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そよ風のように

サラっと登場人物


春樹

高校2年生(16歳)

好きな人のチャームポイント:顔

最初は五月蝿い奴だと思っていたが、顔は気に入っていた。好みと言うよりは無意識に目を奪われてしまう感じ。恋に自覚した瞬間からガンガン攻めるも口下手だった。


高校2年生(16歳)

好きな人のチャームポイント:全部

からかい半分でちょっかいを出していたら本気の恋になってしまった。しかし、この恋を受け入れる事ができず今日まで苦悩した。どうなっても手放す気は無い。

ここまで来るのに何度壁にぶつかっただろう。俺の頭は朦朧としていた。

来る途中で教室を覗いてみたが謙介は居なかった。カバンもなかったから帰ったのだろうか。下駄箱で靴を履き替えながら謙介の靴があるか確認しようとした。


「春ちゃん!」


俊が息を切らしながら俺の名前を呼んだ。軽く舌打ちをしながら伸ばしていた手を引っ込めて走り出す。心の中で謙介に謝りながら。



慌ただしく改札を抜けて階段を駆け上る。電光掲示板を見ながら息を吐き出し自分を嗤った。


「やっと追いついた…」


俊が息を荒げながら階段を上ってくる。駅に来たら、ホームに上がってしまったら。俺に逃げ場はない。


「…。もう逃がさないよ」


息を整えて髪をかきあげ、俺を真っ直ぐ見据えた。俺は息を飲んだ。その視線はまるで狩をしている獣のようだったから。


「ちょっと来て」


俺の手を掴み歩き出す。ホームの端にあるベンチのところで手を離された。


「座って」


吐き捨てるような言い方に俺は従うしかなかった。向かいに立っている俊に会わせる顔など持ち合わせていない俺は、膝に肘を乗せてうな垂れるようにして顔を隠した。

何故俊は俺を追いかけてきたんだ。


「一ついいかな」


俊は俺の前にしゃがんで右足首を掴んだ。


「いッ…」


いきなりの衝撃に思わず声が漏れる。


「あ、ごめん。痛かった?」


そう言いながらも俊の手は止まらない。ズボンの裾を折って靴下を少し下げた。


「やめろ」

「やめないよ。どうしてここまで走ったんだい?こんなに腫れて…。下駄箱で"ついてくるな"とか言えばいいじゃないか」


俊の大きな手が足首を包み込む。不思議と痛みが和らいだ。きっと俊の手の感触が気になってしまい、痛みが後回しにされているのだろう。


「どうして走ったの?」

「俊には関係ない」

「こっち向いて言って」

「…」


俊が顔を上げたので、すかさず逸らした。今の俺の顔では何を言ったって説得力に欠けてしまう。


「話がしたいな」

「話す事なんてないだろ」


俊がここに来たのは俺の足を気にしたから。話だって足について前みたいにお小言を言うのだろう。それは友達として当然の事で、それ以外のなんでもない。期待も希望も、もうなんの意味も持たない。虚しくなるだけ。


「…俊は俺に、リセットしようと言ったな。俺は、俊の言った事を理解していたつもりだ。これ以上互いに辛い思いをしないように、俊はそう言ったんだろ。どうして今の方が辛いんだ。おかしくはないか。俺はもう元に戻れない。嗤ってくれ。この期に及んで俺はまだ俊の事が…」


ここまで言って咄嗟に口を閉じた。何か変なスイッチを押してしまったようで、ほとんど無意識のうちに言ってしまった。俺はカバンを置いたまま勢いよく立ち上がる。しかし、俊は俺の足をしっかり掴んだままで、足に痛みが走った。

俊は何も言わなかった。俺は突っ立ったまま俊を見下ろした。

俺は今なんて言おうとした?言ったところで何も変わらないとわかっている上で。余計に俊を悩ませる羽目になるのに…。

俺は一つの駄策を思いついた。

最初からこうすれば良かったのかもしれない。俺が離れられないなら、俊には迷惑をかけるが、俊が離れるように仕向ければいいんだ。俊が俺から離れないのは俺の腹の底を知らないからだ。こうなったら友達に戻れない事がわかるまで想いの丈を言ってやる。

この時俺の頭はどうかしていた。


「…この期に及んで俺は俊が好きなんだ。そんな奴と会話が成り立つと思うなよ。何を言っても、どんな風に言われても、どうにかして隙間を見つけてそこに潜り込もうとするんだ。"友達として"みたいな生温い事言わないで"もう二度と話しかけるな"とか"顔見せるな"とか、そういう事を言ってくれ。そうやって俺を拒んでくれ。そうでもないと俺はこの先もずっと俊の事を諦めないで追いかけて行くぞ」


