水辺に集うもの
少しだけ、グロい表現が出てきます。
「旨い・・・」
ポトフを一口すすると、ゴードンが感心したように声を上げた。
干し肉を出汁に使ったことが幸を奏したようで、スピネルやアンバーに至っては夢中で食べている。やっぱり褒められると嬉しいので、満面の笑みで「ありがとう」と返した私は、焼きたての魚に齧り付いた。
熱いけど香ばしくて、淡白な白身の味にお塩効いてて美味しい♪ たまにはキャンプ料理もいいな~。そのうちダッチオーブンも作っちゃおうかな?
揚げ焼きパンも好評で、あんなにパンを嫌がっていたアンバーが独占しそうな勢いで食べていく。ゴードンもひとくち食べて「ほう?」と声を上げていた。少し甘くしたからお菓子みたいになってるけど、炭水化物だからいいよね?
あっという間に鍋のポトフも完食し、ヴィオラが
「ジーナちゃん、もし良かったら私にも・・・」
とお椀を持ってきた時点で、すでにゴードンさんに残り少なかったお代わりを盛った所だった。ワナワナと震えたヴィオラが半べそをかいた。
「私も食べたかったのにーーー!!!」
「すまん・・・」
そう言いながらもゴードンはヴィオラに譲らなかったので、気に入ってもらえたみたい。
ルタさんの料理がどうだったのかは分からなかったけれど、アランにまで朝食の依頼を受けたので、多分・・・そういう事なんだと思う。
後片付けをした後、各自焚き火の周囲で就寝の準備をしてくつろぐ。
この周辺は比較的安全な場所らしいのだが、さすがに何もしないわけにもいかず火の番を兼ねて見張りの順番も決めた。私も一応見張りに参加するべく主張したのだけれど、(見た目が)幼児なのでやんわりと断られ、代わりにスピネルがスカウトされた。さすがにスピネルだけというのもまずいので、誰かの補助をすることになるらしい。
本当はアンバーも索敵とか使える上に、ちゃんと戦えばスピネルに勝るとも劣らない(アンバー談)のだが、本人が自己主張せずしかも私の膝の上で丸まっているので、何も言わないことにした。
基本的にスピネルは(私に余裕があれば)他の人にも手を貸したりはするけど、アンバーは私のお願い(命令?)がない限り動かない。これで良いのだろうかと思わないでもないけれど、それだけ私を慕ってくれているのかとも思えるのでちょっと嬉しい。
アンバーの頭から背中をゆっくり撫でると、嬉しそうに目を細めてゴロゴロ喉を鳴らした。現実ではペットを飼えないので、モフモフを撫でられるのは嬉しい上に癒される。調子に乗ってアンバーをゴロゴロ言わせていると、ルタさんの馬を見に行っていたスピネルが戻ってきて焼きもちを焼いたのか鼻面を押し付けてきた。その目が『僕も撫でて』と言っているので、今度はスピネルの頭を抱きしめてモフり倒す。アンバーとはまた違った毛並みで気持ちいい。
見張りの順番はヴィオラ → ゴードン → アラン の順でお願いして、残りの人は配られた毛布を被って横になった。因みにルタさんは明日も御者として頑張ってもらわなければいけないので、当番から外して馬のそばできちんとお休みして頂いている。
私は大きめの毛布を半分に折り、半分を下に敷いて潜ってみた。気休めにしかならないけれど、毛布一枚だけの他の人に比べればマシだよね。さらにこっそりと馬車の中で使っていた体を軽く浮かせた技術?を発動させた。私の技術なのか、マントの技術なのかは判らないけど、明日起きた時に体が痛くなければいいのだ。因みにスピネルは私の枕と化し、アンバーは私の顔の前に陣取っている。何気に負けず嫌いなアンバー・・・。
就寝して、どれぐらい経った頃だろうか。
枕になっていたスピネルがピクリと反応して私を起こす。無意識に頭をずらしてスピネルから離れると、スピネルが立ち上がって動く気配がした。目をこすりながら上半身を起こしてスピネルの方を見ると、担当のゴードンが焚き火に枝を足していたのか驚いたように見つめていた。
「何か気配がしたのか?」
念の為に小さな声でゴードンがスピネルに尋ねるが、スピネルは気になった方角をじっと見つめ耳をピンと立てているだけで、何も答えない。
いつの間にアンバーも起きたのか、スピネルと同じ方向を見つめ、尻尾をパタッパタッと左右に振って警戒している。
『水場に動物が近づいています、反応は5つ。草食動物のようですが・・・まずいですね。肉食動物が来るかもしれません』
アンバーの言葉に私も索敵すると、黄色い反応が5つ、しばらく離れて1つ赤い反応があった。
『もう既に来てる。何かは判らないけど狙ってるみたい』
私の念話にスピネルが更にその方向を警戒する。スピネルの様子にゴードンも立ち上がって体制を低くし、目を凝らした。
「動物が近づいてるみたい」
「・・・そうか、水場だから他の動物も来るんだろうが、それを狙って【角猪】が来る可能性もあるからな。一応皆を起こすか」
ゴードンがこっそりとアラン達に近づいている間に【角猪】をアプリで検索してみた。と、その名の通り額の辺りに角のある猪で、体長は2メートル程。日本では雑食性の動物なのだがどうやらエンデワースでは肉食獣に該当するらしい。魔物ではない分この間戦った【フレイムウルフ】よりは弱いが、それでもなかなか侮れないスペックを持っていると書いてある。確かに角を向けられて特攻されると、当たったら痛いではすまなさそうだね・・・。一般人がホーンワイルドボアに襲われて大怪我をしたという話は珍しくないらしい。
