神の作品
今はクリスマス直前。街は大きなツリーやイルミネーションで華やかだったが、羽田美華子の顔が暗い。
「はーあ。結局、体重変わんないよ」
お風呂上がり、体重計に乗ってみたが、変化ナシ。最近、無理なダイエットをし、体調不良になってしまう程だったが、結局、失敗し、何も変わらなかった。顔だちもパッとしないし、SNSのインフルエンサーやモデルと比べ、ため息が出てくる。同じ大学生でも配信で稼いでいる子もいて、比較して落ち込む。
確かに、無理なダイエット中、見ず知らずの人に助けられ、外見だけじゃないってことはわかったけれど。
そんなことも考えつつ、体重計からおり、髪を乾かし、部屋で一休み。温かいカモミールティーを入れ、ちびちびと飲む。体調不良になった時、ハーブティーがいいと知り、毎日飲んでいた。林檎のようような匂いが心地いいが、ふと、テーブルの上を見ると、何かあるのに気づく。
チラシやメモ帳に紛れ見落としいたが、クリスマスカードがあった。変なクリスマスカードだ。赤と緑の派手なデザインだったが、妙な言葉つき。
エペソ人への手紙 2章10節より
私たちは神の作品であって、良いわざを行うためにキリスト・イエスにあって造られたのです。
「キリスト?」
確か宗教関連だ。クリスマスもキリスト教のお祭りだとは知っていたが、どういうことか。
前には似たようなカードをもらった。その時は丸めて捨ててしまったが、今になって急に気になってきた。それに神の作品って何?
人間は偶然に進化してできたはずだ。進化論が一般常識だ。神の創造論もあると大学の授業で聞いたが、教授は一部の宗教家たちの主張と言ってた。確か人間は神に造られ、生きる目的や使命もあるとかなんとか。
「だとしたら、何で私ってブスなの? 何で生まれつき美人がいるの? 不公平じゃん」
文句も出てくるが、なぜかこのカード、また捨てる気分にまれず、テーブルの上に放置。
それにそんな宗教的なことも考えたくないし、適当に動画サイトを見ていた。気分転換しようと思い見ていたのに、漫画原作を改悪したテレビドラマのCMが流れてきた。げんなりしてしまった。
「やっぱり映像化ってちゃんと原作通りに作って欲しいよ」
そう、つぶやいた時、またあのクリスマスカードと目があう。なぜか心臓がドキっとし、目が離せない。どうもこのカードから逃げられない気がする。誰が送ってきたか不明だが、この言葉の意味、なんだろう。
そういえば高校時代、クリスチャンという同級生がいた。その子だったら、何かわかる?
「名前は確か北沢翼だっけ。そうだ、翼だった。ちょっと連絡とってみる?」
さっそく翼のSNSに行き、メッセージを送った。
そして翌日、夕方、翼に会っていた。駅前のカフェの中だ。女性客でいっぱい。クリスマス限定のパンケーキやラテが目玉らしい。クマのキーホルダーもおまけで貰えるらしく、確かにこれは可愛い。
「可愛い!」
見た目はクールな雰囲気の翼だったが、クリスマス限定ラテの写真を撮り、キャッキャと言いながら写真を撮っていた。
ショートカットがよく似合う。服装もパンツスタイルのが板につき、高校時代は「タカラヅカ」とか「王子」というあだ名もついてたぐらいだ。半分は蔑称、半分は憧れという感じ。同級生の翼への評価は二分されていた。
「ところで何で美華子、私を呼んだの? ぶっちゃけ、あんまり絡みなかったよね?」
はしゃいでいた翼だったが、真顔になり聞いてきた。
「これ。なぜかうちに届いてたんだけど、心当たりある?」
美華子はさっそく本題を切り出す。例のカードを見せた。
「聖書だね」
「聖書の一説? 何これ、翼が送ってきたの?」
「えー、知らんし。そんなわざわざ聖書のカードなんて送る理由なくない?」
翼は目を丸くしていた。本当に知らないらしい。
「まあ、よくわかんないけど、クリスマス限定のパフェとかケーキ食べよ!」
それに翼、さらっと話題を流し、色々と注文してしまった。テーブルの上は甘いものでいっぱい。正直、体重計の数字が目に浮かび、一口も食べられない。生クリームやチョコレートのトッピングだけで、ニ時間以上の運動しないとカロリー消化できない。
「は? まさか、美華子、ダイエット中!?」
「そうだよ、悪い? 翼みたいに美人でも可愛くないし!」
翼に八つ当たりしてしまう。呼び出しておいてこの態度。自分でも嫌になってくる。なぜか原作通りに作らないテレビドラマを思い出す。まったくの謎だったが、翼はあのカードを見つめていた。
しばらく無言。沈黙。空気が重い。
それでも、その空気を破ったのは翼の方だった。
「本当はどんな女性も神様に似せて創造されているから美人なんだけど」
「何言ってるの?」
「そう、このカードの聖句通りだから。人間は神様の作品。本当は容姿だって完璧」
納得いかない。それでも翼は否定もしない。
「今やってるテレビドラマと一緒だよ。漫画原作クラッシャーみたいな存在がいるから。人類全員が本当の美しさ、わからなくなったんだよねー」
翼は独り言のように言うと、もりもりとケーキやパフェを食べていた。
「それは悪魔って存在かもしれないし、人間の悪心かもしれない。私も実は、甘いもん大好きなんだよね」
「嘘、そんな痩せてるのに?」
今度は美華子の目が丸くなる。どう見ても翼はモデル体型。
「だからジム行って運動してる。物流倉庫で男達と一緒に肉体労働もしてる。本当は怠けたいけど、悪い心と戦ってるわけ」
「そ、そうなんだ……」
「まあ、生まれつき痩せやすい人もいるけど、みんながみんなそうでもないよ? 美人だって変な男に引っ掛かったら台無しじゃん。安易に見た目だけで全部判断しない方がいい」
そう言ってまたケーキやパフェを食べる翼。ニコニコと笑顔でたのしそう。
あのカードの意味、結局わからない。でも、翼の笑顔を見ていたら、どうでも良くなってきた。それにもう、目の前の甘い匂いに耐えきれなくなってきたところ。
「さ、美華子も食べよ! もうクリスマスだし、全部ゼロカロリーだと思って食べよ!」
失礼な態度だったのに、翼は全然怒っていない。かえって心がちくってしてきた。こういう時、どうすればいいのだろう。
またあのクリスマスカードと目が合う。何かわからない。心のチクチクはもっと強くなってたが、今、できること、一つだけなら思いつく。
「翼、なんか八つ当たりしてごめんなさい。それに来てくれてありがとう」
たぶん、それが言えたらOK。そんな気がしていた。




