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サラっと登場人物


春樹

高校2年生(16歳)

好きな食べ物:甘い物

お昼に食べているパンの9割は菓子パン。最近のお気に入りは砂糖でコーティングされたデニッシュパン。顔に似合わない、と言われてからはあまり人前で食べなくなった。教室にいた時は食パンを食べていた。


高校2年生(16歳)

好きな食べ物:駄菓子

馨さんに連れて行ってもらった駄菓子屋で、初めて駄菓子を食べた時の感動をいまだに忘れられないでいる(去年の話)。しかし、一人で駄菓子屋に行こうとは思わない。


謙介

高校2年生(17歳)

好きな食べ物:オムライス

ついこの間誕生日を迎えた。オムライスを好きな理由は、妹に作ってあげた時に「お兄ちゃんのオムライス、世界一美味しい!」と言われたから。この間の自分の誕生日の時は自らオムライスを作った。

暑さでむせ返る中、全校生徒が体育館に集められる。無意識のうちに俊の姿を探している自分が馬鹿らしくて溜め息を吐いた。


「なぁ」

「ん」

「明日から夏休みだな」

「そうだな」

「…」


謙介は黙り込んでしまった。原因は俺。わかっているのにどうしても普通に返す事ができない。これは甘えだ。謙介からしてみたらいい迷惑だろう。


「校長の話が長いのって万国共通なのかな」


独り言のように呟いた謙介の顔を盗み見る。だからといって声をかけるわけではない。



終業式が終わり教室に戻る。ホームルームが済むと同時にカバンを持ってそそくさと教室を出た。謙介は俺の様子を何も言わずに見ていた。しかし、何も言わずに俺は教室を後にした。




✳︎




昨日の夜、俊からメールが来た。


「月がとても綺麗だよ。明日、終業式の後、時間があったら僕と会ってくれないかな?」


俺はそのメールを何度も読んだ。何度読んでも内容は変わらない。結局返信しないまま今に至るのだが、俺は迷う事なく屋上に来た。ただ、この重い扉を開けるには一苦労いるようだ。

中にもし俊が居たら。俺はどんな顔をして会えばいい。言葉通りリセットすればいいのか?リセットしたとして、その後どうすればいい。少なくとも俺は俊にあんな事を言われても、懲りずに熱を帯びたままでいる。そんな奴がこの扉を開けただけで変われるようには思えない。

中に俊が居なかったとして。俺は俊を探しに行くのか?絶対にしない。このまま夏休みを迎えるのは好ましくないが、俊に会ったところで何が変わる。悪化する事はあってもこの気持ちが収まる事はないだろう。

扉と睨み合いを続けた末、ドアノブに手を伸ばした。少なくともここに来た時点で一つの答えは出ていた。今更迷ったところで結果は同じ。開けるしか俺にできる事はない。


ガシャン。


扉の向こうに俊は居なかった。溜め息を吐き、いつものように奥まで歩いて行く。俺は安堵していた。


キィィ……


フェンスを揺らしたのは俺が座ったからか、扉が開いたからか。一息つく間もなく扉を開けた犯人と目が合う。


「やぁ」


俊はそれだけ言ってツカツカと中に入って来た。俺は思わず視線をズラし、照り返しの強いコンクリートを睨みつけた。足音が止まり、俺の向かいに腰を下ろす。


「何の用だ」

「第一声がそれかい?冷たいなぁ」


変わらない俊のペース。俺は今すぐにでも走り出したかった。


「春ちゃんはどうしてここに来たの?」

「俊が呼び出したから」

「場所は書かなかったよね」


これ以上は何も言わなかった。俊も追求してこなかった。

俺にとって屋上は特別な場所で、俊と会うならここが良かった。もし俊がここに来たなら俺はそれだけで満足する。俊にとってもここが俺との場所と思ってくれていたんだと思えるから。

そして俊はここに来てくれた。俺はこれで満足しなくてはいけない。これ以上を俊に求めてはいけない。それが俊と交わした約束なのだから。


「用がないなら帰る」


ここが始まりなら、リセットをかけるのもこの場所でなくてはいけない。これは自分で出した答えだ。

俺は荷物を持って立ち上がった。俊とすれ違う時、少しの期待はあったが何も言葉を交わさなかった。それでも俺は何も思ってはいけない。始めはそうだったのだから。お互いに様子を見あって、余計な言葉は交わさない。振り返りもしない。

扉に手をかけたところで躊躇った。が、大きく息を吸い込んで勢いよく扉を開けた。

どうせこの想いはいつか区切りをつけなくてはいけないのだから。早いに越した事はないだろう…?



