謙介
サラっと登場人物
春樹
高校2年生(16歳)
好きな動物:特になし(動物全般好き)
久しぶりに授業に参加したら、クラスの人に不良扱いされた。絶賛?真面目に授業を受けている(だが、大抵寝ている)
俊
高校2年生(16歳)
好きな動物:自由気ままな猫
今回お休み。
謙介
高校2年生(16歳)
好きな動物:ハムスター
春樹のクラスメイト。クラス委員をやっており、そこそこ正義感がある。不良と噂されている春樹の事を2年の最初からずっと憧れている。
松岡
高校2年生(16歳)
謎のチンピラ。謙介曰く、「ここら一帯を纏めてるヤバい奴」。本当にそんな奴、こんな普通の高校に居るのだろうか…。
学校に着くのは割と早い方なようで。朝は静かだった。
いつもならカバンも置かずに屋上に直行するのだが、教室に入り机にカバンを掛けてそのまま突っ伏す。時間が経つにつれて教室は騒がしくなるが、俊の言った通り寝れる。
「今日も朝から授業に参加か…。もう家は大丈夫なのか?」
「偶に居るけど、本当にウチのクラスだったんだねー」
「なんか家、大変なんだってね。でも、それだけで授業免除とかヤバくない?」
教師を始めとしてクラスで話題のタネとなった。悪気はないにしても聞こえる度に舌打ちしをたくなる。教室とはこんなにも居心地の悪いものだったか。
昼休み。俺から距離を取るように集まって、人の方をチラチラ見ながら過ごす人が多い。溜め息を吐こうものならきっと注目の的だ。
でも、何か紛れるものがあるからこれもこれでいい気がする。
「なぁ。一緒に食べていい?」
そんな考えも直ぐに終わった。
声の方に顔を向けると、小さい、犬みたいな男子生徒が俺の机の上に自分の弁当を置いていた。
「へへ」
俺は何も言っていないのに、向かいに座る。少し嫌そうな顔をするも、御構い無しで弁当を広げ始めた。
「俺、謙介。クラス委員?やってるんだ。すげーだろっ!」
満面の笑みで言われた。どういった反応を示せばいいのか困り、
「そう」
冷たい反応になった。しかし、それも気にせず話がどんどん進んでく。
「ね、今まで何してたの?ってか、もう学校来て大丈夫なのか?あと、春樹すげー頭いいのな。先生が愚痴ってたの聞いちゃってさ。どうやって勉強してんの?俺なんて、授業真面目に受けてても赤点ギリギリなんだぜ」
質問攻めになり、ついに溜め息を吐いた。頭の悪さをわざわざ露呈しなくてもいいだろうに。
「あっ…悪い。いっぺんに聞かれたら困るよな。ごめん」
まるで耳や尻尾があるかのようにわかりやすい反応。本当に犬だ。
「たださ。なんか、そういうのってカッコいいなって思ってさ」
その言葉に釣られて顔を上げると謙介ははにかんでみせた。本当の本当に犬みたいだ。
「どっか適当に時間持て余してた。別に格好良くなんてないだろ」
あまりの馴れ馴れしさについ口を開くと、とても嬉しそうに笑って「それで?それで?」と言うかのように目を輝かせて催促してくる。ここまで図々しくはないが、俊に似ている部分があり、嫌々ながらも話を続けた。
「特にしてた事もない。羨ましいと思われるような生活は送ってない」
不意に俊の顔が脳裏を過る。
「…」
「どうかした?」
言葉に詰まると謙介は心配したように顔を覗き込んできた。
視界に映るその表情は笑っていた。でもそれは俊とは対照的な笑いで。
「いや、何でもない」
予鈴が鳴る。謙介は慌てた様子で弁当を片し始めた。
「次の授業何だっけ?」
「古典」
「ありがと。ってか、時間割ちゃんと覚えてんのな」
嵐のような人と言うのだろうか。謙介は席に戻っていった。
静かになった俺の周り。大きく息を吸って机に伏せた。
✳︎
帰りも謙介に捕まって一緒に帰った。
「でさぁ〜。急に当てられるからこっちも焦ってさ…」
同じ授業を受けているのに、その時の話を楽しそうに話していた。受ける人によって授業はこんなにも変わるのか、なんて思っていると急に声が小さくなった。俺は不思議に思い謙介の方を見る。
「どうかしたのか?」
「へ?あっ…どうもしてないよ。ははは〜」
謙介は手をバタバタと振りながら言うも、どこか虚ろな雰囲気だった。
改札をくぐり階段を登る。会話は途切れたまま。
「俺、こっちなんだ」
電車が入って来ると慌てたように、小走りで俺の乗る方と反対のホームに向かって行った。
「じゃ、また明日」
「あぁ」
それでも、振り返って笑いながら手を振る仕草は明るかった。
暫くはそんな風に過ごしていた。
✳︎
「なぁ〜春樹。この問題教えてー」
「…自分でやれ」
「もうやった。それでわかんなかった」
縋りつくように机に覆い被さってくる。これは謙介が編み出した「俺にお願いを聞いてもらう方法」だそうだ。この状態だと机に突っ伏した寝方ができないから、俺に対しては効果抜群だと言っていた。
「はぁ…。見せろ」
目を輝かせワークを広げる。
「ここ。答え見たらさ、ここのところカットされててさ」
「この式を二乗して、それををこれに代入する。基本的な順序だからカットされてるんだよ」
「……。ほーっ。あ、なるほど!わかった!!ありがと」
満面の笑みで席に戻っていった。また溜め息を吐き机に突っ伏す。気づけばクラスの空気が初めより柔らかくなっている。謙介と居るからだろうか。
