記憶を探って
はっ。
気付いたらまだ夜は明けていなかった。
寝ようと思ったが脳裏に記憶が浮かぶ。
あの大蛇、正体は一体なにか。
あの後、すぐ寝てしまった。
街の人は喜びを全く見せていない。
江戸も昔は戦火激しく、朝から一戦交えたりしていたが、ここまで戦いはしなかった。一つ一つは規模が小さいが、それを毎日繰り返すことによって、大規模な戦いへと化す。
ロレイスの口調が時々男前になるのもそういうわけであったかもしれぬ。
隣ではロレイスと承太郎が寝ている。
二人の男…か。
まあ、人前と胸の内。
二つが変わっていてもいいだろう。
街の散歩でもするか。
早起きは三文の得。
まずは一番外側。
家が立ち並ぶ。
煉瓦模様が美しい。
それにまだ人は歩いていない。
独り占めか…。
少しずつ星は消えていく。
まだ太陽は出ていない。
ほんの少し前に亡霊たちと互いに燃え盛って争っていたとは思えぬ静寂ぶりだ。
まるであの倉庫のように。
倉庫…江戸。
まだ戻れないのだろうか。
ふと空を見上げる。
「お父さん!すごい星だね。」
「早起きして良かったな。」
「朝食までに戻らないといけません。」
「そうだな。美由。今日の朝御飯は。」
「品物ですか。味噌汁でも作ります。」
「星が一個、二個、三個、四個…数え切れないぐらいあるよ。こんなの初めて!」
「ああ、そうだな。お前も結婚して子供にこんな夜空を見せろよ!なっ、美由。」
「ええ、そうですね。一馬があなたみたいになればいいですね。」
「友達にでも見せるんだろうな。」
「そうでしょうね。いつか思い出の山に登りましょうよ。あの子を連れて。」
「そうだな…。そのときにあいつは…、大人になってるのかもな。」
「分かりませんよ。」
「お母さん、お父さん!お星様いっぱいあったよ。嬉しいな!」
「そろそろ帰りますか?」
「えー、もうちょっと。」
「分かりましたよ。それでも朝までに戻りますからね。」
「はーい!お星がいーち、にーい…」
またか。
なぜだろう。
江戸の記憶が夢でも浮かぶ。
一馬…美由…なにをしているのだろう。
参勤交代の将軍…大変なんだな。
長い参勤交代になりそうだ。
待ってろよ…一馬…美由…。
真ん中の街通りに入る。
まだ、どこの市場もやっていない。
「明日の市場、楽しみですね。」
「ああ…一馬を連れてこうな。」
「ええ、そうですね。」
ぐっ。
ここのところ激しいな。
大蛇にもやられたのか…
大蛇か…。
調べてみるか。
「ここが街役場か。」
ご立派な建物だ。
そういえばロレイスから地下から地下図書館にいけると聞いたな。
お邪魔するか。
内装は絨毯が綺麗に敷いてある。
流石に街役場とあって、細部まで気を使っているようだな。
下に通じる螺旋階段の模様もまた美しい。
さてと、ここに来るのは二回目か。
この図書館が迷宮みたいなものだ。
立ち並ぶ本棚。
なんとも言えぬ心地よさ。
ギュババ…。
あれっ、あれは…。なんだ…。
目についたのは本に舌が生えた人食い本のような赤い化け物。
ギュババ…。
本に魂が住み着いたのだろうか。
さて、一戦交えるか。
刀を抜く。
鮮やかに、力を込めて、かつ美しく。
まずは相手の動きを見るか。
ギュルルル…。グヴァ!
火の玉を飛ばしてくる。
本が燃えると判断した。
無論、刀で弾きかえす。
パァッと一瞬、明るさが生まれる。
赤なら火か。
ならばもう様子を見る必要はない。
抜刀宴舞!
ズバッという音がなった。
化け物の死ぬ直前のヴァヴァヴァ…。という苦しみ声と時を同じくして。
本と共に魂は消え去ったようだ。
その時、木漏れ日のような光が地下図書館全体を包み込んだ。
夜が明けたか。
では、また調べるとするか。
ふと後ろを振り向くとなにか落ちていた。
さっきのやつのものか。
とある本のページだな。
アレ€#*の大≠については、
[#$辞¥ +*〒#€]に載って×÷。
参×にして○€いたい。
焼け落ちたり焦げて見えないな。
今度こそ帰るか。
急ぎ、駆けロレイスの家に入ったら二人が起き始めているところだった。
「あれ、ツバサくんじゃないの。朝食を食べたいの?」
「キリュウさんじゃないですか…早く起きたんですね。散歩でもしていたのですか?」
「二人とも良く分かってるね。朝ご飯の魚は俺がとってくるから。二人はゆっくりしててください。」
扉を開けて勢い良く海に出て行く。
拾ったボロボロの紙を落としながら。
「トォーリャ!ヤッ!ヤッ!」
掛け声を合図に、勢い良く腕をジャボっと、入れてみるが魚は全然取れない。
魚はピョンピョン跳ねてやがる。
カゴを見るとまだ十匹しかいない。
いや、十匹もいれば十分かな。
またロレイスの家に戻る。
「ただいま。」
目の前にロレイスが立っていた。
「ねえ、あんた。地下図書館に行く?」
そう言いつつ、朝に拾った紙を出す。
「あ、ああ…。さっ、魚を十匹も持ってきたから、何か作ってくれ。」
コクンと頷く。
魔法を使って魚を熱する。
魔法は日常生活に欠かせないのか。
「薪入れるぞ!おらよ!」
「私は息入れます!フーッ!フーッ!」
「僕も手伝う!」
「一馬はゆっくりしてろ。」
「えー、お父さんひどいな…」
美由と火を起こしているのが目に浮かぶ。
コトンと皿の上に焼き魚を乗せる。
ロレイスが魔法を教えるつもりだったのに…とか、なんとか言いながら。
「承太郎、できたぞ!」
「本当ですか!」
二人で焼き魚をほおばる。
熱い湯気のなんとも言えぬ旨味。
ちょうど良い柔らかさの魚の身。
「これはギスと言ってね、この辺では良く採れる魚なのさ。美味いだろ。」
「なるほど。ムシャムシャ…だからこんなにおい…ムシャムシャ…しいんですね。」
「ツバサ君。早食いじゃないから…」
「滑稽ですね、キリュウさん。」
あーあ、朝からこれかい。全く。
そんなこんなで賑やかな朝食が過ぎた。
「じゃあ、地下図書館に行くかい?」
机でのんびりしてる頃、話しかけてきた。
「では、よろしく。承太郎も行くだろ。」
「はい。お供させていただきます。」
「アループ・ベルンシア・アルクセシィア!さっ、行くよ。」
いつも通り机から扉が。
また地下図書館に入る。
こっちは三回目だが、承太郎は初めてか。
「承太郎。説明したろうか。」
「いえ、夜中の時に入ったので。」
「あの夜中に入ったなら説明はいらないな。大丈夫だろ?」
「もちろんです。」
「ほら、あんたら。このメモに書いてある本を探すからね。忘れないでね。」
本棚を眺めこれかこれかと調べるが、一向に答えは出てくれない。
暫く探したが見つからないな。
「キャー!」
突如金切り声のように高い声が聞こえた。
ロレイスの声か。
急げ!