『スピネルどんな感じ? 私も出たほうがいい?』
『追い払うだけなら、僕一人で十分』
『追い払うなら?』
『食料として確保するなら、ちょっと時間がかかるかもしれない』
『食べるの?! ・・・ああ、動物だから消えないんだ』
少しだけ体制を低くして、スピネルがこちらを見つめる。尻尾を振っているところを見ると、結構余裕らしい。
『猪ですので、豚肉に近いのかもしれませんね。肉食ですので臭みがあるかもしれませんが』
アンバーも補足してくれる。確かにぼたん肉って肉に癖があるから味噌仕立てなのが多いんだよね。豚肉が癖がなさすぎるんだよ、だから美味しく食べられて応用も効くんだけど。でも、試してみる価値はある。上手くいけば朝食に出せるし、保存食が増えるかもしれない。念の為にゴードンに聞いてみる。
「ゴードン、【ホーンワイルドボア】って、食べる?」
「やはりあいつがいるのか?!」
「判んない。いるなら、スピネルが頑張ってくれる、かも」
「力があるから捕まえるのは骨なんだが、野性味溢れるあの味はなかなか出会えるものじゃない。オーキッドの街で売りに出したら、良い値がつくぞ」
起こされたアランが、剣を準備しつつもノリノリで代わりに話してくれる。まだ【ホーンワイルドボア】と確定したわけじゃないけど、もしそうなら食料として確保が決定になった。
普通に侮ってはいけない相手なので、警戒して焚き火の火も消した。幸いにも風下なので動物達にはまだ気づかれていないようだ。
暗がりの中目を凝らして見つめていると、ガサガサと草をかき分ける音がしてなにか白い物が顔を出した。よく見るとうさぎのようで、長い耳が警戒していろんな方向に向けられている。暫くしてその後ろからわらわらと残りのうさぎ?が顔を出した。耳をそばだてつつも、水辺に寄って口をつけて飲んでいる。
【飛び兎】だとアプリが教えてくれたそれは、小型の草食動物なのだが脚力が半端なく、その蹴りは当たり所が悪いと骨折する程らしい。食料としては一般的で、鶏肉のような味だという。私としては、危険がなければ食料も足りてるしわざわざ確保するつもりもないんだけど、ルタさんが興味を示した(彼の好物らしい)。でもあくまで撃退するのは【ホーンワイルドボア】?なので、【飛び兎】はあくまでもおまけである事を皆で確認しあい、息を殺して水辺を見つめた。
【ジャンプラビット】が水を飲み始めてしばらく、そばだてていた耳がピクっと反応し水から顔を上げてその方向を見た。
途端にダダダっと走る音が聞こえたかと思うと、あっという間もなく逃げ遅れた一匹の【ジャンプラビット】が跳ね上げられて空を舞う。
水しぶきが上がり、薄暗がりの中で大きな黒い影が水辺の浅い場所をバシャバシャと突っ込んできた。勢いを殺しつつ方向を変えた黒い影は、舞い落ちた【ジャンプラビット】に更に向かって行き、落ちてピクピクとしているそれを突き出した角で跳ね上げる。
今度こそ反応のなくなったそれにゆっくりと近づいていくのは、大きな猪。しかもサイのような角がある姿だった。ためらうことなく反応のない【ジャンプラビット】に口を付け、『クチャ、クチャ・・・バキ・・・』と、暗がりの中でもグロさが伝わるような咀嚼音が聞こえる。
食事中の黒い影が【ホーンワイルドボア】である事を確認し、顔を顰めつつも皆で目を合わせて頷いた。
『私が先に狙う?』
『いいえ、僕一人でいけると思う。ご主人様はここにいて』
『気をつけてね』
『はい』
私の応援を受けて体制を低くしていたスピネル。タタっと助走をつけると軽々と跳躍し、【ホーンワイルドボア】に飛びかかった。紙一重でそれを躱した【ホーンワイルドボア】は、口から血を滴らせながらスピネルに対峙する。【ホーンワイルドボア】の戦い方からして、距離を取ると勢いをつけて突進してくるので、中距離で隙をみて攻撃するしかない。毛皮も丈夫そうで、スピネルの牙が簡単には効きそうにないようにも見えた。
私にも何かできないかな? ハラハラと、戦うスピネルと【ホーンワイルドボア】を見つめながらステータスやアプリを検索してみるけど、生活魔法なんて攻撃に効くはずもないし・・・あ!
一つひらめいた事があった。出来るかどうかは分からないけれど、やってみる価値はある。
『アンバー、前に出るからフォローお願い』
『はい、ご主人様!』
『スピネル、ちょっと罠仕掛けるから、引っかからないようにね?』
『はい?!』
スピネルの返事を待たずに、そっと茂みをかき分けて前に出る。そばにいたヴィオラに驚かれて捕まりかけたけどアンバーに任せ、水辺の対岸にいる視線の先の【ホーンワイルドボア】の足元を見た。ゆっくりと呼吸を意識しながら、地面に右の手のひらを当てる。
どうか、上手くいきますように。
スピネルが少し離れて『距離をとった』と同時に、手のひらに魔力を集中させた。
最後まで読んで頂いて、ありがとうございます。
サブタイトルがちょっと納得がいかなくて、もしかしたら変更するかもしれません。
本来なら番号だけ振っても良かったのですが、タイトルで大体の内容が分かる方が読みやすい気がして、私はつけてます。




