甘い修羅場
少し短めです。
皆でお茶を飲み、桃のタルトを口に入れる。
途端に皆の目が見開き、申し合わせたかのように私を凝視した。あまりの視線の強さに、ビビってしまう。
「ジーナちゃん、これって、これって?!!!」
ヴィオラが迫る勢いで私に聞く。
「えっと、桃のタルトレット・・・だよ? 甘いの嫌いだった?」
「ううん! ううん!!! タルトレット?? なにこれ!! もの凄く美味しい!! 蜂蜜漬けのせたパンじゃないよね??!」
「それはパンじゃなくてタルト台っていうか、クッキーみたいなものなの。甘味は桃とお砂糖を少し。それでも自然な甘さになるように抑えてるんだけど」
「こんな桃は初めてだよ!! こんな甘いの食べた事ない!!」
女の子なせいか、スイーツへの食いつき方が半端ない。
お酒の好きなアランにはそれほどの食いつきはないけどそれでも美味しそうに食べてくれてるし、ヒューガさんも「サラに半分持っていくべきなんだろうか・・・」とブツブツ言いながら食べている。
驚いたのはゴードン。黙々とひと切れ食べ切ると次々とお代わりし、結局残っていたホール半分をペロリと食べたのだ。勿論ヴィオラとヒューガさんに抗議されたので、後でお土産を渡すことで納得してもらう。何故かアランとゴードンまで名乗りを挙げられたので理由を聞くと、
「まぁ・・・なんだ、ヴィオラの反応を見る限り、女受けする食い物なんだろう?」
どうやら行きつけの食堂の娘さんに渡したいらしい。ほんのり赤くなっているアランが可愛かった。
ゴードンは・・・単に食べたいだけとの事。アンバーといい勝負だ、スイーツ男子だったのね。
しばらくして、ヴィオラから小さなため息が聞こえた。
紅茶を飲んで、気持ちが落ち着いたらしい。ゆっくりと私の方を見た。
「ジーナちゃんは、・・・地人じゃないの?」
「・・・え?」
「だって、私達が見たこともないような魔法を使ってるし、アンバーやスピネルは動物から人になってるし。こんな美味しいお菓子を空中から出すし、これはもう私達とは別の世界の人としか・・・!」
早口で捲し立てるヴィオラに、ゴードンが肩を叩く。ヴィオラが、我に返って瞬きをし、そして俯いた。
「ごめんなさい、まだちょっと混乱してるみたい・・・」
「ううん、いきなり色んな事見せられたら、ビックリするよね? 驚かせてごめんなさい。でも、でもね? 皆には話そうと思ったの、私達の事。話すだけじゃ解りにくいから見せたんだけど、返って驚かせちゃった・・・」
私が初めて出会った時も、フレイムウルフに驚いて腰を抜かしていた。でも戦闘が終わったら、私のことも心配してくれた。可愛いものが大好きで、少し臆病だけれど優しいヴィオラ。困らせたいわけじゃなかったのに・・・。
どうしよう・・・。全部話してしまいたかったけれど、話してしまったらヴィオラはもっとパニックになってしまうかもしれない。全てを話してしまう事で私は楽になるかもしれないけれど、皆には負担になってしまうかもしれない。どうしよう、どうすればいい?
助けて、女神様・・・!!
「ジーナちゃんは、まるで天使のようだね。そうは思わないかい?」
不意に、ヒューガさんの声がして顔を上げた。サラさんと一緒にいた時のように、優しく暖かな瞳が私を見つめてゴードンに振る。
「確かに・・・。俺達が知らない魔法を使う、ニルギアナ様からエンデワースに遣わされている天使は、確かそのような存在だと聞いた事がある」
ゴードンも少し考えるようにしてから、ヒューガさんの言葉を肯定してくれた。その眼が大丈夫だと言っているみたいに見つめて頷く。
天使・・・。そう言えばガイもそんな事を言っていたっけ、私が天使なのか? って。
でも、天使ならいいの? ニルギアナ神本人って言うんじゃなきゃ、まだ皆の負担は軽くできる??
