First impression
どうしたら警戒を解くことが出来る?
ジリジリと近づきながら、考えてみる。閉じこもり犯人に対する刑事とかこんな気持ちなんだろうか? とか関係ないことも考えつつ、茂みに隠れている小さな魔人を遠目に見つめた。
その子の周りには黒と青のオーラが漂いまくっているので、怯えているのはよく分かる。
うーん……。サムズアップしていけば敵意がないって分かってもらえるかな?
どういう反応になるかはまずこっちに気づいて貰わないと始まらないので、とにかく声をかけることにした。
「……あの~?」
「?!!!!!」
分かりやすくビクッと反応した魔人の子が、こっちを振り向いた。
目には涙を浮かべ、フルフルしているその子は綺麗な顔立ちの子だったけれど、その頬は赤く腫れていた。明らかに殴られた跡である。
それを見た途端、堪らなくなって思わず駆け寄ってしまった。
「!!!!」
目を見張って固まるその子に構わず、抱きしめる。
「……っ!! 痛かったね、怖かったね?! もう大丈夫だから!」
こんな小さな子に、なんて事を!!!
悔しくて半べそをかきながらリュックから回復剤を取り出し、その子の頬にそっと塗る。みるみる腫れが引いていくのを見ているのももどかしく、他の怪我をした部分を探す。すると左腕の袖が破れて血が滲んでいたので、そこにも塗る。
怪我させた人、会ったらお説教しなきゃ!
「他は? 他に痛いところはない?」
消費時間が切れたので消えてしまった回復剤の空容器をポイし、新たな回復剤を開けながら聞く。
固まって呆然としていたその子は、しばらくの間私をまじまじと見つめた。
と、いきなり森の奥の方から「ぐわーーーーーーっ?!」とか「ぎゃーーーーーっ!!」とかいう喚き声がこだまする。
……たぶん二人の仕業だろう。
すると我に返ったその子は、私を引き寄せてまた茂みに身を潜める。
「(あ、あいつらが探してる。黙って)」
小声で囁いて辺りを警戒する子。
やっぱりさっきの集団を気にしているらしい。私も辺りを伺うようにして側に身を潜める。
「(あいつらって、この先にいる集団だよね?)」
「(あいつらに会ったの?!)」
「(ううん、でも見つけたから対処してもらってる。逃げたいんだよね?)」
私の問いに、その子は何度も頷いた。
アンバーとスピネルに念話を飛ばしてみる
『そっちはどう?』
『えっと……、僕は止めたんだけどね?』
『ご主人様のご依頼通りですよ? 半殺しにはしておりませんから』
アンバーが何かしたらしい。
全殺し(?) だろうと半殺しだろうと、死んでなければ良いことにしよう。回復剤掛ければなんとかなるし……(遠い目)。
今はこの魔人の子の保護が先!
『とりあえず保護できそうだから、戻ってきて。ヒューガさんも来そうだし』
『『はい、ご主人様』』
二人に指示してから、魔人の子に向き直る。
「もう大丈夫、あいつらは確保したから。隠れなくてもいいよ」
「え? で、でも」
魔神の子が戸惑っているうちに、茂みから立たせて服についた埃を軽く叩いた。よく見ると軽装ではあるけれど、服の生地は良い物らしい。デザインも品が良い感じがする。
もしかして、魔人でも育ちがいい子なんだろうか?
怪我も顔の腫れも引いたその子は、青白い肌のビスクドールかと思えるほど整った顔立ちで、長いまつげが真紅の瞳を縁っている。柔らかそうな絹色の髪がフワフワと波打っていた。
私も大概美幼女だとは思ってたけど、この子も美人さん!!
