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交差点は目の前に

サラっと登場人物


春樹

高校2年生(16歳)

前回のテストの学年順位:1位(453人中)

何をするにも他所からは適当に見えるように頑張る。「勉強なんてしてないよ(笑)」とテスト当日に言う奴を見て鼻で笑うタイプ。(絶対にしない)


高校2年生(16歳)

前回のテストの学年順位:58位(453人中)

テストによって上がり下がりがある。これには少し理由があったりなかったり。だが、テストにおいてそんな事は言ってられない。


謙介

高校2年生(16歳)

前回のテストの学年順位:395位(453人中)

筋金入りのバカ。これでも春樹に勉強を教えてもらったのでその前より30位くらい順位が上がっている。

そしてやっと、謙介と過ごす日々にも慣れ、互いに気兼ねなく話すようになった。しかし、俺の中にはどこか寂しさ、物足りなさに似た何かが渦巻いていた。それが何なのかはわかっていないのだが。


「か〜えろ」

「ん」


謙介と話していてもどこか上の空になってしまう。謙介に気づかれないように勤めてはいるが、いつバレるかはわからない。謙介は思っていた以上に繊細なようだし。

考え事をしながら謙介の後ろを歩いていると、謙介が急に立ち止まった。驚いて謙介を見ると、少し震えているようだった。


「謙介?」


不思議に思いながら謙介の視線を辿ると、その先には俊が居た。


「…松岡」


俊に声をかけようかと思った時、謙介がぽそっと零した言葉に耳を疑い、視線を戻す。


「あれが、松岡…?」


身を屈めて耳元で囁くと、謙介は小さく頷く。それと同時に、背筋の凍るような恐怖に包まれる。俊がいつものようににっこりと笑いながら、こっちに近づいてきたのだ。いつもと同じなのに、不自然すぎる笑みが恐怖を掻き立てる。


「久しぶりだね、春樹。今少し時間あるかい?」


慣れない呼ばれ方に返事を躊躇っていると、俊が謙介に笑いかける。重圧がすごい。見てるだけなのにこっちにまで伝わってくる。これがあの俊なのか?


