内面の美しさ
世の中はルッキズム。顔がいいってだけで、SNSで人気者になり、何千万円と稼げたりするらしい。
「げ、また体重増えてる。何これ?」
体重計の数字を見て目眩がしそう。羽田美華子、十九歳、大学生。体重計の数字、二重幅、エラ、歯並び、鼻筋……などルックスが気になって仕方ない年頃。
とはいえ、大学にはいかないと。体重計を下りると、メイクをした。こっちも憂鬱な作業だ。ちっとも可愛くなれた気がしないが、なんとか大学へ。
女子生徒の割合が多い文系の私大だ。全く偏差値は高くない。Fランギリギリ。美華も英文学をやっていたが、このAI時代で食える知識でもなく、生徒も年々減っているらしい。卒業生では結局、就職先が見つからず、看護師や介護士を目指す人も多いと聞き、さらに憂鬱。勉強も頭に入らず終了。
飲食店の皿洗いのバイトも終え、帰って来たのは日付けが変わる直前だ。次から次へとやってくる洗い物と格闘し、まるで戦争から帰ってきた兵士の気分だ。
「あー、疲れた。バ畜まっしぐらだわ」
もう汗でメイクもはげてる。髪もボサボサ。惨め。顔がいい子だったらSNSだけでバイト代の何倍も稼いでいる。大学も辞めパパ活している友達も知っている。顔がいいってだけで、こんなにも人生に差があると思うと、ため息が出てくる。
「はーあ」
もうすぐクリスマス。郵便受けには宅配ピザの広告ばかりで、ウンザリとしてきたが、中に変わったものがあるのに気づく。
「何これ。カード?」
家に帰ってじっくり見ると、クリスマスカードだった。赤と緑のデザインが派手だ。それだけだったら何の変哲もないが、変な言葉が書いてある。
1ペテロ 3章3から4節より
あなたがたの装いは、外側の髪の毛や金の装飾、着る物の華美さに頼るのではなく、心の奥に秘めたやさしい、穏やかな霊、神の前に宝となる内面の美しさを飾りとしなさい。
「何これ。っていうか、説教でもされてるの、私」
ルッキズムの世に絶望感いっぱい。そんな自分の心、誰かが見て説教でも送って来た?
「何言ってるの。やっぱり顔がいいのが一番じゃん」
そのカード、丸めて捨てた。やっぱり、外見より内面の美しさとか信じない。面接でも清潔感出せっていう。外見は内面を表すっていうSNSインフルエンサーもいるじゃないか。
「そうだよ。そんなこと、信じないし」
宅配ピザの広告も丸めて捨て、ダイエットすることにした。クリスマスまでサラダと飲料だけで過ごそう。飲料は水とダイエットコーラ。どっちもゼロカロリーだから大丈夫。
こうしてダイエットもはじめたが、頭がぼーっとし、大学の授業もろくに頭に入らない。洗い場のバイトでも、何枚か皿を割ってしまった。
それでも、理想の体重になりたい。痩せたい。ルッキズムの社会に適合したい。空腹でフラフラになりながらも、バイト先の飲食店を後にし、駅の方へ。
駅前は大きなクリスマスツリーが飾られ、賑やか。ストリートミュージシャンもいた。定番のクリスマスソングが演奏され、華やかだ。十二月の風があまり冷たく感じない程。
しかし、頭のフラフラ感はさらに酷くなってきた。お腹も痛く、立っていられない。昨日、ダイエットコーラなんて一気飲みしたからだろうか。ぐっと胃酸が出て来て、吐きそう。
もう我慢できなくなり、その場にうずくまり、少し吐いてしまった。目の前が真っ白になり、汗もダラダラ出てくる。
「あなた、大丈夫?」
「吐いた? 大丈夫、俺が片付けるぞ」
「このハンカチ使って!」
「これ、ミネラルウォーター!」
「救急車呼ぶ?」
「お家に連絡しようか?」
気づくと、街を歩いていた人が次々と手を差し伸べてくれた。近くのベンチまで連れて行ってくれ、水やカイロ、膝掛けまでくれる。
救急車を呼ぶほどではなかったが、おかげで気分が良くなってきた。
見ず知らずの優しい人達だ。年齢も性別もバラバラだったのに、助けてくれた。また視界が滲んできた。これは体調不良のせいじゃない。
「あ、みなさん、ありがとう……」
そうお礼を言うのが精一杯だ。声も震え、涙声になってしまうが、お礼だけは言えた。どうしても言いたかった。
外見とか、体重計の数字とかどうでも良くなってきた。あんなに執着していたのに。今はあのクリスマスカードの言葉通りな気もする。




