11話 見えた希望と暗闇
「――ふむふむ」
ティアさんの様に手を口元において考え込む、リアさんことアイリアンさん。
長椅子に座る彼女は、納得するように呟くと、紅茶の入ったカップを一口。
何気ない動きだけどどこか気品が漂う。
僕とソラも、少しぬるくなってしまった僕たちの分を飲む。
ここはクマに案内された家で、やっぱりと言うか、アイリアンさんの家だ。ひとまず彼女と自己紹介をした後、この家に案内された。
案内されて中に入ると広々としていて、一人で住むには少し寂しいんじゃないかという考えが頭をよぎったけど、とても落ち着く雰囲気がしてすぐに気にならなくなった。
ちなみに、彼女にくっついていた生き物たちはさすがに家の中にまで入れてもらえず、寂しそうに森の中に消えていっちゃった。
今いる広めの居間にまで案内されて、お茶を出された後、正面に座る彼女に促されてぽつぽつと僕は語りだした。
ティアさんとシアンさんの名前を出したおかげか、彼女はすんなりと話を聞いてくれた。
僕たちが旅をしていること、その理由である僕たちの謎の体質、今までで分かっている事、途中で出会ったジャックさんやシアンさんとティアさん。色々と話した。
時々ソラが、数少ない覚えている記憶で補足をする。
途中、出会ったとき以降は全然表情を変えないアイリアンさんが、何故か「ブフォッ!?」って紅茶を吹き出しかけたのには驚いたよ。
いきなりだったから、ソラも変な声を出して驚いていたし。
「何でもない」って慌てたように言っていたけど、どうしたんだろうかな?
シアンさんたちにも話していなかったことも全て話したおかげで、少し長々となってしまったけど、毎日ソラに簡単な説明をしているからそれなりにまとめて話すことができた。
実を言うと、いざシアンさん達が進めてくれた彼女と話す段階になってみると、何処から話していけばいいのかと焦ったんだけどね。
ともかく、ティアさんに聞かれたことや、聞かれなかったこともいくつか質問され、きちんと答えて今に至る。
話が一段落すると、アイリアンさんから驚きの答えが返ってきた。
「ふむ。今の段階でいくつか予想は立てられるかな」
「ほ、本当ですか!?」
「ほんと?」
今まで全く分からなかったことが、まだ説明しただけの段階でいくつもその原因の予想が分かることに興奮して、アイリアンさんに向かって身を乗り出してしまう。
毎日ほとんどの記憶を忘れることを、地味に気にしていたソラも、似たような反応をしている。
「こら、カップが倒れるぞ。言っておくがあくまで、よ・そ・う、だからな? それも今の段階でのだ。詳しく調べてみたらその全てが違っているかもしれないのだから、過度に期待しない方が良いぞ、汝ら」
彼女はそんな僕たちに人差し指を立てて注意する。
けどそれはあんまり関係なかった。
だって、今まで手がかりひとつ無かったんだ。正確には体質なのかすらわからない状態なんだ。
そこにたった一つどころか、「いくつか」と複数個も予想が出ている。
「これで喜ぶなと言う方が無理ですよ」
「……まあ、確かにそうだな」
アイリアンさんは注意をしながらも少し納得する。
そのまま視線を逸らした先に、空になった僕とソラのカップを見つけると、アイリアンさんは紅茶のお代わりを入れてくれた。
「ありがと。それにしても、リアの入れるお茶は美味しいね」
「だよね。僕もこんなに美味しい紅茶を飲んだのは初めてだよ」
「まあ、これでも長生きしているからな。それにお茶というものは元々エルフから発祥したのものだ。故に、私たちエルフは皆、お茶汲みは得意なものなのだよ」
「へえ、そうなんだ~」
ソラと僕は初めて聞いた事実に感心した。
お茶ってエルフから始まったんだね。森の民と呼ばれるエルフなら、確かにそれも納得できるけど。
アイリアンさんはまた一口お茶を飲んで、話を戻す。
最初の方はどちらかというと、呟きや独り言のようなものみたいだった。
「……気配と話から察するに、どうやら私、と言うより私たちの管轄範囲内の可能性が一番高い、か」
「ん?」
「――話は分かった。汝らに協力しよう。」
「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます」
「すまないが詳しく調べるために何日か此処に留まってほしい。汝らもその体質とやらの正体を知るために来たのだし、かまわないかな」
「え、はい、かまいませんけど…………気配とか管轄範囲内とか、どういうことなんですか?」
答えは分かっているけど、一応ソラに確認を取ってから答える。
それに続けて、何やらよく分からない言葉の意味を聞くと、はぐらかされてしまった。
ともかくアイリアンさんに協力を得ることはできた。
だけどもう一つ、大事なことがある。