✳︎

✳︎



春ちゃんが居なくなった屋上に大きな溜め息の音が響く。僕は自分の愚かさを呪った。


今更、だよね。春ちゃんからしてみたら。


僕はいつも遅い。判断するのも気づくのも、手を伸ばすのも。今まではそれでも問題はなかった。"松岡"という鎧が僕を守っていたから。でもここでそれは通じない。春ちゃんにそれは通じない。僕がそれを望んだのだから、仕方がない。

春ちゃんは明らかに僕に壁を作っていた。きっと春ちゃんから見た僕はいつもそうだったのだろう。それでも春ちゃんは僕のそばに居てくれた。それがどれだけ特別な事だったのか、今になって理解した。


キィィ……


扉が音を立てて開く。扉に背中を向けていたのだが、思わず振り返った。が、僕の期待に沿うとは限らない訳で。


「…おい!松岡!」


目は伏せたまま、体も扉の陰に隠しながら、か細い声を目一杯に張り上げる小さい少年が僕の目に映った。


「お、お前、春樹に何した!」


期待した自分を嘲笑い、体の向きを戻す。


「君に関係ないだろう?」

「大ありだ!!」


今のは少し威勢があった。


「春樹、泣いてたぞ。お前のせいだろっ!」

「前も思ったけど、どうして僕に一々春樹の事を報告するんだい?気になるなら、君がそばに居てあげればいいだろう」


僕の言葉に彼は黙り込んでしまった。話にならないな、と思い横目で彼を見るとすごい形相で睨んでいた。意表を突かれて思わず視線を逸らしそうになる。


「それで済むならそうしたよ。でも、俺じゃダメだから。春樹の目に映ってるのは俺じゃないから。だからお前に言ってるんだろ!」


今度は僕が黙り込むはめになってしまった。


「春樹に必要なのは誰かがそばに居てあげる事でも、同情してやる事でもない。お前が、松岡俊が春樹を受け入れてやる事だろ!」


空回りした威勢が、風に吹かれて僕のところまで届かせた。僕はもう一度だけ嘲笑った。


「何がおかしい!俺からすればお前の行動の方がよっぽどおかしいんだよ!春樹はいつもお前の事ばっか考えてるのに、どうして気づかないふりしてんだ」


立ち上がりゆっくりと扉の方に歩いて行く。


「こっちの立場になってみろよ。あんな拗れ方してたら、いけるかもって思っちゃうじゃんか…」


僕が目の前に立っても、下を向いて目を思い切り瞑っている彼は気づかず、言葉を詰まらせる事なく発し続けていた。


「全くだよ。君が春ちゃんに告ったりしなければこうはならなかっただろうに」


頭の上に手を置くとビクついて、饒舌だった口も音を発するのをやめてしまった。しかし、僕の顔を思い切り睨みつけて大きく息を吸い込むと、


「何が言いたい。俺は好きって気持ちを隠さなかっただけだ」


その瞳は春ちゃんが僕を見る時と同じような色だった。


「見事、玉砕されたみたいだけどね」

「っ…お前になんかに言われたくないな。んな事より、さっさと追いかけろよ。次春樹の事泣かせたら容赦なく奪い取るからな」

「はいはい。次に謙介くんにチャンスが訪れるのはいつかな〜」


下から見上げてくるその顔は"打ちのめされた"とはっきり書いてあったが、まだ目には熱がこもっていた。彼がこんな目をするとは思わなかったので思わず笑みが溢れた。


「…ありがとう」


すれ違いながら小さく囁いて、急いで階段を降りて行った。




✳︎

✳︎




足音が聞こえなくなった踊り場で、緊張の糸が切れた謙介はだらしなく座り込んだ。


「何が"いつかなー"だ。最初から誰にも渡す気ないくせに…」


俊の余裕のある表情が脳裏を過る。


「俺、松岡の事やっぱ嫌い!!」


その声は今日一番響いた。

次回、2人は結ばれる…?

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