薬師ギルドの予想外
前回の後のお話を少し・・・。
水盤エンデワースをチェックした後、ラリマーとコーラルに(一時的な)別れを告げ私達はローシェンナの宿に戻って来た。
すると、ベッド腰掛けた私の膝に珍しく自分から乗るアンバー。そしてさりげないフリで、尻尾を私に絡ませる。
相変わらずのツンデレ具合。
(あれでも)結構(コーラル達に)我慢してたもんね、えらいえらい!
頭をナデナデすると、満足そうにゴロゴロ鳴き出した。
スピネルはというと、こちらも珍しくベッドに飛び乗ったかと思うと私の左脇に伏せをし、さらに余った私の膝のスペースに頭を乗っけて上目遣いで見つめている。
思わず笑ってしまってから、空いていた左手でスピネルの頭をゆっくりと撫でた。
「うんうん、スピネルもいっぱい我慢してくれたのね、ありがとう!」
少しヘタレていたシッポが、静かに揺れている。
こうして就寝までの時間、私達はゆっくりと過ごしたのだった。
今回の始まりは、就寝して目覚めた翌日からです。
オーキッドの街は、エクルの村に比べると広く感じる。
さすがにエクルの村のように家の横に畑が存在する家というのは郊外にしか存在しないし、現代みたいな街ほど家や人口も多くはないんだけどね。
その分お店や施設も多いから、見て回るだけでもワクワクする。
アニタさんに鍵を預けるついでに、薬師ギルドについて聞いてみると、建物は中心よりやや北寄りの場所にあるとの事だったので、早速訪ねてみることにする。
地図アプリを立ち上げてからそこに検索機能がついている事に気づいたけれど、コミュニケーションも大事だから、これはこれでいいのだ!
夜明けの鐘が鳴ると町は動き始める。照明器具の発達がそれほどでもないせいか、みんな早寝早起きなんだよね。私が『踊るひばり亭』を出る頃には既に賑やかになっていた。
美味しそうなお惣菜なんか売ってるんだけど、朝食は既に食べたから我慢我慢。
15分ぐらい歩くと生産ギルドの横に別棟で立っている茶色の建物、それが私が目指す薬師ギルドらしい。入口には薬瓶と本のマーク。生産ギルドと違ってそれほど人の出入りがないみたいで、静かな図書館みたいな雰囲気だった。
そっと覗き込むと受付カウンターに一人の男性が座っていて、小難しそうな顔で本を読んでいた。
お仕事暇なのかな? あ、欠伸した。
問題はこの5歳児の身なりで、薬師ギルドが所属を認めてくれるかどうかなんだけど。・・・どう見たって子供のお使い、無理かなやっぱり。最悪諦めるけど、今現在の薬の技術レベルを知りたいんだよね。売られてる物だけじゃなくて水準が分かれば私が出しても良い基準も分かるし、下手に目をつけられないと思うし。神域製のはよほどじゃない限り出さないけどね・・・。考えてみたら、みるみる傷が治るって現代でも医療界に激震が走りそうだもん。品質低下の研究しなきゃ・・・。
「すみません」
勇気を出して初めての一歩。カウンターの下(見上げると受付の人が見えないんだけれども・・・)から声をかける。反応なし。スピネルがカウンターに向けて吠えた。
「ワン!」
「すみません! 薬師ギルドはここでいいんですよね?!」
私の後ろにいたスピネルと声には気づいたらしい受付の人が、辺りを伺う気配が感じられたけど覗き込むまでは至らないから、私に気づいてくれない。最初の関門がこれなのね・・・。
と、入口から初老の男性が入ってきて私に気づいて目が合う。優しい眼差しが柔らかく細められたので、釣られて私もにっこり笑ってしまった。
「おやおや、随分と可愛らしい薬師さんだ。こんにちは、薬師ギルドに何か用かな?」
「ヒューガさん? え? 可愛い薬師??」
受付の男性から怪訝そうな声がして、カウンター下にいる私にやっと気づいてくれた。
「!! な、なんで子どもがこんな所に?!」
「薬師ギルドに、登録、したいんですけど、何歳からですか?」
首が疲れるほど仰ぎ見て、男性に伝える。すると二人共目を丸くさせてしまった。まぁ、当然の反応だよね・・・。
「ここは子どもの遊び場じゃない、帰れ」
受付の男性が言い放つ。
う・・・、冷たいけど言いたい事は解る。私が大人だったら似たような反応するもの、言い方はもっと柔らかいけどね!