と、ずっと魔人の子と思っているわけにもいかない気がしたので、名前を聞いてみることにした。
「私はジーナハース、オーキッドの街で薬師見習いをしているの。あなたの名前を聞いてもいい?」
「え……あ、えっと……」
少しだけどうしようかと迷っている素振りがあったけれど、やがて小さな声が聞こえた。
「……ア、アーシェ」
「アーシェね? よろしく、アーシェ」
怖がらないように笑顔を見せつつ、今度はそっとハグしてみる。
まだまだ警戒心は溶けないだろうけれど、それでも少しでも落ち着けるように。
人の体温って安心するらしいし。小さな子どもが母親に抱っこを求めるのも、それを無意識に知っているからなんじゃないかと勝手に思っている。それから背中をゆっくりトントン。適度なタイミングの振動も、心理的に安心感を増幅させるのだ。
固まっていたアーシェの身体は、そのうちゆっくりを力が抜けてゆく。
アンバーとスピネルが戻ってきた気配を察して一瞬ビクッてなったけど、二人を紹介して私の身内? だと知ると安堵のため息をついた。人の会話ができる犬と猫を見て、さらに目が丸くなってたけど。
アーシェをハグしている私を見てアンバーが一瞬眉根を潜めたけれど、今は感情は入れないようにしたらしい。
「とりあえず、あの者達は動けなくして放置してきましたので」
スピネルではなく、アンバーが報告してくれる。スピネルを見ると、なんとなく居心地が悪そうに目をそらした。
「スピネル?」
「……僕は止めたんだよ?」
「アンバー……」
「殺してませんよ?」
アンバーは何事もなかったかのように、横を向いて顔を洗う。
「両手足の関節を外して、動けなくしただけです。命に別状はありませんし、嵌めれば関節は元に戻ります。ただ靭帯が伸びて今まで通りには動けなくなるかもしれませんが、アレ等は世間に善い行いをしているとも思えませんでしたので、これで少しは大人しくなるでしょう。荒事には向きませんが、普通には生活できます」
……ある意味、その方がえげつない気が。
これって、ネコ科の猛獣がよくやるあれだよね? 獲物を動けなくしてから、面白半分にいたぶるやつ。
ちょっと可哀想になったけれど、あっちの事情を聞くのは後だ。万が一勘違いだったら……誠心誠意謝るしかない。
「ジ、ジーナちゃん、大丈夫かい?!」
やっとヒューガさんが追いついた。それでも必死に走ったらしく、髪に木の葉を纏わつかせて息を切らしている。ヒューガさんに悪いことしちゃったかも……。
「私もこの子も大丈夫ですけど……ヒューガさんの方が大丈夫ですか?」
「は、ははは、寄る年波には勝てないね」
汗を拭き拭き周りを見回したヒューガさんは、スピネルに目をやって頷き合う。それからやっと安堵のため息を付いた。低く屈んで私の髪を撫でる。
「私よりジーナちゃんの方が実力があるという事は充分に分かっているはずなのに、心配してしまったよ。ジーナちゃんも何とも無くて良かった」
私には何もなかったんだけど、心配されてちょっぴり恥ずかしくて嬉しくなる。あ、照れてる場合じゃなかった。
「ヒューガさん、アーシェ怪我してたのよ。治したけど、こんな小さな子に酷い!!」
憤慨する私に、ヒューガさんが考え込むような顔をした。
「怪しい集団はアンバーが行動不能にしてきたらしいから、確認に行かないとーーーーなんだけど」
私がアーシェを見てから俯く。たぶんアーシェは会いたくないだろう、自分を追い怪我をさせた集団なのだから。今でも新たに現れたヒューガさんを見て、私の後ろにしがみつき少し不安そうな顔をしている。
「それじゃあ私が見てこよう。必要なら、町の警備兵に引き渡さないといけないからね」
「じゃあヒューガさん、アンバー連れてって? 武装解除したのアンバーだから。アンバー、あの人達の関節戻して街まで連れてきてくれる?」
私の心情を読んでくれたのか、行こうとするヒューガさん。そんなヒューガさんに、思いついて引き止める。アンバーにヒューガさんへの追従をお願いしようと、振り返るとーーーーアンバーはこの世の終わりのような顔をしていた。
……え?
「なんて顔してるの? そんなに行くの嫌?」
私の問い掛けに、泣きそうな顔をするアンバー。スピネルが肩を震わせ、笑いを押し殺していた。
訳が分からず首を傾げる私に、ヒューガさんが苦笑する。アーシェだけが話に取り残されてオロオロしていた。
「アンバーはジーナちゃんと離れたくないんだよ、きっと。でもまぁアンバーも遊んだみたいだし、今回は責任を取って私と一緒に来てくれるかな?」
穏やかに向き合うヒューガさん。
アンバーはじーーーーっと上目遣いで見つめた後、諦めたように苦い顔をして渋々頷いた。
「ご主人様から離れる事は、断腸の思いではありますがっ!! ご主人様の仰せを断るわけにはいきません……行かせていただきますっ!」
半ばヤケ気味になっているような気もしないではないけれど、一緒には行けないのでそこは我慢してもらおう。帰ってきたらのいっぱい褒めてあげることにする。
「アンバー、お願いね」
拗ねているアンバーを掬い上げて、そっと頬ずりをする。アンバーもしばらくの間、私にスリスリしてた。そのうち名残惜しそうに見詰めてから、私の手からトンと降りてヒューガさんの元へ行った。
「案内させていただきます。関節は私が嵌めますので、あの者共への対応は任せますよ?」
「了解したよ、では行こう。ジーナちゃん達はこの先の小川の所で待っていてくれるかい? 本当なら街まで戻っていて欲しいけれど、多分門の所で止められるだろうからね」
「はい、ヒューガさんも気をつけて」
「ありがとう!」
もう一度私の髪を撫で、アーシェに優しい笑顔をを見せてから、ヒューガさんはアンバーと共に木々の中に消えていった。アンバーが一緒だから、ヒューガさんは大丈夫。
私とスピネルはアーシェを守らなきゃ。
「アーシェ、この先の小川のそばに少し開けた所があるから、そこでお昼にしよう? 歩ける?」
「う、うん」
アーシェは戸惑いつつも頷いてくれた。私はそっとアーシェと手を繋いで、ゆっくりと歩き始める。
私に連れられて歩きつつほんのりと頬を染めたアーシェに、意識していなかった私まで嬉しくなって顔が熱くなる。
美人さんって、見てるだけで特した気分だよね!
スキップでもしたいような気分にさえなりつつ、鼻歌を歌いながら私は二人と来た道を戻るのであった。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
今回ある意味、アンバーにとっては不幸回でした(笑)




