▲無趣味なサラリーマンの挑戦1
俺は何年ぶりかの船に揺られている。
妹は懐かしむように言う。
「どうなってるかな?、街のほう。あの駄菓子屋さんあるのかな?」
「親父に声掛けたら、ちょっと廻るか?」
「うん。そうだね…」
楽しそうな雰囲気はなく、ただ淡々と答えた。
その後は俺が質問して彼女が答えるという一方的な会話が続いた。
理由は分からないが、元気がない。
そうこうしている間に島へ着く。
景色は全くと言っていいほど、変わっていない。
すぐそばまで山がせり出した場所に港がある。島内の港の中で一番小さいのだが、最寄りの船着き場だったため、一番馴染み深い港だ。
小さな二階建ての鉄筋製の港事務所。今は売店が閉められ、その場所に自販機が並ぶ。自販機で売られている軽食や新聞は当時売店で買えた。今は島の産品やお土産が入れられた自販機まである。
事務所の目の前がロータリーのようになっていて、そこから海に沿うように一筋の道が集落まで延びている。港と島内を結ぶ唯一の道。
海を横目に見ながら、ゆっくりと二人は歩く。彼女が二歩ほど先を行くのだが、その間は無言。
風の音、波の音、海鳥の声。都会では縁遠く感じる自然の音を全身に浴びながら、集落までの道を行く。
10分ほど歩いて、ようやく父の家に着いた。周りの街並みも変わっていない。
「おかえり」
「ただいま」
彼女はやっぱり元気がない。
「シュウもおかえり」
改めて俺に言う。
「ああ…」
ぎくしゃくとした雰囲気の中、俺が口を開く。
「ちょっと、街見てきていいか?」
「ああ、いいぞ」
荷物だけ下ろして、二人で散歩をする。
秋めいていると言えど、晴れていれば暑い。
宛もなく歩いていると彼女がふと声を上げた。
「あっ、まだあったんだ……」
「学校か。まだ生徒居るのか?」
「うん。居るみたい」
「帰りに寄ってみるか?」
「そうだね」
少しだけ、声のトーンを上げた彼女は、歩き始めた。
民家の間を縫うような路地の先、小さな漁港が広がる海岸線に目的の駄菓子屋はある。
「まだ、あったんだ」
彼女の視線の先に古びた建物が建っている。
嬉しかったのか、小走りで店に入っていく。それを歩いて追い掛ける。
駄菓子屋のおばあちゃんもご健在だった。妹のことを覚えていたらしく、会話が始まった。
ゆっくりとした島の時間が流れていて実感が湧かないが、景色を見ていると父の島に帰ってきていることを思い出される。
それが何を意味しているのかを改めて考えていた。




