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ファインダー  作者: 福山直木
ポートレート〜それぞれの明日〜
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◆ひとりぼっちな写真部の日常15

夏が近づく校庭の木々は次第に深みのある緑になってゆく。

ここ数日は雨が続き、より一層緑が映える。


湿度が高い。どこからか漂う雨の匂いとひんやりとした空気が梅雨らしい。朝から激しく降る水滴は時間を追うごとに穏やかになってゆく。

今日は次第に雨が弱まると伝えていた天気予報は正確だったようだ。



明かりを灯しても薄暗い部室には、石田さんを除くメンバーが集まって暇を持て余している。石田さんはというと、補習で居残り授業をさせられているらしい。


木次川くんと新谷さんが会話をしている。

私はというと、窓に面した机に伏せている。昨日から微熱が出ていてしんどいのだ。夏風邪というやつである。

休まない理由は微熱だからではない。

あと数週間もすればテストが始まるため、軽症で休んでいられない。


とはいえ登校中に雨を沢山浴びてしまい、症状は悪化する一方だ。


「夢とか目標とか、何かないの?」

将来に関する話を繰り広げる新谷さんが木次川くんに訊く。

「あったら、写真部に入ってねぇよ…」

だるそうに答える。

「小学校の卒アルには、"大工になりたい"とか書いてた癖に」

「小学生の時の話、出して来んなよ」

どうやら、二人は小学生の頃からの知り合いだったらしい。


「あはは…ごめん…黒歴史だった?」

からかうように彼女は言う。

「黒歴史じゃねぇよ…」

恥ずかしそうに彼は言った。


「なんで、辞めないの?写真部。本当はつまらないんでしよ?」

「そりゃ、顧問に何されるかわからねぇからな…まぁ、それだけじゃねぇけど…」

「ん?なんて言った?」

「なんでもねぇよ」

気になる言動をしつつも、すぐにごまかした。


「私はさ、あんたにちょっと憧れてたんだよね。小学生の頃は運動ができて勉強も"そこそこ"できて…そういう人になれたら…なんて思ってたんだ」

「なんだよ…いきなり…てか、そこそこは余計だろ」

「でも、急に転校しちゃうし、風の噂でグレたって聞いて正直、見損なった。挙句の果てに私の友人が絡まれて…もう、言葉がないわ」

呆れたように言った。

「ただの悪口かよ…」

「何があんたをそこまでさせたの?」


「…他のやつに話すなよ」

「はいはい。ハルミちゃんがいるけどね」

「いいんだよ……中学に入ってすぐ、父親の見習いになって本気で大工を志した。最初のうちは良かった。でも、次第に厳しく見られるようになってきて、お前は向かないって言われるようになった」

「そんなに下手だったんだ?」

「うるせぇ。進歩が遅かっただけだ……人には向く向かないがあって、向かない仕事を引き受けるんじゃねぇって上から目線で言われ続けた。酷い時は工作すんなって言われたよ。次第に大工から距離を置くようになった」


寝たふりをしながら会話を聞いていた私は、彼の話の最中にくしゃみをしてしまった。

誰かが立ち上がり、石田さんの席に置かれていたであろうブランケットを私に掛けた。


「ふふ…意外…」

新谷さんは、にやけながら言った。その発言から、ブランケットを掛けてくれたのが木次川くんだと分かった。

「なんだよ……」

「別に……それで、グレたの?」

新谷さんは何事もなかったように話を続けた。


「俺は大工にしか興味なかったから、他にやりたいことなんてすぐには思い浮かばなかった。恋愛したり、部活に汗を流してワイワイやってるやつらが気に入らなかった…。段々と柄の悪い奴になっていった俺は、知らない間にクラスの輪から外されてた」

「それで、転校したんだ?」

「家出して、じいちゃんの家に世話になってただけだ。家に連絡したら休学扱いになってたよ」


そこまでしか覚えていない。

ブランケットで温かくなったせいか、眠りに就いてしまったようだ。


夢を見た。

不思議なことに私には幼少の頃の記憶が極端に少ない。

小学生低学年の時の事故で飛んでしまっているのだが、時々事故前の記憶が夢の中に出てくることがある。


ブランコに乗り、遊んでいた。

ふと公園の前の道をお父さんらしき人が通りかかって、私は走って公園を出てゆく。

その人は歩くのが早く。なかなか追いつけない。

信号に引っかかり、やっと追いつけた私は「お父さん!」と呼ぶ。

だが、振り返ることはなく、青に変わる横断歩道を渡り始めてしまった。

ただ、立ち尽くすしかない私は辺りを見回した。

いつの間にか、知らない場所に来てしまっていたのだ。

幼少の私には、帰る手だてなど思い付くはずもなく不安になって泣き出した。

「どこから来たの?」

街角のお店の人が泣いている私に駆け寄る。

私はうつむいたまま指を指すと、私の手を引いてその方向へ歩きだした。

「来た道を戻れば、知っているところにいけるよ。安心して」

と励ましてくれた。

顔を見上げると優しいおばあちゃんだった。


ハルミ!どこ行ってたの!

すぐにお母さんが駆けつけて、私を叱った。

「ごめんなさい…」

「ありがとうございます。本当にすみませんでした。ほら、ハルミもお礼!」

「ありがとう…ございます」

二人でおばあちゃんにお礼を言った。

「いえいえ、どういたしまして。ハルミちゃん、気をつけるんだよ」

おばあちゃんは優しく微笑んだ。


「そうだ…ハルミちゃんにこれ、あげる」

おばあちゃんは手製のカエルの根付ストラップをくれた。

「これはね。困った時に助けてくれる魔法のお守りなんだよ。おばあちゃん、沢山持ってるからあげる」


「おばあちゃん、魔法使いなの?」

「そうだよ〜みんなには内緒よ〜」

「うん!」

微笑ましい会話の途中で途絶えた。


この夢は初めて見た。


目覚めると保健室に寝かされていた。

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