「あ、あのっ! お礼と言うか対価と言うか……わたしとルナは、リアにどう報いればいいの?」
ソラが、体質がどうにかなるかもしれない喜びを押さえながら尋ねる。
僕が言う前に先に言われてしまったけど、やっぱり考えていることは同じだった。
僕たちの話を信じて協力してくれると言った、その恩をどうにか返したい。
そのアイリアンさんは腕を組んで困ったような顔をしていて、どうやらそれに対しては否定的だった。
「……対価、か。しかしそう言われても今回は大方私の役目の内に入るだろうしなぁ……。そんなことで対価をもらうのも気が引けるし……うーん」
「何でもは無理だけど、せめて出来るだけのことはさせてください」
やがてアイリアンさんは瞑っていた目を開けて、ひとつ提案をしてきた。
「ひとまず後回しで良いかな?」
「え、でも……」
「ふふ、何とも律儀なことだな。気にすることは無い、後で何らかの形で対価はとるさ。それでも気になるなら、まあなんだ。対価とは別に、此処に住んでいる間は色々と手伝ってもらおうかな」
結局うやむやになるのではないかと、僕とソラが何か言おうとすると、いっそ冷然と言えるくらいに全然表情の変わらなかったアイリアンさんが、薄く顔を綻ばせる。
それはとても綺麗で、僕とソラはつい見惚れてしまった。
結局、彼女の提案する通りになった。
ともかく、いったい今までどれだけの月日が経ったのかは分からないけど――
ようやく確かな希望が見えてきたよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
話は道中に出合ったシアンさんやティアさんの事へと変わり、それも終わる。
僕たちが使う部屋を含めて、家の中を案内してくれることになった。
「あっ」
立ち上がろうとしたところで、アイリアンさんが何か思い出したように声を出した。
「ティアも協力したいようであるし、私個人としても、汝らのその体質をどうにかしてあげたいと思う。思うのだが……汝らはこれから、どうするつもりなのだ?」
「え、どうって……?」
どうするって言われても、僕たちの体質を何とかするために……。
ソラはその言葉の真意がわかったのか、首をひねりながら僕とアイリアンさんに向かって確かめる様に言う。
「う~んとね、ルナ。原因とか分かるだけでも時間がとってもかかるって、わたしは思うの。それで、わたしたちのコレが治るにしても治らないにしても、そもそも原因が何か分かるにしてもそうでないにしても、わたし達のすることが無くなっちゃうよね? 調べてくれるのはリアなわけだし。それにどうにかなるにしても、そう簡単でもないしやっぱり時間がかかると思うの。その間、わたし達暇だよね?」
「言っておくが、調べる対象が汝ら自身なのだから、その間は此処からいなくなられても困るぞ。それともし体質の問題が解決したとしてだ。その先どんなふうに、何をして、何を目的として目標として、何をしながら生きていくつもりなのかな、という訳。話を聞いた限り、体質のことしか考えていなくて、他のことを――その先の人生を考えていない様に思えたのでな」
「あ……」
アイリアンさんのような人を探すのに一生懸命で、すっかり忘れてた。というより、頭に浮かびもしなかった。毎日ソラに誰って言われるのが辛くて、そんなことを考える余裕もなかったし……。
彼女みたいに僕たちに協力してくれる人を見つけた時点で、僕たちにできることはもう何もない。
だって、僕たちではどうしようも無いからそれが出来る人を探していたのであって、あとは彼女にほとんど丸投げだ。
アイリアンさんが体質の問題を解決してくれれば、元々あった唯一つの目的も無くなる。
「……これ、から……」
ぽつりと、その言葉だけが自然と口からこぼれ出る。
この呪いのような体質が消えても、まだ先はある。消えたら終わりじゃない。
まるで一筋の光が差し込む暗闇から、突如としてその光すらない常闇の中に迷い込んでしまったようだ。
今までが必死だった反動か、これからどうするのか、まるで何にも浮かび上がってこない。
ソラも似たような表情をしている。
「ああ、そんな雨に濡れた迷子の子犬の様な顔をしないで。別に今答えを出さなくて良いんだ。私に相談しても良いから、気長にゆっくり考えるといいさ」
「……うん、わかった」
ソラは頷くと、僕の手を取って立ち上がらせた。
「ほら、いつまでもそんな顔してないで早く行こう。きっとそのうち思いつくよ」
「……あはは。そう、だね」
満面の笑みを浮かべるソラはとても綺麗だと、僕は心の片隅で思った。
部屋の扉の前で僕とソラを待っていたアイリアンさんは、何故かすごいニヤニヤしていたけど、何でかな?
何か、すごい気恥ずかしいんだけど。