「お取り込み中だったかな?」

「いや。帰るところだ」


唇をぎゅっと噛み締めている謙介を見ていたら、自然とすんなり言葉が出た。謙介が不安そうにこっちを見る。俺は謙介を隠すように一歩前に出た。


「じゃ、先帰って」


振り返りながら見た謙介の表情は、安堵と心配が見えた。




謙介と別れた後、俊は屋上に向かった。俊は重い扉を軽々と開け、二人で中に入る。

ガシャン。

何も変わってない屋上。すごく久しぶりに来た屋上。懐かしさに思わず目を細めた。


「…春ちゃん」


優しい俊の声に振り返ろうとすると、後ろから抱きしめられた。俊の匂いに包まれる。


「っ!」


振り解こうとするも、俊の力が思いの外強くて解けない。

足掻くのを諦めて大人しくするとクスクスと笑いだした。


「笑うな」

「春ちゃん可愛い」

「やめろ」


俊の腕が離れていく。振り向くといつものように笑っている俊がいた。さっきまでの不気味な雰囲気はどこかに行ってしまったようだ。


「ごめんね、急に」


その顔は笑っているのに泣いてるようだった。


「…構わない」

「ふふッ」

「なっ、笑うな」

「ははは。春ちゃん、やっぱり可愛いな」


俊が楽しそうに笑う。何故かそれを見てるとこっちまでそういう気分になる。


「あ、春ちゃんも笑った。可愛い」

「可愛いを連呼するな」

「え〜。だって春ちゃん可愛いんだもん」


茶化すように言った。その時の仕草が、言い方がいちいち胸を騒つかせた。


「勝手に言ってろ」


視線を逸らし下に座る。


「いじけた春ちゃんも可愛いね」


しゃがんで俺の顔を笑いながら見つめる。俺は俊を睨みつけて軽く押した。


「あ、怒った?」


余裕を孕んだ言い回しに誘われ、俊に飛びついた。




✳︎




「さっきの、何だったんだ」


二人で騒ぐだけ騒いだ後、いつものように思い思いに座った。俺はフェンスに寄りかかるように、俊はその向かいに。


「え?可愛いって連呼したこと?」


はぐらかすように言いながら、俊は少し右向きに体を動かした。


「違う。何か話があって呼んだんだろ」


俊は暫く黙っていた。頭を下げて。俺も黙って俊の返事を待った。


「…あのね。春ちゃん」


俊が重い頭をゆっくりと持ち上げた。


「謝りたかったんだ。こないだから、ずっと」


何を言っているのか全く見当がつかず、首を傾げた。


「ごめん。ごめんね…」


俊の声が徐々に震えていく。


「待て。何について謝ってるのかさっぱりだ」


耐えきれなくなり慌てて聞く。


「何って。…僕、何か春ちゃんの気に触る事言っちゃったんじゃないの?」


少し赤くなった目元を気にしながらこっちを見てくる。


「いつの話だ?」

「最後に話した時だからもうすぐ2ヶ月くらい前になるかな」


最後に話した時の事を思い出す。



「春ちゃんはどうしていつも屋上に居るんだい?」

「でも、あんまり授業出てないと進級できなくなるんじゃないかい?」



思い出してハッとなった。俊もそれに気づいたようで、また顔を伏せた。


「やっぱり…」

「あっ…あれは。俊が悪いわけじゃない。あれは…」


俊がお説教を受けてる子供のように、チラリと俺の顔を見た。俺もそれに応えるように言葉を繋げようとするも、いい言葉が出てこず黙ってしまった。


「でも…。でも、春ちゃん、あの日から屋上来なくなったし、メール送っても返信来ないし、教室覗いても視線合わないし、なんか知らない子と仲良くしてるし、廊下ですれ違っても知らんぷりだし…。この状態で嫌われたって思わない人の方がおかしいよ」


痺れを切らしたように俊が色々言いつけてきた。


「いや、あの…」

「春ちゃん。もう僕のこと嫌いなんでしょ。…でも、でもね、僕は春ちゃんともっと話ししたいし一緒にいたいんだ。だから、今日こそは謝ろうって決めたんだ!」


そこで一旦口を閉じ深呼吸をして、俺を見つめた。俊が取り乱すのを初めて見たため呆気に取られるも、真剣な眼差しが俺を射抜く。


「で、お願いなんだけど、僕の何が春ちゃんを傷つけたか教えてくれないかい?これがこれから謝ろうって人の態度じゃないのはわかってる。でも、2ヶ月かけても答えが出なかったんだ。この通りだよ」


開き直ったようなその顔は何故か格好良く見えた。




✳︎




俺の家は貧乏だった。母親は余り体が丈夫な方でなかったため持続的に働く事ができず、代わりに父親が毎日湯水のように働いていた。だから俺は高校には入らないで、中学を卒業したら自分も働こうと思っていた。しかし父親は、


「高校はいいところだ。これから先、生きていく上で大事な事をたくさん学べる。仕事なんて気づけば辞めさせられるまでずっとやらされているものだ。でもな、高校生はその時しかやれない」


と、そう言った。

俺はその言葉に甘え、高校に特等生枠で入った。少しだけでも両親に掛かる負担を減らしたかったのだ。

すると、同じような言い回しで大学にも行けと言った。俺は少しだけ呆れたが、父親が一生懸命働いて稼いできた金が自分に向けられている事を喜んだ。そして父親が楽しそうに話す大学に少しだけ興味が湧いた。だから、大学も特等生で入って迷惑を増やさないようにしよう。そう思った。

