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異世界たちと探し人  作者: みあし
三章 金時星編

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Ⅹ 娘の狼藉 


 天機星からハスキの食事をもらった後、ゆづりは寄り道等はせずに地球へ帰った。まだ昼下がりの教室には、穏やかな日が差し込んでいる。しかし、生徒の姿はない。


「しっかし重いなぁ…」


 ゆづりはヒリヒリと痛む手に促され、荷物を下ろす。その拍子にドンと床が軽く震えた。そのくらい貰った食材は多く、そして重い。ゆづりが食べるだけだったら軽く一か月は持ちそうだ。


 野菜や肉、魚の入った大きな袋を抱え、学校から帰るというかなり奇特な状況。間違いなく通行人から不審な目を送られ、下手したら学校に一報入りそうな姿だったが、幸い人に会うことなく家まで着いた。


「オネーさん、おかえり!」


 ハスキは睡魔を追っ払ったらしい。ゆづりがドアを開けると同時、リビングから手を振るハスキの姿が見えた。そして、彼女の周囲に数枚のプリントが散らばっているのも、ゆづりの視界に入ってしまう。


「ちょっ…な、なにこれ」


 どうして、ちょっと目を離した隙に部屋がこうも散らかっているのだ。

 ゆづりは動揺して袋を落としそうになりながらも、部屋に駆け込む。すると、部屋の中はプリントの湖とも呼べるくらい、あちこちが紙や教科書で床が埋められていた。


 勝手に人のものを使った挙げ句、ここまで散らかすとは。

 ゆづりは怒りよりも戸惑いからその場に棒立ちになってしまう。そんなゆづりの心境を読んだのか、ハスキは弁明するかのように近くの教科書を手に取った。


「オネーさんの使ってる言語の勉強してたんすよ!ほら、これ、教科書!ノートもあ!」

「勉強?なんで?」

「文字は読めた方が便利じゃないすか?」


 ハスキは国語の教科書を自慢げに掲げる。現在ゆづりが使っているものではなく、小学校時代に使っていた教科書を。随分と使っていないもののはずなのに、彼女は一体何処から引っ張り出してきたのだろうか。

 ゆづりは未だ状況を受け入れられないまま、蒔かれている紙を一枚拾う。すると、紙にはかなり整った字でありがとう、ごめんなさい、こんにちはなど、初歩的な会話の一端が書かれていた。


「………ああ、私とハスキで使ってる言語は違うのか」


 ハスキは天機星の人間。ゆづりは地球の人間。喋るのに使う言葉も、筆談をする際に使う文字も違う。

 ハスキと出会ったときから、難なく会話出来ていたために失念していた。


「でも、どうしてハスキと会話できてるんだろう?」

「え?」

「……いやなんでもない」


 神が会話の相手ならば、ゆづりが話した言葉は相手に理解され、相手の話した言葉も理解できる。

 しかし、ゆづりもハスキも神ではない。普通ならお互い意味不明な言語を言い合っているところだろう。


 星が壊れた影響で、此方にも支障が出ているのか。土獣星の時のように、二つの言語が似ているから通用するのか。

 理由は分からないが、会話できるのなら問題はない。ひとまず頭の隅に追いやっておこう。


「オネーさん、何ボッーとしてるんすか?」

「ううん。なんでもない。それよりも紙、片付けてよね」

「えっ?!」

「えっ?!って。こんなに散らかして良いと思ってるの」

「そ、それは思ってないすけど…」


 ゆづりが紙を拾い集めていれば、ハスキも見よう見まねで手を伸ばす。しかし、細かな作動は苦手のようで、何回も紙を取りこぼしていたり、ひっくり返したりしていた。

 見かねたゆづりはもういいよと宣告すると、ハスキから紙を貰い全ての紙を拾う。

 その隙にハスキは居心地悪そうに床を這って、玄関の方へと移動する。そして、放置されていた食材袋をツンツンとつついていた。


「これはなんすか?食いもんすか?」

「そう。君のだよ。シンギュラリティから貰ってきたの」

「はぇ…」


 ハスキは一気に表情を曇らせる。袋を弄くる指も、爆弾にでも触れているかのような、たどたどしい手つきへ変わっていた。


「毒とかは入ってないだろうから平気だよ」

「マ、マジすかね?あんまり信用出来ないつーか。ほら、食べた瞬間気絶して夢の中ー!とかにならないすかね?」

「大丈夫だよ。シンギュラリティはそういうことしないよ、多分」

「多分て」


 シンギュラリティは創造者の指示にしか従わない。だから、創造者と連絡が取れていない今、彼女が勝手に動いてハスキをどうにかしようとするわけがない。

 まかり間違っても、ハスキを殺そうとはしないだろう。あの時もハスキの殺害しようとしていたのではなく、あくまで彼女も元の居場所へ戻すことが目的そうだったし。


 ゆづりが軽く説明すれば、ハスキは信用してくれたらしい。それならいいやと呆気なく袋から離れ、部屋へと戻ってきた。


「そんでさ。オネーさん」

「はい。なんでしょう」

「オネーさんは料理できたりするんすか?これ、調理しないと食えないっすよね」

「ううん。全然出来ないよ」

「うっわー、マジか!アタシも料理は得意じゃないんすよね」

「……」

 

 でしょうね。ハスキが料理を出来るわけがない。どう見ても食材を丸焦げにするか、素材ごと腹に詰めるタイプだろう。ゆづりとおそらく同族、またはそれ以下だ。

 

「でもまぁ、なんとかなるでしょ」

「そうすかね」

「料理なんかしなくても、そのまま食べればいいだけだからね」

「……そのまま?」

「うん」

「……この野菜と肉を…その、生で?」

「うん。あっ、でも肉は火を通さないとお腹壊すよ」

「お、おー…?」


 ハスキはモンスターでも見るような目でこちらを見下す。どうやら彼女は素材ごと喰らうタイプではなかったらしい。ゆづりとは少し宗派が違うようだ。


「調理器具はあっちにあるから、料理したいから好きにしなよ。でも、火は私のいない時には絶対使わないでね」

「おっ。それはまたなぜ?」

「家を燃やされたら困るから」

「んなことしないっすよ!」


 ハスキは冗談をと言わんばかりに鼻であしらう。しかし、ゆづりとしては几帳面とは言い難い彼女を信頼しきれない。「マジでダメだからね」と念押ししておく。

 

「はいはい。そんで、オネーさんはこれから何処に?出掛けるんすか?」

「昼寝。色々疲れたから、部屋で寝る」

「昼寝って。そんなのするの赤ちゃんだけっすよ」

「そんなことないよ。地球人はみんなするよ」

「えっ、そうなんすか?なんか…変わった星っすね」


 現在、木黙星の翻訳機も使えないし、金時星の時計で過去も見れない、そして他の神たちにも会えない。ゆづりも星に対しては何も出来ないから、中継場に行っても意味はない。


 なら、今は体力を蓄え、今後の作戦をじっくり練るほうがいい。色々あって疲れてもいたし。

 ハスキはおやすみと明るく手を振る。ゆづりはうんとうなずき自室へ引きこもった。

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