慌ただしい帰還
今年最後の更新になります。
宿のマーキングを確認すると、私は2人を連れてリターンを唱え、久しぶりに神域へと戻ってきた。
玄関正面に降り立っって、それ程時間が経っていないにも関わらず懐かしさが込み上げてくることに少し驚く。けれど時間が限られているのでまず先にやらなければいけない作業に取り掛かった。
「スピネル、アンバーと一緒にローシェンナで採取した薬草を植え付けしてきてくれる? 後で見にいくから」
「はい、ご主人様」
薬草は2人に任せてから、私はインベントリーに残っている家畜の種の内の二個を取り出す。それを前回同様に畑の空いているスペースに穴を掘って埋め、お水をたっぷりあげてから膝まづいて手を組むと、目を閉じてゆっくりと魔力を注いだ。
「大きな耳が可愛いフェネックスと、グレーでぽわぽわした羽がラブリーなサバクミミズクをお願いします。アンバーとスピネルの代わりができるような能力にしてください。あ、二人が男の子だったから今度は女の子がいいかも。私と意思疎通ができて人化できて、自分の身を守れるくらいには強くなってて欲しいです。でも女の子なら守られる子でもいいのかな?」
目を開けて、埋められた家畜の種達を見つめる。
アンバーとスピネルは私に付いてきてくれたから、神域の管理ができてないことが心苦しかったんだよね・・・。まあ家の中はともかく、スピネル担当の畑とか収穫したり薬草の面倒を見たりしなきゃだし、アンバーみたいに食材加工とか出来る子に育ってくれたらとっても嬉しい。
でもよく考えるとフェネックスとかサバクミミズクって家畜じゃないよね?! そういう事を言ったらスピネルやアンバーだって家畜っていうよりはペット? でも家のために役に立ってくれる動物って括りなら、家畜なんだろうか・・・。
考え出すとキリがないので、深くは考えないようにする。できちゃうんだから、許容範囲なのよ、これもきっと女神さま仕様なのよ!
時間のかかる要件を終えると、家の中の二階に上がって私の部屋の水盤に向かう。
上から見つめたエンデワースの様子は私が出た時とほとんど変わりなく、そこに静かに佇んでいた。土地や自然が荒れている様子もなく、平和に世界が動いている。聖獣の島も穏やかだったので、竜とか妖精とかも元気?に生活しているのだろう。良かった良かった。
それからベランダに出て温室にあった植木鉢をいくつかリュックに仕舞う。
次に一階の錬金部屋?に向かう。部屋に入ってから棚に置かれていた錬金道具を手に取ると確認しながらリュックの中にしまう。
普段の錬金は錬金魔法を使っているために乳鉢とかフラスコ?とかそういうものは全く一切使っていなかったのだが、もしローシェンナで薬屋をするのならば、形だけでも置いておかないと明らかに怪しまれかねないと思ったからだ。
ついでに隣の棚に並べてあった本を手に取る。中は真っ白だったからノート替わりに使おうと思ったのだが、開いてみたら文字が浮かび上がっていた。
・マジョラ ーーー 丸くて大きな葉と赤紫の房状の実が成り、その実が毒消し(即効性)に用いられる
・チャービナ ーーー ギザギザとした細長い葉を持ち、小さな黄色い花が咲く。葉が体力回復剤に用いられる。
・メグルク ーーー 2メートル程の高さに成長する落葉樹で、赤茶色の菱形の葉が茂る。数年に一度青い実が成り、その実が魔力回復剤に用いられる。
・パルムトロー ーーー シダ状の葉で赤い実が付く。実が毒消し(遅効性)に用いられる。
・ローラル ーーー 柔らかい楕円状の細長い葉が茂り、白く小さな花が咲く。葉が傷薬に用いられる。
なんか、エンデワース(ローシェンナ編)の薬草図鑑になってる??