俺が言葉を言い捨てる度、俊の手に力がこもったりした。その反応が俺の頭を掻き乱す。言う必要のない事まで口に出した気がする。しかし、これが本当に最後になるかもしれないと思うと、止める事ができなかった。


「…」


俊が無言のまま立ち上がる。掴まれていた箇所に空気がまとわりつき、温度を奪っていった。俊はそのまま崩れるように俺を抱きしめた。


「おい、離せ。俺の話聞いてなかったのかっ」


力に任せて振り解こうとするも、足に力が入らないのと俊に力で叶うわけがなく無駄に体力を使うだけだった。


「いい」

「よくないだろ」

「僕がいいって言ってるんだ」


俊の鋭い声に俺は口を閉じた。なす術がなくなり体の力を抜くと、俊は体の距離を縮めるように腕の力を少し強めた。


「…謙介くんの言った通りだ。情けないな」


言葉の真意はわからないが、俊の掠れた声がやけに頭に響く。俊の温もりが俺に伝わってくる。心臓の音までも、鮮明に。


「お願いだ。離してくれ」


この状態は非常に良くない。一刻でも早く離れないと本当に俊を諦められなくなってしまいそうだ。

接地面を少し浮かして間に手を入れる。力を入れる気はないが、俺が嫌がっていると思ってくれればそれでいい。


「嫌だよ。だって離したらまたどこかに行くつもりでしょ?もう逃がさないって言ったから」

「…」


俺は手を下ろした。観念して全体重を俊に預けた。もう無理だ。俊が何を考えているのかわからないが、今日まで悩んだ分、目の前の俊に依存してしまう。そこに俊が優しく頭を撫で始めた。


「春ちゃんが屋上から出て行った時、ちょっと嬉しかったんだ。春ちゃんに相応しい人は僕じゃないから。…でも、嬉しいよりも後悔の方が強かった。なんでだろうね。少し前までは春ちゃんの事を遠くから見てるだけで良かったはずなのに、いつの間にかこの距離が恋しくなっていた」


俊の声は麻薬のようだ。あれだけ拒もうとしたのに、拒んで欲しかったのに、いざ引き寄せられてしまったら抗う事を忘れてしまう。また突き放されるとわかっていても求めてしまう。


「僕は春ちゃんの期待してるような人じゃないのに。春ちゃんの目に映る僕が羨ましくて。少しでもそれに近づきたくて。それが叶わないのが何よりも怖くて。だからと言って距離を取る事もできないで。春ちゃんを傷つけるのはいつも僕だ」


俊の手が頭から顔に移った。輪郭をなぞって俺の顎を掴み、上に動かした。


「なのに春ちゃんは僕の元に来てくれる」


額に軽くキスをして俺から手を離した。俺は無意識の内に俊の服を掴んでいた。俊は驚いた表情で掴まれている服の裾を見た。


「…言いたい事はそれだけか」


声が震えた。だって、俊が優しい言葉をかけた後は必ず俺を1人にするから。それが今日は無性に怖かった。


「そうやって仄めかしてははぐらかして。俺はもう嫌だ」


握り締める力を強くする。俺はなんて優柔不断な奴なんだ。最初から答えは決まっていて、それを素直に言えないのを俊のせいにしようとしてる。なのに離す事ができない。時に心と体は相反する動きをするようだ。きっと俊は困っている。

俺が顔を上げると俊は真っ直ぐ俺を見ていた。初めてではないが、こんなに真っ直ぐ俺を見ている俊を新鮮に感じた。その顔から目が離せないでいると、生暖かい風が吹いた。2人を包むように優しく。


