑顔を作る。

さっきの感覚がなんなのかわからず、何もできないまま俊の後を追った。




俺は急いで教室からカバンを持って俊のところに行った。一瞬でも目を離したらどこかに行ってしまいそうなほど、さっきの俊は儚く見えたのだ。

俊は驚いた顔で俺を見る。どうやら着替えをしていたようで、シャツのボタンをしている。


「そのまま帰る気かい?」

「着替えないからな」


俺の不自然な行動に目もくれず、さっきまでの儚さは消えて、いつものような爽やかな俊に戻っている。それがより俺を困らせる。


「そうか…。あ、ジャージで良ければ貸すよ。風邪引いちゃうといけないから、着替えた方がいいよ」

「…じゃあ、借りる」


ロッカーから出てきたジャージを受け取り、着替える。

俊の匂いがする。


「ちょっと大きいかな」


苦笑いしながら俺を見据える。俺はつい匂いを嗅いでいた自分が恥ずかしくて、俊の視線から逃げるような形でジャージに首を埋めた。


「俊の方がデカいんだ…そうなるだろ」


その行動さえもが変に思えて焦りながら俊を見る。薄っすら笑いながらそこに立っていた。

俊に合わせるようにして、今俺は喋っている。もちろん、目の前で笑っている俊が、本当の俊でない事はわかっている。


「さっ、帰ろうか」


カバンを背負いドアに向かう俊。

その後をついて行く俺。

ただついて行くのか。俺と前のように話してくれる俊に。こんな見え透いた偽物の俊と、今まで通り笑って過ごすのか。何事もなかったかのように過ごしていくのか。


そんなの嫌だ。


我に帰った頃には俊のカバンに手を伸ばしていた。

順調にちまちま進んでます。

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