もしかして、ここの白い本って私がエンデワースで知ったことが記録されていくのかな。ログみたいな気がしないでもないけど、そんな気がする。なるほど、だから真っ白だったのか・・・。
そうと分かったらここの本はノートには使えないので、棚に再び仕舞っておく。仕方がない、女神様にもらった筆記用具を使おう。
家の中での重要件は終えたので、アンバーとスピネルが頑張っている畑に向かう。その途中で水の湧き出ている石鉢の中に月光石を入れておいた。碧海の森にあったあの泉ほど清廉かどうかは分からないけど、見つけた時に泉の中にあったからその方が月光石の状態も良い気がしたから。実際に調べてないから実験みたいなものだね、効果があるかどうかは謎です。
「ご主人様! 植え付け終わったよ~」
ボーダーコリーのスピネルが尻尾をフリフリ出迎えてくれた。アンバーは興味深そうに薬草に向かってフンフンと匂いを嗅いでいる。何種類か手に入れた薬草はエンデワース製なので、はたして神域で育てたらどうなるのか、興味津々である。エンデワースの薬草で作った毒消しに神域の林檎を混ぜたらランクもレベルも上がっていたので、何らかの変化があると思っている。後は・・・。
「スピネル、アンバー、この植木鉢に畑の土を入れてくれる? エンデワースで薬草を少し育ててみようかと思って」
そう言って先ほど温室から持ってきた植木鉢を取り出す。これとは別にエンデワースの土を入れた植木鉢で同じ薬草を育ててみて、比べてみたいのだ。
三人で数個の植木鉢に土を入れて溢れないようにしてから、またリュックに仕舞う。
時間が少し余ったので、キッチンに向かいパンや焼き菓子なんかを少し作ってタイムリミットになった。アンバーは味見のレモンタルトをゲットして珍しく機嫌が良い。
マーキングしておいたオーキッドの宿に戻り、普通に夕食を取った。アランは知り合いと呑み行ったらしく、ゴードンとヴィオラが同じテーブルについた。
今日のメニューはなんとホーン・ワイルドボアの肉と野菜の煮込み。
「市場に行ったら久しぶりに見かけたのよ。ちょっとお高いんだけど、すじ肉だったし奮発しちゃった♪」という宿の女将クレアさんが笑顔で教えてくれて、私以下一同が何とも言いようがない顔になる。
おそらくそのお肉を提供したのは私達です・・・。
お皿に盛られた煮込みと付け合せのマッシュポテト、それに黒い堅焼き煎餅パンを添えつつ夕食を頂く。クレアさんのご好意で、すじ肉の煮込みをスピネルたちにも提供してもらえた。良かったね~と二人と微笑み合って食べていると、ヴィオラに話しかけられた。
「それで、オーキッドの街はどうだったの? 随分興味深そうだったけど」
「えと、薬の相場とか種類? はちょっと解ったの。冒険するための必要経費、大変ね」
蕪と玉葱の甘さとすじ肉の蕩ける様な味わいがマッチしてとっても美味しいし、温まる。クレアさんもお料理上手で嬉しいです。
「だろう? だからお前がくれた薬は本当に助かったよ」
こそっとゴードンが答えてから、普通に話し始める。
「で、これからどうするんだ?」
「とりあえず、お金を貯めるの。冒険者の依頼、あるでしょ?」
「ホーン・ワイルドボア売った金が結構あるだろう、一体何を買うつもりなんだ?」
「薬屋さん。お店するのに、お金いるでしょう?」
「店を始めるのか?! 一体いくらすると思ってるんだよ」
「露店じゃだめなの?」
慌てる二人をよそに、んーと宙を見つめる。
「いくらかは分からないけど、いっぱい要るのは解るから、依頼こなして、お金貯めるの」
にっこり笑顔を見せる私に、ダメとは言えなくなった二人がもごもごする。
「大丈夫、薬草の採取や雑用してお金貯めて、露店からするの。今日噴水広場で薬の露店、見たよ。ドライハーブも買ったの」
と、早速購入したチャービナのドライハーブを出してみせる。私が件の薬を作ったのを薄々気付いているゴードンと、手助けはしたいけどどうしていいのか分からないヴィオラはお互いに顔を見合わせてから、軽くため息をついて苦笑いを浮かべた。
「危ない所には行かないようにしろよ?」
「何かあったら、すぐに言ってね?」
「うんうん」
良いお返事をして夕食を終えると、部屋に戻った。部屋の内鍵を閉めて念のために椅子で内開きのドアにバリケードをしておいてから、また神域に帰る事にした。明日にはまたローシェンナでやらなければいけない事もあるので、寝るまでの時間で出来るだけの事はしたい。
家畜の種の事も気になるし。良い子に育ってくれてるといいなぁ。
そうして私は再び神域へと帰還した。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今年は本当にありがとうございました。来年も皆さんにとって、良い年でありますように…。




