↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/7

「満月の夜」

「今夜は外に出てはいけませんよ」

母は子の肩を両手で掴み、きつく言い聞かせる。


「どうして?」


「今夜は満月の夜だから。ヴァンパイアが一番活発になる夜なの。絶対に窓も開けちゃ駄目。約束よ」


「......うん」


家々は固く戸を閉ざし、街全体が息を潜めていた。


今夜は満月の夜。ヴァンパイアの動きが活発になる日だ。

辺りには、張り詰めた緊張感が漂っていた。


凛と湊は持ち場につき、ヴァンパイアが街へ近づかないよう待ち伏せをしていた。


「静かだな......。」

湊が周囲を見渡す。


「嵐の前の静けさよ。気を抜かないで。」

凛は銃を構えたまま答える。


その直後だった。

闇の向こうから、無数の影が現れる。


「来た」


ヴァンパイア達だった。

彼らはハンターには目もくれず、ただ人間の住む家々を飢えた目で見つめていた。


「絶対に街へは入れさせない!」


凛は容赦無くヴァンパイアを銃で撃ち抜く。


バンッ!


一体が灰となって崩れ落ちる。


その背後へ回り込んだ湊が、輝く銀色の剣を振るった。


「はぁっ!」


鋭い一閃。

ヴァンパイアは断末魔を上げる間もなく切り裂かれ、灰となって消えていく。


「流石に満月の夜のヴァンパイアは手強いな......」

湊は苦笑しながらも、苦しそうに呟いた。


「弱音を吐くにはまだ早い」


「わかってるよ。でも数が多すぎる......!」


本当に多すぎた。

今まで経験した満月の夜より、明らかに多い。

それだけヴァンパイア達は餌に飢え、強いエネルギーを求めているということだった。


バンッ、バンッ、バンッ。


銃声が夜の静寂を何度も切り裂く。


「一匹たりとも逃さない」


凛は淡々と引き金を引き続ける。


しかしーー。


「しまった!」


捌ききれなかったヴァンパイアが数体、街の中へと飛び込んでいく。


「湊!奴を追って!!」

凛は叫ぶ。


「無理だよ!こっちも手が空かない!」

湊は迫るヴァンパイアを剣で切り伏せながら叫び返した。


「くそっ......!」


苦しい状況だった。

それは他のハンター達も同じ。


「こっちも押されてる!」

「応援はまだか!」


悲鳴のような声があちこちから飛ぶ。


突破したヴァンパイア達は、人間の住む家へ向かって一直線に駆けていく。


「一体どうすれば......」

凛は苦しそうに呟いた。


その時だった。

空から一人のヴァンパイアが舞い降りる。

あまりにも一瞬の出来事だった。


「なっ!?」


誰もが目を見開く。


そのヴァンパイアは凄まじい速度で駆け抜け、ハンター達が捌ききれなかったヴァンパイア達を次々と狩っていく。


「速い!」

「何だ、あいつは!」


凛はその姿を見て息を呑んだ。

昨夜会った、あのヴァンパイアだった。


艶めく銀髪がサラリと風になびく。


そのヴァンパイアは、まるでハンターの味方をするかのようにヴァンパイアを灰へと変えていった。


「あのヴァンパイアは何?」

湊が戸惑いながら凛へ問いかける。


「.......。」

凛は何も答えられなかった。


長い夜だった。

戦いが終わり、夜が明け始める。

空が少しずつ白み始めても、そのヴァンパイアはまだそこに立っていた。


「なんで.......?」


凛は思わず声を漏らす。


ヴァンパイアは、太陽の光を浴びると灰になってしまう。

だから夜明けには必ず、闇の中へ逃げていく筈なのに。


凛は銀髪のヴァンパイアへ銃を向ける。

けれどまたーー撃てない。

トリガーが鉛のように重く、指が動かなかった。


「凛?」

そんな凛の様子を見て、湊が不思議そうに声をかける。


銃を構える凛を気にする事なく、銀髪のヴァンパイアは静かに、凛へとまっすぐ歩み寄ってきた。


「止まれ!」


湊が飛び出し、銀色の剣を向ける。


「凛に近づくな!」


剣を振り上げた瞬間ーーまるで何かに弾かれたように剣先が逸れてしまった。

剣は湊の言うことを聞かなかった。


「なっ.......!?」


湊は目を見開く。


銀髪のヴァンパイアは、凛の目の前まで来て立ち止まる。

そして湊の剣と凛の銃を交互に見つめながら言い放った。


「それでは俺を倒せない」


静かで、どこか寂しげな声だった。


凛は銀髪のヴァンパイアを鋭く見つめたまま逸さずにいた。

その場から一歩も動かなかった。


ヴァンパイアは人間の敵。

決して味方になることはない。

それなのに、このヴァンパイアは同族であるヴァンパイアを狩っていた。

凛の心は大きく揺れていた。


「......それは、どうして?」


凛は静かに問いかける。


すると銀髪のヴァンパイアは少しだけ目を伏せ、すぐに真っ直ぐ凛を見つめ返し、口を開いた。


「それは、俺がヴァンパイアと人間の血を引いているからだ」



「えっ?」

湊が驚きの声を上げる。


「そんな......。」

近くにいたハンター達も息を呑む。


「どういう事?ヴァンパイアと人間の間に生まれたヴァンパイアなんて......。」

「そんな話、聞いたことがない」「あり得るのか......?」


周りに静寂が走る。

誰もが銀髪のヴァンパイアを見つめていた。


凛は構えていた銃をゆっくりと下ろす。


「説明しなさい」


その一言に、誰も息をする事さえ忘れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。