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第十四章 そこは違う

旅芸人が、歌を作っていた。


老人が野営火のそばへ来たとき、旅芸人は楽器を持たずに、何かを書いていた。紙ではなかった。木の板に炭で、短い言葉を書いては消し、また書いていた。


「邪魔か」

老人は言った。

「邪魔ではない。座れ」

老人は火のそばに座った。今夜は地面が少し柔らかかった。雪が融け始めていた。まだ春ではなかったが、地面はそれを知っていた。

「何を書いている」

「新しい節だ。王女の歌の、最後の部分」

老人は旅芸人を見た。

「最後の部分」

「ああ。今まで作った節は、生きていた頃の王女だった。しかし歌には終わりが必要だ。最後の日のことを、どう歌うかを考えている」

老人は火を見た。

「素材はあるか」

「商人の話がある。政変の前後のことを話してくれた老人の話が。それと、各地で聞いた話が少し。しかし少ない。あの日のことを話せる者が、ほとんどいない」

「そうだな」

「あんたは知っているか」

旅芸人は聞いた。

老人は答えなかった。

旅芸人は板を見た。答えを待つ様子ではなかった。聞いたが、答えがなければそれで良いという様子だった。

「今作っている節を聞かせてもらえるか」

老人は言った。

旅芸人は少し驚いた顔をした。老人の方から聞くことは珍しかった。しかし驚きを長く持たず、板を老人の方へ向けた。

「まだ言葉だけだ。旋律はこれから合わせる」

老人は板を見た。

炭で書かれた文字は、粗かった。しかし読めた。


  囲まれた姫君は泣きながら倒れ

  誰も守れなかったその夜に


老人は、板を返した。

「そこは違う」

老人は言った。

旅芸人は老人を見た。

「どこが」

「泣きながら倒れた、という部分だ」

「違うのか」

「違う」

老人は、火を見た。

火は今夜も安定していた。旅芸人の野営火は、いつも安定していた。

「王女は泣かなかった」

老人は言った。

声が、少し低くなった。老人自身も気づかなかったが、低くなっていた。

「泣かなかったと、どこかで聞いたのか」

旅芸人は慎重に聞いた。

老人は少しの間、黙った。

長い沈黙だった。しかし旅芸人は待った。

「見ていた」

老人は言った。

それだけだった。

旅芸人は何も言わなかった。

老人は火を見ていた。

「あの夜」

老人は続けた。

「王女は囲まれた。私も、そこにいた」

旅芸人は、動かなかった。楽器も板も触れなかった。ただ老人を見ていた。

「助けた」

老人は言った。

「生きていたのか」

旅芸人が静かに言った。

「生きていた。あの夜は、生きていた」

「では、どうして」

「その後だ。政変は、あの夜だけではなかった。続いた。私がいない間に、続いた」

老人は、それだけ言った。

それ以上は言わなかった。言えなかった、というより、それ以上は今夜の言葉ではなかった。今夜言えるのは、そこまでだった。

旅芸人は、しばらく火を見ていた。

「王女は」

旅芸人は言った。

「泣かなかったなら、どんな顔をしていた」

老人は、その問いを聞いた。

どんな顔をしていたか。

老人は、あの夜を思った。思おうとして、長い年月の中で固めていた何かが、少し動いた。動くことに、痛みがあった。痛みがある、ということは、まだそこに何かがあるということだった。

「静かだった」

老人は言った。

「静かに、周りを見ていた。自分が囲まれていることを、知っていた。知っていて、落ち着いていた」

「落ち着いていた」

「落ち着きすぎていた。怖くないはずがなかった。しかし、そう見えなかった」

旅芸人は、その言葉を受け取った。

「覚悟していたのかもしれない」

「そう思う。商人の話と、合っていた」

旅芸人は板を持った。炭を手に取った。しかし書かなかった。

「この節は、作り直す」

旅芸人は言った。

「泣く姫君にはしない。しかし、どう歌うかは、もう少し考える」

「急がなくて良い」

「ああ」

老人は立ち上がろうとした。

「もう一つだけ」


旅芸人が言った。


老人は立つのを止めた。


「助けに行ったとき、あんたはどんな格好をしていたか」


老人は旅芸人を見た。


旅芸人は老人を見ていた。直接的な目だった。しかし攻めていなかった。ただ知りたかった。


「なぜそれを聞く」


「歌に入れるためではない。ただ知りたい」


老人は、少しの間、旅芸人を見ていた。


この旅芸人は、嘘をつくとき嘘をつく。しかし今は嘘をついていなかった。老人にはそれが分かった。


「騎士の格好だった」


老人は言った。


「あの頃は、まだ騎士だったので」


旅芸人は頷いた。


それ以上は聞かなかった。


老人は立ち上がった。火の向こうに、夜があった。今夜は月が出ていた。雪の少なくなった地面に、月の光があった。


「また来る」


老人は言った。


「ああ」


旅芸人は板を見ていた。


老人は野営火を離れた。


街道を歩きながら、老人は今夜言ったことを、持っていた。今まで言ったことのないことを、今夜言った。見ていた、と言った。そこにいた、と言った。助けた、と言った。


言葉にしたことが、消えるわけではなかった。


しかし言葉にしたことで、何かが少し、動いた。


長い年月、固まっていたものの中に、わずかな隙間ができた気がした。隙間は、寒かった。外の空気が入ってくるような感じがした。


寒かったが、窒息よりは良かった。


老人は歩いた。

トライコン亭の明かりが、遠くに見えた。

コレットが、まだ仕事をしているかもしれなかった。あるいはもう眠っているかもしれなかった。

どちらでも良かった。

今夜は、それで十分だった。

---

*(第十四章、了)*

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