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補章二 帰路の町で

知らせを聞いたのは、帰路の途中だった。


小さな町の宿屋だった。旅人たちが酒を飲みながら話していた。政変のこと、新しい体制のこと、そして——王女のことを。

「歌の姫様が亡くなったそうだ」

誰かが言った。


老騎士は、杯を持ったまま、動かなかった。

動けなかった、というより、動く必要がなかった。動いても、何も変わらなかった。

間に合わなかった。

結局のところ石のようにその場で固まっていたというのが正しいのかもしれない。

それだけだった。


仇は滅ぼした。フェルを失いながら、滅ぼした。しかし王女には間に合わなかった。

老騎士は杯を置いた。

中身は飲まなかった。飲む気になれなかった。飲んでも、何も変わらなかった。

その夜、老騎士は宿を出た。

どこへ行くかは、決めていなかった。決める気力がなかった。足が向く方向へ、歩いた。

空に、星があった。

フェルがいた頃は、夜道でも怖くなかった。白い毛並みが、闇の中でも光を持っていた。今は、その光がなかった。

老騎士は歩いた。

町の外へ出た。街道を歩いた。どこへ向かっているのかが、分からなかった。分からないまま、歩いた。

夜が明けた。

老騎士は、別の町に入っていた。

その町で、老騎士は三日間、動けなかった。

宿の一室で、天井を見ていた。

何も考えなかった。考えようとすると、フェルの顔が来た。王女の顔が来た。母の顔が来た。村の炎が来た。

それらを、老騎士は受け取らなかった。受け取れなかった。

四日目の朝、腹が鳴った。

それで起き上がった。

腹が鳴ったから起き上がった。それだけだった。他に理由はなかった。

食堂へ降りた。何かを注文した。何を注文したかは、覚えていなかった。出てきたものを、食べた。

食べながら、窓の外を見た。

町の通りだった。朝の時間だった。人が動いていた。

老騎士は、その人々を、見た。

見るつもりはなかった。ただ、窓の外に人がいた。

一人の老婆が、荷物を持って歩いていた。重そうだった。その横を、若い男が通りかかった。男は老婆を見て、足を止めた。荷物を持つか、と聞いた。老婆は少し遠慮した。男は構わず持った。二人は並んで歩いた。

老騎士は、その場面を見た。

見て、何かを思った。

何を思ったかが、すぐには分からなかった。


——皆、同じ顔をしているわ。

王女の声が、来た。

市場で言っていた言葉だった。値切る顔も、立ち話をする顔も、同じ種類の真剣さだと。

老騎士は、窓の外の男を見た。

荷物を持った男の顔が、真剣だった。老婆を助けることに、真剣だった。大げさではなかった。当たり前のことをしている顔だった。しかしその顔は、王女が市場で見ていた顔と、同じ種類だった。

老騎士は、食事を続けた。

続けながら、窓の外を見ていた。

別の場面があった。

子供が転んだ。泥の中に転んだ。近くにいた女が、駆け寄った。自分の子ではないようだった。しかし駆け寄って、膝をついて、子供の顔を見た。怪我がないか確かめた。子供は泣いていた。女は何か言った。子供の泣き声が、少し小さくなった。

老騎士は、その場面も見た。

王女が見ていたものが、ここにもあった。

名もなき者たちの、名もなき善意が。声を上げない誠実さが。

老騎士は食事を終えた。

勘定を払って、外へ出た。

出るつもりはなかった。しかし足が、外へ向いた。

この足は、いつもこういう足だった。

その町に、老騎士は一月ほどいた。

投げやりのまま、いた。しかし投げやりなまま、毎日外へ出た。

出ると、必ず何かを見た。

市場で誰かが誰かに何かを渡していた。子供が老人の話を聞いていた。見知らぬ者同士が、道を教え合っていた。

どれも、小さなことだった。歌にもならない、記録にも残らない、名もないことだった。

しかし老騎士には、その小さなことが見えた。

見えるたびに、王女の声が来た。


——皆、同じ顔をしているわ。

王女は知っていた。こういう場所に、こういう人々がいることを。だから市場へ行きたがった。だから民のそばにいたかった。

王女の思想は、民衆の中に生きていた。

王女がいなくなっても、その思想が残した何かが、ここにあった。名前もなく、記録もなく、しかし確かに、あった。

老騎士は、それを見ていた。

見ているうちに、投げやりな気持ちが、少しずつ、別のものに変わっていった。

何に変わったかを、老騎士は正確には言えなかった。

ただ、見捨てられなかった。

この人々を。王女が愛したものを。


一月後、その町で、揉め事があった。

力のある者が、力のない者を脅していた。よくある話だった。しかし老騎士の足が、向いた。

いつものように、余計なことをした。

終わった後、老騎士は誰にも礼を言わせなかった。名前も言わなかった。ただ、その場を離れた。


次の町へ、歩いた。

次の町でも、見た。見て、また余計なことをした。

それを、繰り返した。

何年も、繰り返した。

名もなく。誰にも知られず。

音もなく燃えるものがある。

老騎士はその言葉を、まだ知らなかった。しかし老騎士がしていたことは、そういうことだった。

そうして長い年月の果てに、老騎士の足は、ある墓所の外れへ向いた。

名のない石があった。

老騎士は、その石の前に立った。

立って、動かなかった。

石は何も言わなかった。

しかし老騎士は、その日から、ここへ来ることをやめなかった。

足が、来た。

いつもそういう足だった。

---

*(補章二、了)*

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