「春ちゃんの事が好きだよ。どうにかしてこの想いを消そうと思ったけど無理だった。離れれば離れるほど会いたくなるって、そういう事だよね」


いつになく真剣な眼差し。直接脳内に送り込んでいるかように届く言葉。俺は思考を手放した。


俊が何をしようとも何を言おうとも、俺は俊の事が好き。

俺が何をしても何を言っても、俊への想いが揺らぐ事はない。


途端に俺は足の力が抜けて膝から崩れ落ちた。すかさず俊が受け止めてくれた。俊の顔を覗き込む。相変わらず憎たらしいくらいにキラキラした顔。嫌でも見つめてしまう。


「春ちゃんは?」


俊が口を開いた事で我に帰り、俊から視線を逸らす。


「俺は…」


答えを躊躇った。すると、俊が俺をイスに座らせた。


「いいや。答え、聞かなくてもわかってるし。無理に言わせるのは簡単だからね」


膝をついて下げた靴下とまくったズボンの裾を元に戻した。俺は俊の余裕ある言動に苛ついた。


「ああ好きだよ。これから先、何があっても変わらない事実だ」


見下すように俊を見るとニタリと笑って立ち上がった。直ぐに形成が逆転する。無理に言わせてるのと変わらないじゃないか。


「両想いだね」


そう言って俊が俺を見た時、風が通った。その風が俊の長い髪を持ち上げる。あまり見ることのないその目はちゃんと笑っていた。




✳︎




電車に乗ってしまったら2人の時間は永遠ではなくなる。これが悪い夢かもしれないと思っている俺にはこんなに怖いものはない。


「なんでそんな顔してるの?」


隣に座っている俊が俺の顔を覗き込む。


「嫌だったら断ってよかったのに」


いじけたような声を出して窓の外を眺めた。俺は何も言わずに俊に寄りかかった。少なくとも今俊は隣にいる。その事だけに集中しよう。


「ごめん、冗談だよ。僕は浮かれてるみたいだ」


優しく頭を撫でてくれた。こういう態度が俺を余計不安にさせる。


「…駅のホームなら自分達のタイミングで別れられるけど、電車だと駅に着いたら終わりになるから」


優しい感触に思わず口が緩んだ。俊は驚いたように目を丸くしたがすぐにいつもの笑顔に戻った。


「もしかして怖いの?これが夢だったりして、とか?可愛いな春ちゃんは」


思っていた事を言われたのと、可愛いと煽られたのが重なって、俺は勢いよく立ち上がった。足に痛みが走る。けれど、これが唯一夢でないと肯定してくれているような気がした。


「ねぇ、今晩空を見て?」

「は?」

「早くしないとまた乗り過ごしちゃうよ?」


俊に見送られながらホームに降りる。窓から見える俊は照れ臭そうに笑いながら手を振っていた。




✳︎




その夜。言われた通りに部屋の窓を開けた。部屋の空気が出て行って蒸した空気が入ってくる。暑いと思いながら空を見上げるとちょうど目の前に月があった。普段見ないせいかやけに目に付いた。

ふと、昨日の俊のメールを思い出す。


「月が綺麗だよ…か」


何がおかしいわけではないのだが、笑みが溢れてきた。それと同時に怒りが込み上げてくる。俺は机に置いてある携帯を取った。偶には俺が仕掛けてやる。


「…もしもし?どうしたの?」


不意に電話をかけたにも関わらず、出るのが早かった。俺は湧き上がる感情を無理矢理に押し殺した。


「…死ぬなら俊の隣がいい」


それだけ残して携帯を机に置いた。

俊が何を思って昨日あんなメールをしたのかはわからない。ただ単にあの一言を入れただけかもしれない。けれど、俊があの場で俺に気を使ってあんな言葉を言ったんじゃない事がわかっただけでとても嬉しい。そんな事を思っていると携帯が鳴った。無言で出る。


「もしもし?さっきのだけど、いきなりすぎるよ」


俊の少し怒ったような声。俺はだんだん自分の置かれている状況を理解していった。


「ちょっと?聞いてる?」

「あぁ、悪い。聞いてる」

「もう…。まぁ、春ちゃんが嬉しそうでよかった」

「は?」

「昨日、メール送っといてよかったでしょ?」


自分から仕掛けた事だが結局俊に言いくるめられてしまう。経験の差だろうか。


「僕の気持ち、伝わった?」

「あ、あぁ」


ここに俊がいなくてよかった。その一言に尽きる。俺は勝手に電話を切った。その後何度か俊から電話がかかってきたが無視をした。今俊の声を聞いたら何を言い出すかしれた事じゃない。ただでさえ、今日は変な事を言ったのだから。

携帯をベットの上に放り投げ、外を眺めた。

俺が見てる半月を俊もどこからか見ているだろうか。もし見ていたなら、2人分を合わせて満月になるのだろうか。

窓を閉めてベットに寝転がり携帯を取った。


"いつか2人で半月を見よう"


メールを送るとすぐに返信が来た。


"2人合わせて満月だね。その時は春ちゃんから「月が綺麗ですね」って言ってね"


それには返信しなかった。

やっとこさ終わりました。

読んでくださった方々、本当にありがとうございます。

書いているうちに「くっつけたく無い」と思ってしまい、ここまで伸ばしてしまいました。

色々あると思いますが、初投稿という事で温かい目で見ていただけると嬉しいです。

本当にここまでありがとうございました。

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