神にできないことは何一つない
「どうせ私なんて……」
また、この口癖溢れてしまった。永野洸子、二十五歳。自信など全くない二十五歳だった。今日もSNSや転職サイトを見ながらビビってしまい、この口癖が溢れる。
元々優秀な姉と比較されて育った。姉は医者としてバリバリ働いていたが、洸子は成績も運動もパッとしない。それどころか幼い頃から幽霊や天使なども視え、親も不気味がり、私生活に支障があるぐらいだった。
就活もあまり頑張れず、結局、バイトしていたビジネスホテルでズルズルと働いていた。去年、正社員にはなれたが、給料はさほど変わらず、勤務時間も不規則。今も夜勤明けの朝、一人で自宅で呟いてる。
その時だった。部屋に気配を感じた。また幽霊か目に見えない存在かと思ったが、見たことないモノがいた。
それをモノと言ってもいいか謎。猫の幽霊っぽいが、天使のような羽をつけ、ミャオと鳴いてる。色はぶち猫だったが、可愛くはない。ぶさかわ系。明らかに見えない世界の存在だったが、口に何か咥えていた。
「え、なにこれ?」
クリスマスカードだった。ツリーがデザインされたカードだが、なぜか見えない存在、クリスマスカードなんて持っているのだろう?
「ミャー!」
しかも何かこれを見るように促している。カードをよく見ると……。
ルカによる福音書 1章37節より
神にできないことは何一つありません。
「え? 何この言葉?」
そういった瞬間、見えない存在、消えた。クリスマスカードも消えた。イタズラか。見えない存在、時々首を絞めたり、足を引っ張ったりするので、それに比べたら可愛いものだが、一体何だったんだ?
確かに今はクリスマス時期だが、あのカード何?
記憶を頼りにあの言葉を検索してみると、聖書のことばだと知った。しかも聖母マリアが処女で妊娠した前後の天使のセリフらしい。
「あの猫、キリスト教関連の子だった?」
見えない存在、いつも和風か日本人らしいルックスが多い。キリスト教関連のは初めてだったが、洸子にとっては日常茶飯事。特に驚かずに受け入れたが。
「しかし、神にできないことはないってすごいよなぁ……」
子どもの頃、見えない存在に願いを頼んだ記憶もあったが、代わりに生贄をよこせと凄まれたこともある。それに、その願いは管轄外だから他所に行けと言われたことも。そう思うと、この神様はかなり強そうだ。別格みたい。
「なんか私もそれぐらい自信持ちたいけれど……」
ふと、自信がなく、オドオドと「どうせ私なんて……」と言っていること、少し恥ずかしくなってきた。あの言葉ぐらいはっきと何でもできると言い切る強さ、少し羨ましい。眩しい。洸子には決してない要素だから。
「とりあえず、この口癖、ちょっと辞めてみようかぁ……?」
傲慢になる必要もないが、ずっとオドオドしているのも飽きてきた。
「ちょっとぐらいは胸張って生きていいかなぁ」
今はそんな気分。




