▲ついてないサラリーマンの苦悩10
面談をするため、会社を早退して編集部に向った。
なんの変哲もないビルの四階にオフィスが構えられていた。
『あおぞらブックス』と書かれた表札代わりの看板がドアに貼られている。
「失礼します。先日お電話した田嶋と申します。山本さんはいらっしゃいますか?」
「少々、お待ちください」
奥の方から三十代くらいの女性が歩いてきた。非常に愛想がなく怖い。
「お待ちしておりました。私は山本と申します」
無愛想な表情のまま、応接用の机に案内された。
壁のない開放的なオフィスには五、六人デスクワークをしたり、実際の誌面を見ながら話し合いをしていた。
席に案内され座ると、すぐに話し始めた。
「では、早速本題に入らせてください」
テーブルに置かれている一冊の雑誌。『月刊 島と海』と書かれている。
「弊社で出版しております、島と海の編集協力していただきたいと思い募集させていただいております」
「再来月号の発行を最後に休刊するのですが、編集に当たっていた者が別件で出張しておりまして、人員が足りておりません」
「具体的に何をするのでしょうか?」
「取材先から送られてきた原稿をチェックしていただきます。誌面に載せるページとなって送られてくるので、誤字や脱字、明らかに不適切な部分を見つけていただきます。発行が近くなれば、内容に関する話し合いにも加わっていただきます」
マニアックな雑誌であれば、島マニア、海マニアが集うんじゃなかろうかと思った。実際、今勤めている出版社にもそういう編集部がある。
「あまり島とかに詳しくないのですが…大丈夫でしょうか?」
「それは大丈夫です。休刊後の業務内容は現在調整中です。追って連絡いたします」
「分かりました。力になれるよう頑張ります」
「よろしくお願いします」
あらかじめ経歴を伝えてあり、その上での面談ということでほぼ確定のようだ。
「山本さん、電話です」
向こうの方から声が聞こえた。
「少々、お待ちください」
山本さんは電話対応で席を外した。
机に置かれた『月刊 島と海』を読んでみた。案外、普通の旅行雑誌の様な内容だった。
《海派のためのバイブル》という謳い文句の通り、島の特徴に見どころ、おすすめの店に宿情報。島だけではなく、様々なクルーズ船の紹介や釣りの情報、海が売りのリゾート地の紹介なども載っている。
巻末には、『月刊 山と森』の紹介がしてある。こちらの謳い文句は《山派のためのバイブル》だった。確認するまでもなかった。
五分は過ぎたはずだが帰ってこない。
それにしても、愛想のない事務的なやり取りだったなぁと思いながら、辺りを見回していると二十代前半くらいの綺麗な女性がやってきた。
「お待たせして、申し訳ございません…山本がすぐには戻って来れないようなので代わりに西浜が対応いたします。よろしくお願いします」
「お願いします」
そこから、雑誌とこの出版社の説明を聞いた。
「では、来月からよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
終始、堅苦しい表情で会話をした。ぎこちなくて、話がちゃんと聞けていたかどうかも怪しいほどだった。
事務的なやり取りは嫌だが、あまりにガチガチしすぎるやり取りも疲れる。
「あの…よかったら、これを…」
帰ろうとした時、話しかけられた。
「あ、ありがとうございます」
渡されたのはペットボトルのお茶。
「お疲れ様でした」
深々と下げた頭を上げた時、彼女は最後の最後に愛想笑いではあるが、明るい表情を見せた。
そのことが何故か嬉しく感じられた。




