だいじょうぶ?
悲しい夢を見て、目を覚ました。いつもの寝室で、隣の布団で美鈴が寝ている。「ぶち殺すぞくそ上司こるらぁぁ」……たぶん寝ている。蹴りだした足が布団を蹴り飛ばしていた。なにもない空中にパンチを繰り出している。ぼくは美鈴の勤務態度がすごく気になった。蹴り飛ばされた布団を美鈴に掛けなおす。
「……んあ?」
その拍子に美鈴が起きてしまった。「お、おはよう」美鈴の手が僕の頬に触れる。
「なにあんた。泣いてるの?」
「え?」
美鈴の手が目尻を拭う。「んー……」寝惚け混じりの美鈴はそのまま僕を抱き寄せた。
「よーしよし、あたしの胸のなかで存分に泣くがいいよー」
「え、あ、ぅぅ」
ずるい。普段はバイオレンスで殺すとか殴るとかそんなことばっかり言ってるのに。こういうところが本当にずるい。そしてぼくは自分からは結構セクハラするのだけど、相手からのこういうことに慣れていないのだ。くそぅ。普段なら顔を埋めて「汗の匂いがするぜ。くんかくんか」とか言ってるのに。だいたい殴られるけど。
「んで、なんで泣いてたの?」
「悲しい夢を見たのだ」
美鈴がものすごく呆れた顔になった。
「美鈴が他の人と結婚してる夢だった。僕の知らない人」
それから羞恥と照れと呆れが入り交じったような微妙な表情をする。ちょっと嬉しそうにも見える。
「ふむ、精神的に自立するがよい。あんたに寄り掛かられて立っていられるほど、あたしは強くないよ」
「ごめん、でもなんか辛かったのだ」
たぶん僕は美鈴を独占していたいのだ。彼女がここにいてくれるのは彼女の自由意思によるもの。結婚していないどこにでもいるただの恋人同士の僕らは、どちらか一方の意思だけで簡単に離れてしまえる。それが辛くて悲しかった。
だけど僕というやつはこの通り、不健全で不誠実で本質的に間違っているタイプの人間なのだ。美鈴の言うとおり精神的な自立が足りない。だからもし結婚して本当に美鈴を独占すれば、美鈴は僕を嫌いになるだろう。それが一番嫌だった。
「さては、なんか面倒臭いこと考えてるな?」
「うん」
「そんなあんたに素敵な言葉を送ってやろう。『おっぱい? おっぱい揉む?』」
!!!
「……ていう、落ち込んでる男に『大丈夫?』って訊くよりこっちのが効果あるって書いてたネット記事を見たんだけど、っ、てめぇこらさっきまでの落ち込みようはどこいった?! っっっ」
「にゃー」
少なくともこの蜜月はもう少し続いてくれるみたいだから、いまは目一杯それを楽しんでおこうと思う。
「死ね!ほんとうに死ね!」
「ところでさっき、夢の中で上司と戦ってた?」
「っっっっ」