「えっと・・・。私は神域から、来たの」
私の言葉を聞いて、しばらくの間をおいてからヒューガさんがゆっくりと聞いてきた。
「神域・・・、このエンデワースの中心に聳える神聖なる山の事だね?」
「正確に言えば、その山頂なんだけど・・・」
「神域は、ニルギアナ教にとって信仰の対象にもなる霊山だ。俺達からすれば踏み入れる事すら考えられない場所なんだが・・・。ジーナはその神域から来たという事は、さっきのヒューガの言葉を肯定するんだな?」
確かめるように、アランが私に聞いてくる。
息を呑み込んで覚悟を決めると、私は黙って頷いた。アランが目を見張り、その後ゆっくりと後ろの壁に寄りかかった。
「マジかよ・・・」
選択、間違えちゃったんだろうか・・・。ぐっと手のひらを握り締め、耐える。
「驚かせて、ごめんなさい・・・」
「あ、いや・・・、確かに驚いたが、そうじゃない」
戸惑うアランが言葉を捜すように視線を彷徨わせ、それから強い視線で私を見た。
「まさか本物の天使に会える日が来るなんて、思ってなかったからな・・・。俺、熱心な信者じゃなかったのに、イイんだろうか?」
「・・・へ?」
「だってさ、天使だぞ、天使! 教会の司祭様だって、会えるかどうかの存在なんだ。ラッキーだよな~、人生の幸運一気に使っちまった気がする!」
急にテンションが上がったアラン。状況についていけない私。
「・・・そうね、そうよ! だからジーナちゃんはこんなにも可愛いんだわ!! 私が今まで出会った中でも一番に可愛らしいんだもの! 天使以外にありえないわ!!」
ヴィオラの『可愛いは正義!』のスイッチが入ったらしい。
2人のテンションの高さに私の方が固まっていると、スピネルが私の顔を覗き込んだ。警戒していた翡翠色の瞳が、いつもの人懐こいものに戻っている。
「ご主人様、よかったね!」
見えない尻尾が思いっきり振られているような笑顔だった。
アンバーを見ると、ムッとしている。けれどその表情は、自分以外の地人に私が受け入れられた事が嬉しいような嬉しくないような、そんな顔だった。
「ご主人様を一度でも疑うなど、ありえない」
そうは言っていたけれど、アンバーからも緊張が軽く解かれたのが分かる。神域でもなければアンバーが完全に周囲への警戒を解く事はないんだけど、それでも周りの空気から解るのだろう。
こんなんで、許されちゃうの? 皆、怒ってないの?
あまりにあっけない幕切れに、信じられなくて皆を見回してしまう。皆の表情は、穏やかなものに戻っていた。
どうして、こんなに優しい人達ばかりなんだろう。
「ジーナちゃんは、自分の身分は晒したくないんだろう? だったら知っているのは私達だけで、後は『可愛らしいジーナちゃん』のままでいいじゃないか。今ジーナちゃんに去られてしまったら、私は家に帰れなくなるからねー・・・」
そっと頭を撫でてくれたヒューガさん。最後に遠い目をしたのは、サラさんに叱られるという未来が見えたのかもしれない・・・。
「でも、サラさんになら伝えても大丈夫だと思う。ガイも知ってるし」
「「「・・・は?」」」
私の言葉に、冒険者3人が反応した。特にアランの視線が・・・。
「え、えっとね・・・」
叱られるから黙っていたのを忘れていたよ・・・。
エクルの村の近くでフレイムウルフに襲われた時の事を話すと、案の定アランの雷が落ちた。
「お前は、あれほど危ないことをするなといっただろう!!」
「ごめんなさい・・・」
なんか、違う意味で修羅場がやってきたのだった・・・。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ご都合主義になってしまいますが、こうなりました。
思ったより修羅場じゃないかも・・・。