屋上に行かなくなってからどれだけ経ったのだろうか。3週間?いや、もう1か月になるのか。
黒板を見ながら、寂しさに似た感情が湧き上がる。
何故こんな風に思うのだろうか。まるで、屋上に大事な物を置いてきたみたいだ。あのコンクリートしかない場所に大事な物なんてないはずなのに。
「なーにーしてるんだー?」
今度は後ろから謙介がのしかかってた。
「まだ授業始まってねーよ?起きろー」
体を揺らしてくる。謙介が居ると寝られたものじゃない。
「起きてる。邪魔、どけ」
「だめ、体起せ。絶対寝んじゃん」
「とりあえずどけ。じゃないと起きれない」
「よし。じゃあどく」
顔を上げると謙介が嬉しそうにこっちを見ていた。
ふと、こないだ帰った時の事を思い出す。
「なあ」
気になったので聞いてみる。しかし、返事がない。
「おい、謙介?」
謙介は蒼ざめた顔で廊下を見ていた。俺も同じように廊下を見る。
廊下はいたって普通。いつも通り、気だるそうな顔で歩く生徒や、仲のいい奴らと連んで歩く生徒がちらほらと…
あ、俊だ。
俊がいつものように薄っすら笑みを浮かべながら、誰かと話しながら歩いていた。隣にいる奴は俊のクラスの奴だろうか。
教室の横を通る時、一瞬だけこっちを見た気がした。しかし、俺に気づかなかったようで、何の反応もなしに通り過ぎて行った。まあ、教室の前を通る度に用もなく手を振ったり、声をかけたりするわけがないか。そもそもなんとなく見ただけだろう。
謙介に視線を戻すと怯えたように立っていた。
「謙介」
横腹を突きながら名前を呼んだ。
「な、なに?」
我に返ったように頓狂な声を出してこっちを向く。視線を泳がせながら。
「なんか怖い物でもあったのか?」
「ん。いや…何もないよ。何もない…」
まるで、自分に言い聞かせるかのように繰り返していた。
✳︎
その日は帰る時まで謙介はどこかよそよそしかった。
話しかけるとビクッとし、触ると声をあげたりしていた。
「何かあったんじゃないのか?」
謙介は小さくなって恐る恐る俺を見上げた。
「何にもないって。ほんと」
その声は少し震えていた。謙介もそれに気づいたようで、更に顔を強張らせた。
「ははは。ごめん用事思い出したから俺、先帰るわ。じゃあ」
急に向きを変え走り出そうとする。
「ちょっ、待て」
俺は咄嗟に謙介の服の袖を掴む。
「離してー」
振り返ろうとした時、謙介の目の前スレスレを車が通る。
謙介は驚いたようで、通り過ぎる車を呆然と見つめていた。
「急に走るな。周り見てから行け。危ない」
掴んでいた手を離そうとすると、謙介に服の裾を掴まれた。
「ありがとう…」
涙を浮かべながら笑っていた。
「気をつけろよ」
「うん。ありがと」
結局、そのまま二人で駅に向かった。
「それと、そっちに行っても学校しかないから。どうせなら"忘れ物した"とか、もっとましな嘘吐け。先帰るって…どこに帰る気だったんだ」
揚げ足を取ったら「そうだな」と言って、楽しそうに笑った。
✳︎
謙介は、俺と居る時は楽しそうに笑うのに、一人になると怯えながら歩くようになった。一緒に居るのがいいのか、放っておいた方がいいのか。考えても答えは出ず、極力一緒に居る時間を増やしてみた。謙介は嫌な顔一つせず、むしろ俺から近づいた事が嬉しかったのか、以前よりもくっついている事が増えた。
✳︎
「あのさ…。最近の俺の珍行動について。春樹、どう思ってる?」
俺は何も言わずにいた。
謙介は何故かホームまでついて来ていた。電車が入ってくる。
「その…隣のクラスに松岡って奴がいてさ」
去って行く電車を横目に、謙介はポツポツ話し始めた。俺は後ろに下がって腕組みをした。謙介も俺に合わせてホームの中央まで歩いて来た。
「その松岡ってのが、春樹と話してると睨んでくる気がするんだよ。それがメッチャ怖くて…」
思い出したのか謙介は手で顔を覆った。どうやら俺の行動は、謙介を苦しめていたようだ。
「初めは偶々だろうって思ってたんだけど、でもやっぱりそうじゃない気がしてさ…」
真面目な顔をして俺を見つめてくる。俺は息を飲んだ。
「春樹、松岡になんかした?」
少し震えた声で聞いてくる。俺は耳を疑った。てっきり、もう俺に近づくな、とか言われると思ったのに。拍子抜けしすぎてすぐに声が出ない。
「…いや、知らない」
やっと絞り出した一言に謙介はホッとしたような顔をした。
「よかった。…そのさ、松岡ってのがさ、この辺纏めてるチンピラ?だって噂があるんだよ。俺さ、この辺に住んでるわけじゃないから、詳しくは知らないんだけどさ…。だからメッチャ怖くって。春樹も気をつけろよな」
次の電車が入ってくる。謙介は駆け足で階段を降りて行った。
「じゃあな。聞いてくれてありがとな。春樹ってさ、自分から聞いて来たりしないから言うタイミングなかなか掴めなくて。でも、最近気使ってくれてるなって思ったから」
振り返った謙介は何か振り切れたように明るく笑った。その笑顔はいつもと同じものであったが、俺の中にできた後悔を晴らすには十分であった。
✳︎
それから謙介は学校でも帰りでも、普通に過ごすようになった。きっと俺が"知らない"と言った事で、松岡からの視線も気にならなくなったのだろう。
密かに俺は、松岡が俊のクラスの奴じゃないことを願っていた。
まだ続きます。




