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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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自分に投げる石

 

 本当イライラする。働いても給料は上がらないし、税金と物価だけが上がる。


「何、あいつら」


 長崎洋平は呟く。仕事帰り、電車の中、座席に寝っ転がっているカップルがいた。いくら終電間際の時間帯とはいえ、マナー違反だ。あぁ、イライラする。結局、あくせく残業するより、こんな遊んでいる奴らのが得をしているんだ。


 かと言ってこの場で注意する勇気もない。四十半ばの洋平だったが、そこはブレーキがかかるが、戦場はSNSという架空空間に変えた。


 この様子をSNSに書き込んだら、なぜか知らないが共感を呼んだらしく、あっというまに何万といいねがついた。バズってしまった。普段は氷河期世代独身工場勤務の男の呟きしか書いていないので、過疎っていたのに。


 一部では叩かれたが、こんなふうに共感されると気分はいい。承認欲求、満杯に満たされる。


 その後も非常識な通行人、上司の理不尽なパワハラ、近所の生活保護者の怠惰さなどを投稿したら、何度もバズり、快感。それでも満杯だった承認欲求、なぜか減り続ける。もっと、もっと注目されたい。より過激で怒りに満ちた投稿しかできなくなった。全部他人を叩き、傷つけるもの。


「うん? どうして俺、こんな投稿ばっかりしていたんだ?」


 改めてSNSの投稿を読み返すと、何回もバズっているのに関わらず、なぜか虚しい。その時だった。DMが届いているに気づく。もう寝る前だったし無視しようと思ったが、送り主がメリークリスマスという名前だ。今の時期はクリスマスが近いとはいえ、なんだ?


 しかも中身を見ると、クリスマスカードの画像が添付されてる。赤と緑の派手なデザインのカードだったが、変なメッセージつき。


 ヨハネの福音書 8章7節より

 罪のない者だけが石をなげよ。


「は? 何これ? 説教か?」


 そういえばSNSでこんな言葉を見た事ある。確か芸能人の三股ゲス不倫の話題の時、インフルエンサーの誰かがこの言葉を引用しながら批判していた。確か聖書のことばだったはずだが。


「せ、説教かよ。俺が過激な投稿しているって注意したいのか? そんな聖書とか宗教だろ?」


 しかしその瞬間、急激に眠気が襲われた。夢も始まってしまう。


 変な夢だった。夢の中ではもう一人の星井洋平がいる。もう一人の洋平、ドッペルゲンガーか?


 なぜかもう一人の洋平は石を投げてた。


「こんな工場勤務のオッサン!」


 言葉と共に石も投げられた。


「冴えない独身男!」


 もう一つの石、肩に当たる。


「安月給!」


 また石が足へ。


「氷河期世代!」


 腰に石が。


「彼女いない=年齢!」


 首に石がぶつかる。


 自分に罵倒され、石も投げられてるこの状況、なんだ?


「毒親育ち!」


 そして一番大きな石を頭にぶつけられた瞬間、目が覚めた。


 ベッドから身体を起こすと、汗だくだった。顔も指先も冷え切り、動悸もする。


「なんだ、この夢は?」


 はっとした。ネットで他人を叩くこと、もしかしたら自傷行為だったか?


 他人を傷つけているようで、自分に石を投げていたのか?


 その証拠に承認欲求、全然満たされていない。すぐに乾いてしまう。虚しくなる。


「あぁ……」


 頭を抱えてしまう。他人にしている事=自分がしている事だったのか。だとしたら、今まで自分がしていたことは自傷行為。頭の中、血だらけの自分が浮かんでしまう。


「そうか……」


 本当は単に幸せになりたかっただけだ。それなのに、いつのまにか自分も他人も誰も幸せになれないことを選んでしまった。間違えた。失敗した。


 わからない。心のどこかで「自分なんて幸せになるべきじゃない」と思い込んでいたのかもしれない。


「あぁ……」


 それでも涙はでてこない。相変わらず承認欲求も満たされず、虚しいから。


 ふと、窓の外を見ると雪が降っていた。雪の白さが光みたいに見える。夜でもその白さがくっきり見える。


 とりあえず明日からは、少しだけ自分に優しくしてみるか。どうせ明日はクリスマスイブだ。そうすれば、きっと他人にも優しくなれる。

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