嵐の前
うっかり書けてしまったので、更新しました。いつもより少し短いです。
今日も神域は穏やかに晴れ渡っている。
通常の仕事を済ませて手持ち無沙汰になっているコーラルは、こまめに畑に手をいれ家畜の世話をしているラリマーの様子を見ていた。
「ねぇ、ラリマー」
「ん?」
「お嬢様は今頃何をなさってるのかな」
「地人の地にいらっしゃるのでしょう? 周辺の者にご自身の身分を明かされたという事だから、伸び伸びなさってらっしゃるのでは?」
手を止めず思い出して微笑みながら会話するラリマーに、コーラルは拗ねることなく空を見上げてため息をついた。
「……お嬢様にお会いしたいな~」
「この間お会いしたばかりでしょう?」
「だってアンバー達は毎日ずっと一緒にいられるんだよ? 羨ましいと思わない?」
「それは、そうだけど……」
流石に手を止めたラリマーは、苦笑いを浮かべた。
「私達はこの神域の管理を任せるために、お嬢様に生み出していただいたのよ? 我儘を言ってはダメだわ」
「……うん、それは解ってるの。お仕事に不満があるわけじゃない、でも」
コーラルは体を巡らせて、畑から建物をぐるりと見渡す。
畑は荒れることなく作物を実らせ、花は美しく咲き誇っていた。家畜は穏やかに草を食み、緩やかに流れる小川の流れに乗せてカラカラと水車が回っている。
コーラルが担当している家の窓ガラスはピカピカに磨き上げられ、床には埃一つ見られなかった。地下の倉庫もラリマーが収穫してきた物を棚に仕分けして、古いもの?から順に出せるように仕分けもしている。神域の仕様で2階には上がれないが、上がれたのならばニーナがいつ戻ってきてもいいように、部屋もベッドメイキングも完璧に仕上げていることだろう。しかし……。
誰も住んでいない建物を管理する事がこれほど淋しいなんて、掃除のし甲斐がないなんて、コーラルは思ってもみなかった。
二人が頑張っている事を、戻ってくるたびにニーナは褒めてくれる。それを誇りに頑張っているけれど、そばにいて常にニーナの反応が見えるアンバーやスピネルを思うと、やはり羨ましくて仕方なくなる。
「……やっぱり、私の我儘なのかなぁ」
ニーナが戻ってくるたびに甘えてしまうのを、分かってはいても止められない自分が歯がゆくなる。
俯いたコーラルに、そばまで寄ってきたラリマーがそっと寄り添った。
「お嬢様を大切に想い、側にお仕えしたいと思うのは私達4人の共通する思いよ? 誇りこそすれ、恥じることはないと思うわ」
「ラリマー……」
「私だって、何度お側へ行きたいと思ったことか……」
ラリマーだって、ニーナに会えないのは寂しい。
だがそういう気持ちをニーナに押し付けるのは違うのではないかと考えているので、気持ちを押し殺して仕事を忠実にこなしているのだ。
生真面目なラリマーは、それ以外にニーナに忠誠を誓う方法を知らない。
「だからこそ、 「じゃあ行こう!!」 ……え?」
言葉を続けようとしたラリマーに、コーラルは満面の笑みを浮かべた。
「いつまでもスピネル達にお嬢様を独り占めさせないんだから!!!」
決意も新たに、すっくと前を見るコーラル。
何をどう言っていいのか分からないラリマー。
「で、でも、私達だけで門は通れないでしょう?」
「ふっふっふっ。こんな事もあろうかと、女神様にこっそりお願いして、コレを頂いておいたんだ~♪」
ちゃららっちゃら~!
