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第七章 花を置く者

旅芸人の野営火は、三日続いた。


老人は毎夜、その火のそばに寄った。寄るつもりで行ったことは、一度もなかった。墓所からの帰り道に火があり、足が止まり、気づくと火のそばにいた。旅芸人は毎回、老人が来ることを予測していたような顔をして、しかし来たことを大げさに扱わなかった。それが老人には、悪くなかった。


三日目の夜、旅芸人は言った。

「明日、トライコン亭で歌う。来るか」


「考える」


「それは来るということだ」

老人は否定しなかった。否定できなかった、という方が正確だった。



翌日の昼過ぎ、老人がトライコン亭へ入ると、食堂はいつもより人が多かった。旅芸人が歌うという話が、近隣に広まっていたらしかった。老人は隅の席を確保した。コレットが水を持ってきた。

「来ましたね」


コレットは言った。

「通りかかった」


「毎日通りかかってますね」

老人は水を飲んだ。

コレットは少しの間、老人の隣に立っていた。何かを言いたそうにして、言わなかった。それから、また別の客の対応へ行った。


旅芸人は昼過ぎから歌い始めた。

最初の数曲は、軽い歌だった。旅の歌、酒の歌、道化じみた恋の歌。食堂の客が、少しずつ解れていくのが分かった。旅芸人はその解れ方を見ながら、次の歌を選んでいた。老人には、その計算が見えた。計算しながら歌う者の、目の動き方があった。


四曲目に、王女の歌が来た。


食堂が、静かになった。

完全な静寂ではなかった。杯を置く音、椅子の軋み、遠くの厨房の気配。しかしそれまでの賑わいと比べると、明確に、空気が変わった。

旅芸人は歌った。

老人の知っている節だった。しかし今日の歌は、老人がこれまで聞いたものより少し長かった。新しい節が、加わっていた。


  騎士よ剣を置け、花を持て

  死者を墓に閉じ込めるな

  雪の下に眠る種よ

  誰かの春を待っておれ


客の何人かが、顔を上げた。知っている歌だと分かる顔と、初めて聞く顔が、混じっていた。老人は旅芸人を見た。旅芸人は歌いながら、一度だけ老人の方を見た。見て、視線を客席全体へ戻した。


歌が終わった。

食堂に、短い沈黙があった。それから、拍手が来た。大きくはなかったが、本物だった。

老人は、拍手をしなかった。

できなかった、というより、する必要を感じなかった。代わりに、水を飲んだ。



旅芸人が歌い終えて、客が少し戻り始めた頃、コレットが老人の席へ来た。今度は仕事の顔ではなかった。

「あの、聞いても良いですか」

コレットは立ったまま言った。


「聞け」

「旅芸人さんが歌った、王女様の歌。新しい節がありましたよね。雪の下の種、というところ」

「あった」

「あれ、私が言った言葉なんです」


老人は、コレットを見た。


コレットは少し赤くなっていた。恥ずかしいのか、それとも別の何かなのか、判然としなかった。

「旅芸人さんに、花を置くことについて聞かれたとき、私が言ったんです。種みたいなものだと思ってるって」


「種みたいなもの」

「はい。冬に花を置いても、すぐ枯れます。でも、置かないよりはいいと思って。土の下の種みたいに、いつか春になったとき、何かになるかもしれないと思って」


老人は、コレットを見ていた。


十二か三の少女が、そういうことを考えていた。考えて、花を置いていた。

「お前が置いていたのか」

老人は言った。

コレットは頷いた。


「いつから」


「二年くらい前から。宿のお客さんが、あそこに名前のない石があると話していて。それで見に行ったら、誰も来ていない石があって」

「誰も来ていないと思ったのか」

「あの頃は、来ていませんでしたよ。私が置き始めて、しばらくして、足跡があるようになりました。誰かが来るようになったのは、わりと最近のことです」


老人は、何も言わなかった。

コレットが置き始めた。老人が来る前から、コレットはあの石の前にいた。老人が王女を独占していたと思っていた場所に、コレットは先にいた。


「なぜあの石が王女の石だと分かった」

「分からなかったです。今も確かではないです。ただ」

コレットは少し迷うように間を置いた。

「名前のない石で、でも誰かがそこに置こうと思って置いた石で、王家の墓所の外れにあって。政変のことを考えると、だいたい想像がつきました。子供でも、なんとなく」


老人は、窓の外を見た。

街道に、午後の光があった。

「旅芸人に聞かれたとき、正直に話したのか」


「はい。隠すことじゃないと思ったので。王女様の石だとしたら、ちゃんと誰かに知ってほしかったし、歌になるなら、なってほしかった」

「歌になってほしかった」

「はい。名前がなくなっても、歌があれば、忘れられないと思うので」

老人は、コレットを見た。

名前がなくなっても、歌があれば忘れられない。

この少女は、王女の言葉を知らない。王女が名前より花がいいと言っていたことも、名前がついた途端に皆が同じものを見ると言っていたことも、知らない。しかしコレットは、別の経路から、似たところに辿り着いていた。


王女が嫌ったもの——固定された名前、一つの意味——を、コレットも別の形で越えようとしていた。

「よく、あの石を見に行くのか」

老人は聞いた。

「週に一度くらいです。花を持って。宿の裏の棚に、冬でも少し育てているので」

「棚で育てた花か」

「はい。白い小さい花で、名前は知らないんですけど。日陰でも育つので、ずっと前から育てていて」


老人は、花弁の感触を思った。

指の先で触れた、冷たい花弁を。冷たかったが、形があった。棚で育てられた花が、雪の中に立っていた。

「一つ聞かせてくれ」


老人は言った。


「はい」

「なぜ宿を離れて、あそこへ行くのか」


コレットは少し考えた。


「行った方がいいと思うから、です」

「誰かに言われたわけではないのか」

「誰にも言われていません。ただ、行かない方がいいという理由も、ないので」


老人は、その答えを聞いた。


行かない方がいいという理由がないから、行く。それだけのことだった。義務でもなく、使命でもなく、ただ行った方がいいと思う、という理由で、この少女は週に一度、宿を出て、街道を歩き、名のない石の前に花を置いていた。

二年間。

老人が来るより、先から。


「分かった」


老人は言った。それだけ言った。


コレットは何かを待っているように少しの間立っていたが、老人がそれ以上言わないと分かると、他の客の対応へ行った。

老人は、食堂を見た。


旅芸人が、客の一人と話していた。笑いながら、何かを話していた。この者は人と話すことに慣れていた。慣れ方が、職業的だった。しかしだからといって、嘘ばかりついているわけでもなかった。


老人は席を立った。


旅芸人の傍らを通るとき、旅芸人は客との話を続けながら、片手を軽く挙げた。老人はそれを見た。見て、特に何もしなかった。それで十分だった。


外へ出た。


午後の光が、街道にあった。

老人は歩き始めた。今日は墓所の方角へではなく、来た方向とは別の方角へ足が向いた。

街道沿いに、小さな商いをしている者がいないか、老人は探した。

花を売っている者を、探した。

コレットの棚の花は、コレットのものだった。老人が持っていくべき花は、老人が自分で用意するべきだった。

春になれば、道端に出てくるものがあるかもしれなかった。しかし今は冬だった。


老人は歩いた。

見つかるかどうかは、分からなかった。しかし探すことは、できた。

それで十分だと、老人は思った。

今日のところは。

---

*(第七章、了)*


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