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始まりはすぐに終わる

サラっと登場人物


春樹

高校2年生(16歳)

趣味:昼寝

口数の少ない、一匹オオカミ感の強い、ツリ目の男子生徒。にも関わらず、社交的。


高校2年生(16歳)

趣味:読書

キラキラが絶えない王道イケメン。理系クラスなのにも関わらず、純文学を好んで読む。好きな作家は夏目漱石。

教室は暑くて、五月蝿くて寝るのに適してはいなかった。


キィィ……ガシャン。


重い扉はまるで下界と冥府を繋ぐ門のようで、向こうには誰も居ない。あるのはコンクリートの床とコンクリートの水道タンクと鉄でできたフェンス。

フェンスにもたれかかる。金属が軋む音が響き渡る。あまり新しくないようだ。強く当たったら壊れてしまいそうなくらいには年季が入っている。


キーンコーンカーンコーン。


微かな音で授業の始まりを告げるチャイムが聞こえる。どうやらここでも授業からは逃れられないようだ。

溜め息を吐きその場に座る。さしずめ、チャイム着席と言ったところか。また溜め息を吐きながら、そんな自分に少し自嘲するとフェンスが揺れた。


キィィ……。


扉が音を立てたので驚き、扉を凝視する。まさか教師が毎回覗きに来るのか、それともバレていたのか。

束の間の静けさが終わりを告げた。張り詰めた空気が流れるように、風が吹き抜ける。

犯人と目が合う。


「やぁ。こんな時間からおサボりかい?感心しないなぁ」


黒髪の背の高い、何処からか溢れ出るキラキラを携えた男子生徒がそこにいた。装いから察するに同学年だろう。


「…」


その男をひと睨みして視線を逸らした。男は何の気もなく中に入って来る。


「かく言う僕もおサボりなんだけどね」


目の前に立たれると男の大きいのがよくわかる。思わず見上げていた。



これがコイツと出会った日の話。



「僕は俊。君は?」




✳︎




それから俊は定期的にに屋上に来た。この学校は基本屋上に上がれないようになっているため、俊が来る日は落ち着いていられなかった。


「おはよ。今日も変わらずだね」

「五月蝿い」


俊は屋上で本を読んだりしている。前髪が片側だけ長いため、座る位置によって表情が見えたり見えなかったりする。ただひとつ、何があっても俊はいつも薄っすらと笑みを浮かべている。


「春ちゃんは勉強しなくていいのかい?」

「その呼び方、辞めろ」

「はは…ごめん。でもこれは春ちゃんが悪いんだよ?最初に"何だっていい"なんて言うから…」

「いいから黙って勉強でも何でもしてろ。俺は寝る」

「はいはい。おやすみ」


俺は毎朝屋上に行き、フェンスに寄りかかったり、寝そべったりしながら大抵寝ていた。

付き合いが長いわけじゃないため俊がどんな奴かはわからないが、"寝る"と言うと静かになるから悪い奴ではないのだろう。

横目で俊を見ていたら何故か目が合った。俊は慌てたように目を逸らす。俺はそのまま特に気にもせず昼寝をした。




✳︎




キーンコーンカーンコーン。


微かに聞こえる授業の終わり。5時間目が終わった。

ゆっくりと体を起こし、伸びをする。ガチで眠ってしまったようだ。体が痛い。


「…わっ」


思わず声が出る。俊が隣で本を読んでいた。俺が起きたのに気づいてか、優しく笑いかけてくる。


「おはよう、熟睡してたの?珍しい事もあるんだね。僕が入って来たのに気づかないなんて」

「…別に、気づいてた」


恥ずかしさを濁すため俊からの視線を避け虚勢を吐く。


「そうだったんだ。なら、残念だ」


俊は本を閉じて立ち上がった。


「栞か何か挟まないのか」

「ん?もう読み終わったからいいんだよ」


扉の方に歩いていく。後ろ姿を眺める。6時間目は教室に戻るのだ。


「待て」


欠伸をしてカバンを持って立ち上がり俊の隣に立つ。


「あれ?あと1時間授業あるよ?」


別に隣を歩きたかったわけではない。ただ、何となく後ろ姿を見たら声をかけたくなったのだ。

俊は不思議そうな顔をしたが直ぐに笑って扉に手を掛けた。


「珍しいこともあるんだね」


クスリと笑った表情が珍しくて、さりげなく見ていた。

俺達は互いのことを何も知らない。クラスも知らなければ、俊の苗字すら知らない。興味がないわけではないが、俺も俊も聞こうとしないから何も知らない。


「じゃあ、次化学だから。バイバイ」


俊は化学室に向かって行った。俺はこの時、初めて俊が理系だと知った。俊の背中を見送り、俺はまた屋上に戻った。




授業の終わった音がして俺は俊のところへ向かった。理系で6時間目が化学のクラスがどこか、くらいならすぐにわかる。

たどり着いたのは俺の隣のクラス。そっと中を覗くと、俊がクラスの連中に囲まれていた。声をかけるか迷っていると、俊が気づいてこっちにやってきた。


「やあ、春樹くん。どうしたんだい?」


俊のよそよそしい態度に少し体が引き締まった。


「…どうもしてない。ただ前を通っただけだ」


クラスからの視線が痛い。俺は居たたまれなくて会話もほどほどに歩き出した。


「あっ、ちょっと…春樹くん!?」


俊の慌てたような声がしたが、俺は足を止めることなく歩いて行った。少しの罪悪感はあったが、それに俺の足を止めるほどの力はない。




✳︎




何故俊は屋上に来るのだろうか。

踊り場から外を眺める。今日は生憎の雨。

俊が来るのは、決まって火曜の1限目と金曜の5限目。クラスの人からも好かれているようだし、あの雰囲気なら居づらいようにも思われない。多少ウザいところはあるかもしれないが。