高校では基本、学年順位は3位以内に居座り、授業もそれなりにちゃんと参加していた。

そんな高1の3学期に父親は倒れた。今は父親の兄からの支援でなんとか家が成り立っている、と言ったところである。

だから俺は大学に行く事を諦めた。父には悪いが、大学に行くほど家には金がない。それに、おじさんがいつまで俺達の面倒を見てくれるのかがわからないのだから。




✳︎




「それで、真面目に授業を受けるのが馬鹿らしく思えて、屋上にいた」

「春ちゃん…」


何故か自分の事をつらつらと話し、俊の方を見る。俊が泣きそうな顔をして俺を見つめていた。


「お、おい…」


慌てて俊に手を伸ばした。俊はその手を掴み引き寄せた。


「俊っ!」


俺はされるがままに俊に抱きしめられた。今度のはさっきより抱きしめ方がきつい。

沈黙が流れ、風が2人の周りを吹き抜けた。

俊は俺を離し、いつものように笑った。何故かその表情にイラッとする。


「別に、同情されたくて話したわけじゃない」

「ん?誰も同情なんてしてないよ」

「はぁ?」


ニコニコしながら俊は言った。


「春ちゃんが余りにもいい子だから、僕が褒めてあげようかなって思って、抱きしめただけだよ。いい子いい子〜ってしてあげたくなった」


俺は言葉を失った。いつものトーンでケロッとそういう事を言う俊には、恥ずかしさなんてものはないのだろう。


「別に、これ以上話す事もない。これでいいだろ」

「えっと…春ちゃん的には納得できたのかもしれないけど、僕的には何がいけなかったのか全くわかってないんだけど」


俊が真剣な表情で俺を見つめていた。

俺は一体、何が嫌で屋上に行かなくなったのだろうか。俊に言われて改めて考えた。しかし、浮かび上がる原因は全て自分絡みの事ばかり。俊が悩む必要はどこにもなかった。実を言うと、そんな事は最初からわかっていた。だから、俊に理由を聞かれて答えられなかったのだ。なら、素直にそれを伝えればいいだろうに、俺は何故かそれを言わず身の上話を始めてしまった。



父親が倒れて、それを学校に連絡してすぐ、教師は「成績さえ下げなければ、学校に来てなくても特等生枠で居させてやる」と言った。

それが事の始まり。

要約すると、俊が「授業に出ろ」と言ったのが教師に吹き込まれたのだと思ったから。しかし、これは俊に伝える必要のない事。そもそも俊が「授業に出ろ」と言ったのはあれが初めてではなかったのだから。



「なんて言うか、俊に言われた事が正論すぎて、なんか苛ついたから。だから、俊は何も悪くない」

「….そっか。良かった」


俺の答えに俊は納得したかしてないかはわからなかったが、俺がそう言った瞬間に俊の表情が和らいだ気がした。


「問題も解決したわけだし、帰ろっか」


俊が立ち上がり俺に手を伸ばす。俺は少し躊躇ったが、俊の手を握った。




✳︎




帰りは今まで通り、しょうもない話をしながら歩いた。そして俊は一度も謝らなかった。


「でも、メールの返信くらいはしてくれてもいいんじゃないかな?すごく心配したんだよ?」

「悪かったって、何度も言ってるだろ」

「ほんとにわかってるのかい?」


逆に俺が謝っている。

俺はふと、携帯をしまった事に疑問を抱いた。俊の言った事に対していじけていたのは確かだが、俊に対して何か思うところがあったわけではない。自分でした事だが、そこまでしなくてもいい気がした。


「僕の話、聞いてる?」

「…ん、あぁ」


答えの出ないまま、気づけば話は進んでいた。

電車の中でも隣に誰かが居ることを少し喜んだ。


「そうだ。クラスの奴が俊のことチンピラだって言ってた」

「え?誰が言ってたんだい?」

「俺と一緒にいた奴」

「あぁ…」


決まり悪そうに窓の外を眺めた。


「俊?」

「あぁ、ごめん。まさか、チンピラなんて、って思ってさ。やってないよ。それに、自分で言うのもあれだけど、僕みたいな人、チンピラなんて向いてないだろうしね」

「ふん、そうだな」


少しの間が気になった。謙介と何かあるのだろうか。

そう思ったら胸の奥の方がモヤっとした。


「駅、着いたよ」

「ん。じゃ」


俊に見送られながら降りる駅は、いつもより色めいて見えた。




✳︎




次の日、学校に行くといつもより早く謙介が登校して来た。


「春樹っ!昨日はごめん」


言うなり俺の前に崩れるようにしゃがみこんだ。


「俺、やっぱ怖くて。何も言えなくて…」


謙介の行動が余りにも面白くて、つい笑みを溢した。


「俺の方こそ悪かったな。松岡、知り合いだった」


そう言うと謙介はポカンとした顔で見上げてきた。


「苗字知らなくて。昨日初めて知った」


謙介は安心したように立ち上がった。


「んだよ〜。昨日、春樹と別れてからメッチャ心配したのにぃ〜」

「悪い」

「でも良かった。なんにもなかったみたいだし。なんか仲良さそうについて行ったから、弱みでも握られてるのかと思ったよ」

「俊はそんな奴じゃないな」


ニッと笑った謙介の顔を見て、昨日のモヤが晴れた気がした。そんな自分がおかしくて嗤った。


「じゃ、いい奴なんだな」

「なんだよその基準」

「え?やっぱ悪い奴なの?」

「知らないな。自分で判断しろ」

「マジか。放任主義〜」


嬉しそうに笑う謙介を見ながら、俺は自分のした事を反省した。些細な事で俊を傷つけ、謙介を苦しめた。

過ぎた事をいつまでも引きずったところで、何も変わらないのだから。目の前の事に手を伸ばした方が賢明だ。

まだまだ続きます。もうそろそろBL要素を表向きに出していきます。

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