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不思議なクリスマスカード  作者: 地野千塩


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光あれ

 

 より売れるもの。より受けるもの。よりクリックされるもの。たぶん、それが一番の正義だ。芸術なんて独りよがりだし。


 雨宮康二はそう思っていた。高校生の頃からは夢は作家だったが、当時、二十年前から出版不況だった。だったら売れるものが正義。康二は小説創作論と同時にマーケティングや心理学も学び、あっという間にデビュー。高校生作家と騒がれても慢心せず、コツコツと作品を作り、結果も出していたが。


「なんだよ、このクソ台本。俺の原作と全然、違うじゃないか」


 仕事部屋で苦いため息が溢れる。新作のテレビドラマ化が決定したが、脚本がクソ。担当から送られてくる脚本は、ことごとく原作のコアを抜き取り、水で薄めたような出来。脇キャラの性別も変わってる。出演する俳優の事務所の都合でこうなってしまった。他にも制約は山とあり、こちらが妥協に妥協を重ねてもクソな脚本が届き、ため息しか出ない。


「はぁ……。なんなんだ、このクソな脚本は……」


 台本を見るだけで胃が痛くなる。小説でもマーケティング戦略で創作してていたが、これを見るだけで疲れてくる。本当は新作も着手しないといけないところだが、全く進まない。スランプとはいえないが、モチベーションは限りなく低下。


 かといってテレビドラマ化は断れない。映像化されると、多くの人に知られ、売り上げが変わる。出版不況の今、無視できないらしい。


「はぁー、なんなん……」


 パソコンに向かうが、全く進まない。一行も思いつかない。こんなこと初めてだった。


「いやいや、スランプとかじゃないし。ちょっと気分転換する」


 一旦、散歩でもしよう。コートを着て、財布とスマホをポケットに突っ込み、出かける。


 風がつめたい。木枯らしが吹いている。落ち葉はカサカサと風に揺れ、どこかへ飛んでいく。空は晴れていたが、クリスマスに近い時期だ。風の冷たさが身に染みる。


 もっとも頭は冷えてきた。ドラマ化の台本も、担当を通じて一応意見だけは言ってみるか。ドラマの製作もさまざまな制約がある。数字だって取らなきゃいけない部分は作家と同じだ。


 そう考えると、少しは納得し、コンビニに寄ってスイーツを買って帰ってきたが、郵便受けに変なものが入っていた。


「なんだよ、これは……」


 それはクリスマスカードだった。ツリーがデザインされていたが、メッセージもついてる。


 光あれ。


 そう一言だけ。近所の子供のイタズラだろうか。その割には字は丁寧だ。送り主の名前はないが、猫のスタンプだけ押してあるが、悪意は見えない。


 なんとなく家に持ち帰り、コンビニスイーツを冷蔵庫に入れ、仕事部屋に戻るとハッとした。あれ、聖書のことばだ。


 康二は作家として聖書を調べたことがある。昔の文豪も聖書をテーマにしていたし、特に違和感はない。


 確か「光あれ」は創世記の最初の方だ。聖書の世界では神が地球、自然、時間、空間、動物、人間も創造した。光もそう。最初に神が「光あれ」と言い、実際そうなったと記憶している。


「聖書か……。なんか気になるな」


 特に宗教に入っていない康二だが、作品が書けずに詰まっている今、気になる。確か仕事部屋の本棚にも聖書があるはず。


「えーと、聖書はどこだ?」


 普段からちゃんと整理しているので、本棚の聖書はすぐに見つかった。


 分厚い。鈍器本と呼ばれるのも納得だが、最初の方の創世記をめくると、本当に神がこの世界を造ったシーンが出てきた。


 学校では進化論を習った。こんな神話、ファンタジーかもしれないのに目が離せない。


 それに……。


 ここで描かれる神は、楽しそう。産みの苦しみとかなさそう。マーケティングとか、売れるものとか、そんなの全然考えずに、ただ楽しんでいるようなイメージが浮かぶ。そんな細かい描写はないのに、勝手に想像してしまった。職業病かもしれないが。


「光あれ……か……」


 もう一度、このクリスマスカードを見つめる。今は商業目線でしか作品を作れないが、たまには息を抜き、自分の為だけに書いてもいいだろうか。何も考えず、ただ楽しく書くこと、全部忘れていた。


「よし、今はもうどうせ進まないし、好きに一本短編でも書くか?」


 そう決めたら、肩の力も抜けてきた。口元も綻ぶ。久しぶりに笑えてるみたいだ。

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