古びた街
「ここはどこだ?いったい…」
気がつけば森の中にいた。
あの不気味な感覚。
思考を張り巡らす。
たしか承太郎と街を見回って民家に入った。その家にあった穴に吸い込まれた…
そこまでしか記憶が繋がってくれない。
いや、繋がらない。
そういえば承太郎は…承太郎はどこだ?
周りを見回してみると遠くに若い男の人が倒れているのが見えた。
「大丈夫か!承太郎!」
近くまで寄って意識を確認する。
あっ、まぶたが開いた。無事だな。
「キリュウさん…ですよね?」
「ああ。桐生だ。承太郎だろ?」
「え、ええ…」
ふと遠い記憶が過ぎ去る。
それをしっかり受け止めた。
この場所の手がかりかもしれぬ。
一呼吸おいて話を続ける。
「しかしあれはなんだったのだろうか?もしかするとあれかもしれない。」
「あれって、なんですか?」
記憶を繋げて説明を作る。
「よく聞けよ、承太郎。もしかすると俺たちは『よーろっぱ』に来たのかもしれない。」
「よーろっぱ?まさか…」
承太郎は驚きを隠さない。
そうだろう。
あの穴に入って「よーろっぱ」に行けるはずは無いと普通は考えるからな。普通は。
「考えてみろ。あの穴に入った時に厳しい航海をしているような感覚が無かったか?まるで大嵐に流され、化物に会ったような…」
「そうですね。はっきりと断定はできませんが『よーろっぱ』だと考えましょう。」
「まあ、所詮これからどうするか、が一番大事なことだからな。」
「確かに。持ってきたものは刀と服しかありません。二人揃って。」
「まあ、森を抜けよう。承太郎。歩けるか?歩けないならここで野宿だ。」
まあ、野宿なんて勘弁だが。
「いえ、歩けます。」
きっぱりと断定しやがったよ、こいつ。
「じゃあ、前に進むか。」
ゆっくりと森を進む。
先は見えない。
けれど進む。
進み続ける。
日光は差し込み、気温をあげる。
ふと、別の人の匂いを感じた。
「あれは…街です!」
「どこだ承太郎!」
「ほら、あの奥!」
見えた。確かにあれは街だ。
街で無くても文明だ。
喜びを隠せず駆け足になる。
「ちょっと桐生さん!待って!」
承太郎も駆け足になる。
人生で一番嬉しいかもしれない。
抑えきれない感情は爆発し続ける。
そして走り続けて街についた。
「あんたたち、どこからきた。」
女の人が話してくる。
あっ、肌が白い。
よーろっぱの人は肌が白いと聞いたな。
やっぱりここはよーろっぱか?
承太郎も同じことを感じたらしい。
頷いてくれた。
「江戸だ。」
息切れの俺に変わり承太郎が答えてくれた。
「えど?知らんな。」
よーろっぱでは江戸のことを知らないのか。
無理も無い。
奥地なら普通にあることだ。
ならよーろっぱであるか聞けばいい。
「ここはよーろっぱか?」
「なんだ?そりゃ?ここはアレット島。」
アレット島?よーろっぱじゃない?
「承太郎?どういう事だ?」
耳打ちして聞いてみる。
「分かりません。聞いてみます。」
「あの、この島…いや、この街について詳しく教えてくれませんか?」
「いいよ。私の家に来てくれ。その代わりあんたたちの『えど』についても教えてもらうからね。いいだろ?」
「ええ、もちろんです。」
「桐生さん、いいですよね?」
我に返った。深く考えていたので質問をされても何を聞いているのか分からない。
「え、どうした?」
やみくもに言ってみた。
「だから、詳しく教えてもらうか、という事ですよ。聞いていたんですか?」
「あ、ああ。もちろんだよ。」
当たっていてよかった。
てか、女の人の目がじーっとしてる。
「じゃあ、ついてきな。街案内してやる。」
三人で街を歩く。
海が近く、自然の中の街という感じだ。
「中央が街の役場。それに一番近い周囲が市場だ。魚や肉、野菜、武器などが買える。それより遠い周囲が家と三段構成の街となっている。だいたいこんな感じが街の構造だ。」
「あと、この街は地下に図書館がありこの街が作られた六百年前からある。さっ、家に着いたぞ。」
「悪いな。案内してもらって。」
家に入る。二階建てか。
台所、居間、寝室、風呂、倉庫部屋。
部屋がそろってしっかりした家だ。
材料は見た感じはスギだな。
「お茶を出す。リビングの机に座りな。しばらく適当に話をしてくれ。」
そう言いながら指をさしたのは居間。
なるほど、ここでは居間のことをリビングと言うのか。しっかり覚えておかねば。
承太郎に続けて座る。
「なあ、奥さんの名前、なんだ?」
「私?アールテック・ロレイス。ロレイスと呼んでくれ。あんたたちの名前は?」
あれ?夫は?
「俺の名前は桐生 翼。隣は小泉 承太郎だ。さっきも言った通り江戸が出身地だ。侍という職業についている。」
「キリュウ・ツバサと、コイズミ・ジョウタロウだね。覚えておくよ。」
「なあ、ロレイス。聞きたくないが、あんたの夫は?どこにいる?」
察したのかは知らんが聞きたい事を聞いてくれた。まあ、そうだろうな。
「君は…ジョウタロウか。私の夫はアールテック・ロベルト。今は魚を捕りに出かけてるよ。死んじゃあいないさ。」
笑いかまして言ってくる。
もし死んだなんて言われたら空気がまずくなるところだった。間一髪。
承太郎もなかなかやるじゃん。
「さっ、お茶が出来たよ。」
コトンと飲み筒を置いてくれる。
「じゃあ、話を始めるとしようか。」
ゴクリ。唾を飲み込む。
「あんたたちは基本的に武器で戦うだろ?その腰につけてるのは何かを切ったりする時に使うものにしか思えないし。」
それがいったいなんなんだ?
「それがどうした?」
「ツバサ。周りを見てみな。武器らしきものは見つかるか?そう、ここまでくれば流石に分かるだろ。」
見回して見ると武器が全く見当たらない。強いていうなら包丁ぐらいしか武器と言われるものがない。どういう事だ?
「武器がない。まさか…いや、そんなはずは無いだろう。」
「ジョウタロウは分かったかな?そう、この島では武器は使わない。その代わりに使うもの、それは…」
「それは?」
二人の口は揃う。
「そう、それは…魔法だよ!」
「魔法!?」