それよりも、アンバーとスピネルからの殺気が半端ない。受付の男性がちょっとビビってる。
「まぁまぁロベルト君、そんな言い方をしなくても。お嬢さん、どうして薬師ギルドに入りたいんだい?」
ヒューガと呼ばれた初老の男性が私の目線の屈んでくれて、優しく聞いてくれる。子どもの私に紳士の対応、なんて素敵なおじ様なんだろう。
「薬は作れるから、オーキッドの街で、売ろうと思ったの。登録しなくても、売っていいの?」
「おや、こんなに小さいのに凄いんだね。でも、大人はいないのかい? お嬢さん一人で?」
素直に頷くと、じっと私の目を見詰めていたヒューガさんが少し考え込み始めた。そして立ち上がると、ロベルト君(受付)に向き合う。
「ロベルト君、私に免じてこの子を登録してくれないかな? もちろん私が責任を持って面倒を見て、キチンとした教育もしよう」
「え?!! ヒューガさんがですか?!!」
ロベルト君が大声を出す。ヒューガさんってもしかしてそれなりの実力のある人なんだろうか?
何やら話をしているヒューガさんをこっそり鑑定してみる。
ヒューガ・メイソン 男(48歳)
薬師(薬師ギルド所属)
(元薬師ギルド長)
筋力 18/50
器用 15/50
耐久 15/50
敏捷 15/50
知力 25/50
精神 25/50
魅力 20/50
幸運 15/50
HP 313/313
MP 560/560
《クラス》
戦士 Lv. 4
薬師 Lv. 10
商人 Lv. 6
料理人 Lv. 3
《アクティブスキル》
生活魔法 Lv.8
《パッシブスキル》
天性の薬師(調薬成功率+10%)
あ、あれ? 元薬師ギルド長って、何ですか??!
現在のギルド長じゃなくても、それなりに発言力とかありそうなプロフィールなんですけど?! なんでこんな人が私のフォローするの??
混乱している私をよそに、話がまとまったらしいヒューガさんは私に目線になって再び話しかけてくれた。
「登録してくれるそうだ、良かったねえ。身分を証明するものは持っているかい?」
「う、うん」
私は冒険者ギルドのカードを取り出すと、ヒューガさんに見せてからロベルト君に渡した。まだ不満そうな彼だったけれど、お仕事なのか素直に登録の手続きをしてくれる。
「全く、ヒューガさんが保証してくれたから登録するけど、本当なら10歳を超えないと出来ないんだからな? ヒューガさんにお礼言うんだぞ?」
「うん、ロベルト君も、ありがとう」
私がロベルト君と言った事に引っかかったらしく顔を上げたけれど、必殺『天使の笑顔』で黙らせる。
なんともバツの悪そうな表情のロベルトくんは照会石での私の登録も終え、冒険者ギルドカードと新たに作ってくれた薬師ギルドカードを手渡してくれた。
冒険者カードよりも更に濃い感じの緑色のカード。文字は黄色で書いて(打ち込んで?)ある。中心に指の先ぐらいの大きさの白い石が嵌め込まれていた。
ロベルト君はため息を一つ吐くと、居住まいを直して私に説明を始める。
「薬師ギルドは、人々の健康推進と医療技術・医薬品質向上を目的としたギルドだ。くれぐれも目先の利益に囚われて相場を荒らしたり、薬師ギルドの地位を落とすような行為はしないように。これは大前提だ。
本来なら誰かの弟子になってからここに登録に来るんだが・・・今回はヒューガさんがお前の師匠という事になる。迷惑かけるなよ?
あと、ギルド内のランクは石・銅・鉄・銀・金・魔法銀の順になっている。カードの真ん中に嵌められている物がそのランクだ。ミスリルクラスは王都の学院にでも行かないとなれないだろうが、せいぜい金属ランクに上がれるよう、がんばれ?」
上から目線のやる気のない励ましのお言葉をもらい、なんとか登録できたんだけど・・・。
いきなり私の師匠になってしまったヒューガさんは、柔らかい笑みを浮かべながら「少し待っていてくれるかい?」と持っていた袋から瓶をいくつか取り出し、ロベルトくんに渡していた。
いくつかやり取りをして、ヒューガさんが戻ってくる。
「それじゃあ急にこんな事になってしまって申し訳ないけれど、私についてきてくれるかな?」
ヒューガさんがそっと私に手をつないでくれて、薬師ギルドを出る。歩き始めるヒューガさんに、肩に乗っていたアンバーが警戒を強めていた。
『ご主人様、この男について行ってよろしいのですか? 身分も確かめずいきなりご主人様の師匠を受けるなど・・・!』
『確かにいきなりで驚いたけど・・・嫌な感じはしなかったんだよね、実際助かったわけだし』
『僕も悪い人ではないような気はするけど、ビックリだったよね』
スピネルは私の横を追従しながら、ヒューガさんを観察している。アンバーに頬を寄せて宥めながら、ヒューガさんを見上げると、穏やかな笑みを返してくれた。
「大丈夫だよ、私の店舗兼自宅に案内するだけだから。紹介しなければいけない人もいるしね」
愛想笑いを浮かべていたら、ふと過ぎった思いに一筋冷たい汗が背中を流れる。
アランに見つかったら、また叱られそうな気がする・・・。
流された事に少々後悔をしながら、私はヒューがさんに連れられて街の北の方へと向かったのであった。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。
キャパ少ないのに、またキャラクターを増やしてしまいました・・・(反省)