溜め息を吐いて壁に頭を預けた。

別に、俊がどうだろうと俺には関係のないことか。

鬱々とした空の下で昼寝を始めた。





✳︎




4限目が終わるチャイムで目を覚ます。いい加減チャイムの音に反応するのをやめたいと思いながら、コンビニで買ったパンを出す。


「はーるちゃん」


階段から俊が顔を覗かせた。俺は何のリアクションもせず俯いた。


「雨の時はさすがに中で食べるんだね」


俊は少しいじけたように、近くに置いておいたパンの袋を摘み上げ、小さく畳み、また近くに置いた。この様子だと、この間の俺の行動を気にしていることはなさそうだ。


「何しに来た」


俊は不定期で休み時間に屋上に来ることはあったが、昼休みに来るのはこれが初めてだ。


「偶には上で食べようかなってさ」


言いながら俺の左に座った。


「…ねえ。こないださー」


言いかけて俺と目が合い、静かになった。どうやら気にしていたようだ。


「何でもない。…あっそうだ、春ちゃん。今度の休み、どこかに行かない?」


顔を逸らされてしまい、伸びた前髪が邪魔で表情がわからない。でも笑ってるのはわかる。でも、なんだか少し寂しそう…?な気がする。


「ね?」


そんな風に思っていると急にこっちを向いて来た。元の笑顔に戻っている。


「行かない」

「んー。残念だなぁ」

「…」


会話は止まり、俊は黙って天井を見つめていた。


「はぁ…。そんなに行きたいなら別に…ついて行ってもいい」


俺は俊が結んだ袋を弄る。


「本当かい!?じゃあ、アドレス、交換しよう」

「は?なんで?俺、携帯持ってない」

「えっ!?」

「家にある」

「なんだ、驚いたよ。じゃあ、アドレス教えるから」


どこから出したのか、メモ帳とシャーペンでスラスラとアドレスを書き始めた。


「はい!」


紙をちぎり半分に折って渡す。受け取るか一瞬躊躇うも、結局受け取った。


「じゃあね。僕はそろそろ戻るよ。春ちゃんも偶には授業受けなよ」


振っている手が見えなくなっても明るい声が響く。

渡された紙を開くと、濃くない筆圧の整った見やすい文字でアドレスが書いてあった。


「ふッ…」


何となく笑みが漏れた。

午後もそのまま階段で耽っていた。




✳︎




「こないだは楽しかったね」


よっぽど楽しかったのか本日3度目のこの台詞。

「別に…」


俊に背を向けてふて寝をする。


「またどっか行こうね」

「勝手に行け。俺は寝る」

「おやすみ」


嫌に上機嫌な様子で言われる。

俊の隣に置いてある携帯にストラップが付いた。この間出かけた時に買ったのだ。何故かお揃いで。いつもは家に置いたままの俺の携帯にも同じ物が付いている。「お揃いなんて、女子かよ」と言ったら「春ちゃん、どうせ携帯電話持ち歩かないんだからいいでしょ」と言い返された。




✳︎




俊が居ない時に屋上に居るとやけに静かに感じる。俺は安息を求めて屋上に来ているのだから、これが俺の求めていたものなのだろうが、俊が居る時ばかりが頭の中にあるためか、これを不自然に感じてしまう。

ポケットの中から携帯を取り出す。ぶら下がったストラップを見て少し頬が緩む。

あと5分で授業が終わる。

滅多に開かない携帯を開き、時間を見る。

"下駄箱で待ってる"

短い文章を打ちチャイムが鳴るのを待った。




✳︎




「ごめん、待ったかい?こんな日に限って先生に呼ばれてしまってね」

「構わない。用は済んだのか」

「うん。大丈夫だよ。じゃあ、帰ろっか」


この間出かけた時に、同じ電車を使っているのを知ったのだ。


「春ちゃんが誘ってくれるなんて思ってもみななかったから嬉しいよ。アドレス、交換して良かったね」


ニタリと笑う俊の顔から逃れるように下を向く。


「別に、偶々持ってただけだ」


更に嬉しそうな顔をしたのが見なくても手に取るようにわかる。遊ばれているのに気づいていても、つい嵌ってしまうのだ。




「春ちゃんはどうしていつも屋上に居るんだい?」


電車の中で急にそんな話題を振られた。

俺は返事を躊躇った。


「…眠いから」

「教室でも寝れるよ?」

「五月蝿いから」

「はは、春ちゃんらしい言い分だね」


悟られないように普通を装う。


「でも、あんまり授業出てないと進級できなくなるんじゃないかい?僕としては、春ちゃんが進級できないのはー」

「そうだな」


ドアが開く。俺はあまり人の降りないこの駅で降りる。


「じゃあね」


話を途中で遮ったのに、俊は気にしてないように笑いながら小さく手を振った。

それも俺の心を軋ませる。


「ん」


閉まりかけるドアに目を向ける。俊の笑った顔がそこにはあった。

何故か無性に胸が騒ついた。




✳︎




家に帰って直ぐ、机の引き出しの奥の方に携帯をしまった。

それから暫くは屋上にも行かなかった。

初投稿です。

のんびりまったり書いていこうと思っています。


では、また。よろしくお願いします。

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