某ネコ型ロボットがアイテムを出す時のような音楽が、ラリマーには聞こえたような気がした。そしてコーラルの手には二つのペンダントが握られている。
「それは、何?」
「えっとね、お嬢様の下に一度だけ飛べるワープアイテムなんだって!」
「……え」
ウキウキしながらペンダントを身に付け、ニーナの下へ行く気満々のコーラル。
……あぁ、これは止めても聞かないパターンだ。お嬢様、申し訳ありません……。
心の中でラリマーはそっと涙し、ニーナに謝ることしかできない。
こうしてニーナ達が何も知らないうちに、裏の計画はこっそり発動したのであった。
* * * * * * * * * * *
「さぁ、お昼にしよう!」
私は背負っていたリュックの中から大きめのラグを取り出し、樹の下の日当たりも影もいい感じの場所に広げる。草の匂いまでも気持ちいい気がする場所だ。
ランチの入った籐製フタ付きの籠を取り出して渡すと、慣れた手つき(?)で準備を始めるスピネル。
私はアーシェの手を引いて、そのラグの上に座るよう促した。
アーシェはリュックより明らかに大きなラグが出てきた事に目を見張り、スピネルが何でもないようにランチの準備をしていることに、口をあんぐり開けていた。
美人さんは大口開けてても可愛いな……。
普通なら靴は履いたまま上がるんだろうけれど、ここは落ち着くためにも日本方式を取らせてもらう。私から先に座って靴を脱いだ。解放された足が、そよ風を受けて気持ちがいい。
満面の笑みを浮かべる私に、恐る恐るアーシェも同じように座ってから靴を脱ぎーーーーそして安堵の表情を浮かべた。その表情に、私まで嬉しくなってしまう。
魔人ってどんな感じなのかなって思ってたけど、角と皮膜がある以外は地人と変わらないんだよね。その角と皮膜も魔人の象徴みたいなものなんだけど、それほど大きなものでもないし、皮膜で飛べるわけでもない。
隣でスピネルにサーブされたランチを見て、アーシェの表情がさらに綻ぶ。
今回のお弁当は、サラさんとのコラボ企画!
サラさんがジャンプラビットのソテーとレタスのサンドイッチを作ってくれたので、私はデザートのプリンを用意した。
混ぜて蒸すだけの簡単デザートなのだが、まず新鮮な卵と牛乳が用意できないこと、バニラビーンズ(バニラエッセンス・オイルも含む)がエンデワースに存在しないこと、などのせいで存在していなかった。神域では定番的に作っていたのでスピネルの大好物である。
調味料に関しては、みんなに隠すのは止めた。
売ったりする気はないけど(目立つし商人になるつもりはないから)、料理好きだし美味しいもの食べて欲しいし。
もちろんサラさんは大喜びで私に基本的な使い方を聞き、その後アレンジを加えて素晴らしい料理を出してくれた。今ではサラさんのビーフシチューは他の追付いを許さない出来栄えであり、ヒューガさんの大好物の一つとなっている。
私も負けじと、鶏の唐揚げや白パンやチーズケーキなどを作っている。ただローシェンナのキッチンは私仕様ではないし、細かい火加減とか温度管理なんかは無理なので、神域に戻って作ったものを提供した。
なので竈で普通に調理できてしまうサラさんが凄いと思ってしまう。だってサラさん、火の精霊魔法使えないのにご飯美味しいんだよ? 凄いよね!!
サンドイッチを美味しそうに食べ、プリンを満面の笑みで堪能したアーシェ。今までの緊張もあったのか、スピネルを枕に眠ってしまった。
困った顔をして私を見つめるスピネルに、とりあえずそのままでいることをお願いする。
もふもふは癒されるもんね、今はアーシェの枕になってあげて。
私も食事を終えお茶を飲んでくつろいでいると、
『ご主人様』
アンバーから念話が届く。向こうが一段落したんだろうか?
『二人とも大丈夫?』
『ご主人様と離れる時間が、これほど辛いものとは……っ!! あ、失礼しました。こちらは処理を追え、ヒューガ氏と共にそちらに向かっております。間もなく合流できるかと』
『そう。詳しい話は街に着いてから聞いたほうがいいよね。アーシェは落ち着いて寝ちゃったから大丈夫だって、ヒューガさんに伝えておいてくれる?』
『畏まりました。では、ご主人様にはご不便をおかけしましが、今しばらくご辛抱してください』
『うん。アンバーもありがとう、気をつけてきてね』
『……はいっ!! 失礼します』
感情を押し殺すような声で返事をして、アンバーとの念話が途切れた。念話の内容はスピネルにもそのまま伝わっているので、スピネルも少し安堵の顔を見せる。
二人がこちらへ来たら、少し休んでからすぐにオーキッドの街に戻ることになるだろう。飲み物ぐらいは準備しておくべきかな?
インベントリーから新しいカップを取り出そうとして、何か違和感を覚えた。なんだろう?
検索してみると、何かがものすごいスピードでこちらに向かっている。アンバー達の気配とは明らかに違うそれはーーーー振り返る間もなく、私目掛けて向かってきた。
スピネルはアーシェの枕になっていたので、一瞬対応が遅れる。そして私の周囲に、目を開けられないほどの閃光が放たれた。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
コーラルの好感度を上げようとして、失敗した件……。
彼女は反省はすれども、後悔しない娘なんです。異性対応ではありませんが、肉食系ではないかと。




