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12話 気付いていない思い

前回書き忘れましたが、地の文と会話文の行間詰めることにしました。

今まで二行だったのから一行ですね。

エセ男爵の方は変えるつもりはありませんよ~。

「はっ!」


 カンッ。


 横一線に振るった木剣はいとも簡単に弾かれてしまう。

 弾かれた時の勢いで腕を持っていかれ、僅かに体勢が崩れてしまった。

 相手がその隙をわざわざ見逃すはずもなく……


「――まだまだ重心が甘い」

「わっ!?」


 得物を僕の足に引っ掛けたと思ったら、一瞬にして視界がぐるんと一周。

 体が空中をすごい勢いで一回転するという貴重な体験をした後、地面に背中を打ち付けられ、大の字になって綺麗に澄み渡った青空を見上げさせられる。


「はい、終わり」


 その声と共に、いつの間にか僕の首元には彼女の得物が付きつけられていた。


 その武器は棍や長めの木刀のようで、見様によっては細身の、偶に魔術師が持っているような杖のようにも見える。長さは彼女の背丈ほどはありそうだ。

 そしてその棍を持つ彼女は、僕と違って汗一つも流していない。それも、良い運動だったと言わんばかりに、些かも息を乱してもないよ。


 何か僕、情けないなぁ……。


「そうは言うが、筋は良いと思うぞ」

「はあ、はあ。……こんな、様で、言われても……」


 表情にでも出ていたのか、アイリアンさんはそう言ってくれた。


「それは……自分で言うのもどうかと思うが、単純に私が強いだけだ。そもそも比較対象にすらならないのだから、汝が気にすることではない」

「はあ。そう、でしょうか?」

「このようなことで嘘は言わんよ。今の汝が強いか弱いかはともかく筋が良いのは本当さ」


 こんなことで下手な慰めを言う性格でもないし、と付け加える。


 何でアイリアンさんにこうして鍛錬をつけてもらっているかというと、ここに来てから二日ほど経った昨日のことだった。






「二人とも、少し運動しないかな?」

「え?」


 穏やかな春の日差しの下、三人で畑の水やりをしている時だった。

 光も吸い込まれそうな黒髪をポニーテールに縛ったアイリアンさんが、エルフ特有の細長い耳をピコピコと動かし、腰に手を当てながら聞いてきた。

 突然の言葉に驚きながらも、僕とソラは畑の水やりをする手を止めない。



 アイリアンさんの暮らしは質素と言うか慎ましいと言うか……何かこう、『魔王』とか『賢者』と呼ばれるような人の暮らしとは思えなかった。

 少なくともこの二日間、それを思わせるような言動は無いし、彼女が魔術を使うのを見たことすら無い。何と言うか、まるで当たり前のような慎ましい生活だったんだよね。


 彼女がエルフだということを考えれば、静かな暮らしも不思議ではなかったけど。


「運動?」


 ソラの言葉にアイリアンさんは「そう」と返す。


「ふと、汝らどのくらい強いのかなーと思ってな。つまり手合わせなんだが」

「あ……」


 どうかな? と、少し小首を傾げるアイリアンさんは……ヤバイ。ほんとにヤバイ。


 どうヤバイのかと言うと……思わず見惚れてしまいました、はい……。

 表情は変わらないのに、たったそれだけの動作ですごく可愛く見えるんだけど……ほんと何なのこの人!? 普段凛々しいのに急に可愛くなるとか、何て言うかもう、色々と反則だよー!


 そんな感じで、心の中はすごいことになっていたけど、体は顔が熱くなるだけで済んだ。まあ、水を撒いたばかりの畑の上で悶えそうになるのを我慢してたけど。


 そうして僕が黙っていると、僕の顔が赤いことに気づいた二人は心配そうに声をかけてきた。


「ん? どうしたのルナ。顔が赤いよ?」

「風邪でも引いたのか? そうなら早く言ってくれればよかったのに」

「ああああああいえいえ何でもありませんから大丈夫ですっ! ダイジョウブデスッ!」

「そ、そうか」

「うん、元気みたいだね~」


 思わず叫んでしまった僕の声に驚いて少し引き気味のアイリアンさん。

 ついでにソラは能天気に良かった良かったと笑みを浮かべている。


 いやほんとなんか……ゴメンナサイ。



 ともかく、彼女の提案には正直惹かれた。

 僕にはある時より以前の記憶が無い。

 そんな僕が覚えている一番最初の記憶は……いや、記憶と言うより一つの感情だった。


 『ソラを守りたい』


 唯一つ、その思いだけが残っていた。


 だからだろうかな? 

 強くなりたいって、よく思うのは……。


 だから僕はその手合わせの提案を受けて、今日だけじゃなくてこれから毎日鍛錬をつけてくれるよう、アイリアンさんに頼み込んだ。


「うん、かまわないよ。よろしく」

「よろしくお願いします」




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 というわけで、昨日から毎日一時間ほど、鍛錬をつけてもらうことになったんだ。

 ちなみにその後ソラも、僕と一緒に鍛錬をつけてくれるようにって、アイリアンさんにお願いしていた。

 何かこう、「ずるいずるいー! ルナだけずるいー!」って言いながら……。

 

 ずるいって言われても、ねぇ?

 いや、まあ……言動こそ可愛らしいんだけど……


「ていやっ!」

「ん。汝も好い線を行っているとは、な!」

「きゃっ」


 木剣を振るうと思わせてのソラの回し蹴りを、軽く「てい」って流して、独り言を言いながらのお返しの回し蹴り。蹴られたソラは数メートル・・・・・飛んで行った。

 そこまで威力のあるような蹴りには見えなかった。なのにそこまで蹴り飛ばされたのは、とっさに腕を組んだ後に、次いでふらついた体勢ながらも自分から蹴られる方向に飛び退いたからだった。


 ソラはすぐに起き上がり、またアイリアンさんに挑みかかる。


(ソラも大概強いよねえ……)


 普段抜けているように見えるけど、とっさの判断も良いしさ。


 でも結局、僕も今剣を振っているソラも、アイリアンさんには全く歯が立たなかったんだよね。

 当の彼女は連戦だっていうのに全然息を切らしていなくて、本当に良い運動っていう感じ。こういうところは、さすが『魔王』って言うべきなのかな。


 そう考えていると、ある言葉が脳裏をよぎった。


『汝らは、これからどうするのかな?』


 ふとした時に、その言葉が思い出される。

 けど……、


「――ま、今はいっか」


 そう呟いた僕は、そのまま少し痛む体をゴロンと倒して空を見上げる。

 見上げた空は青く澄み渡り、何処までも続いているように広かった。


 いろいろ悩んではいるけど、今はこの心地よい疲労感と睡魔に身を委ねよう。


「おやすみー……」






 今は何も答えが出てこない。

 けれど一つだけ、僕自身でも気づかない思いが、心の奥底で静かに声を上げた。


(ソラと一緒にいたいな……)


 一体その思いはどんな感情から来ているのか。

 一つだけ言えることは、その声からはとても暖かい感情がする、ということ。


 僕はまだ、その声に気付いていない。


次はお留守番だ~。

そして彼が声だけ登場です。さあ、誰でしょうかね?

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