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選んだあとも、選ばれなかったあとも。  作者: 9ry5hrk_2we


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第24話 覚えてるけど。

 十二月に入って、帰り道が急に寒くなった。朝はそうでもなかったのに、校舎を出るころには風が強くなっていた。千夏はマフラーに顎を埋めた。隣では、望が両手を制服の袖の中へ引っ込めている。

「寒い」

「何でマフラーしてこなかったの」

「朝はいらないと思ったから」

「天気予報見ればよかったじゃん」

「千夏、お母さんみたい」

「うるさい」

 少し前を歩いていた朔が、何、と振り返った。何でもない、と二人で答えると、朔はそのまま前を向いた。その向こうから、高等部の制服が一人歩いてくるのが見えた。先に手を上げたのは望だった。

 ひかりもこちらに気づいて、片手を上げた。三人とも一緒だったんだ、と言いながら近づいてくる。澪は委員会で、今日は先に帰っていいと言われたらしい。そのまま四人で歩き出すと、自然に朔とひかりが前になり、千夏と望がその後ろについた。

 

 風が吹くたびに、ひかりの髪が揺れた。ひかりが何か言い、朔が答え、ひかりが笑う。声は風にちぎれて、後ろまではよく届かなかった。千夏はマフラーを引き上げた。しばらく歩いたところで、温かいの飲みたい、と望が言い出し、四人でコンビニに寄ることになった。

* * *

 望はまっすぐ温かい飲み物の棚へ向かった。千夏は冷蔵ケースの前で足を止め、扉を開けて、いつものペットボトルを一本取った。

「それでいいの?」

 すぐ横から、朔の声がした。千夏は振り返った。

「……何が?」

「それ」

 朔は千夏の手元を見ている。

「いいけど」

「そう」

 それだけ言って、朔は別の棚へ目を移した。千夏は手の中のペットボトルを見た。いつものだった。

 少しして、ひかりが冷蔵ケースの前へ来た。何にしよう、と並んだボトルを眺めていると、朔が横から扉を開け、迷う様子もなく一本取って差し出した。

「これだろ」

 黄色いラベルだった。ありがと、とひかりは受け取って、そのまま籠に入れた。朔はもう向こうの棚へ歩いていく。千夏は自分の手元を見た。

「千夏、行こ」

 レジの方から、望が呼んでいた。うん、と答えて、千夏もそちらへ歩いた。

* * *

 店を出ると、風はさっきより冷たくなっていた。望は買った缶を両手で包むように持って、熱い、と顔をしかめた。温かいの欲しかったんでしょ、と千夏が言うと、熱いのと温かいのは違う、と返ってきて、前を歩いていたひかりが笑った。

 ひかりが歩きながらペットボトルを開けると、小さく炭酸の抜ける音がした。千夏も自分の蓋を開けて、一口飲んだ。いつもの味だった。前を歩くひかりの手に、黄色いラベルが見える。


――これだろ。

 千夏はもう一口飲んだ。

――それでいいの?


「千夏、信号」

 望に袖を引かれて、千夏は足を止めた。横断歩道の手前だった。何してんの、と聞かれて、何も、と答える。信号が青になり、四人で渡った。渡りきったところで、ひかりが足を止めた。

「じゃあ私、こっち」

「はい。また」

「またね」

 望が手を振り、朔も振り返って、また明日、と言った。うん、また明日、と返して、ひかりは一人で歩いていった。手にした黄色いラベルが少しずつ遠くなり、角を曲がると、見えなくなった。

 三人はまた歩き出した。四人から三人になっただけの、いつもの帰り道だった。

* * *

 住宅街へ入るころには、家々の窓に明かりがつき始めていた。

「あ、朔。明日、英語の提出だからね」

「知ってる」

「ほんとに?」

「知ってるって」

「鞄に入れた?」

「入れた」

「家帰って出したりしないでよ。そのままにしときな」

 しつこいなあ、と朔が不満そうに言う。朔だから言ってるの、と返すと、朔は眉を寄せた。

「千夏に言われたくない」

「何で」

「この前、日にち間違えてただろ」

 千夏の足が、少し遅くなった。

「……何のこと?」

「文化祭の計画書」

 朔は前を向いたまま歩いている。千夏はその横顔を見た。

「覚えてたの?」

「覚えてるけど」

 何でもないことのように、朔は言った。望が、ちらりと千夏を見た。

「一回だけじゃん」

「一回でも間違えただろ」

「ちゃんと出したし」

「俺もちゃんと出すって」

「忘れても知らないからね」

「はいはい」

「その返事が信用できない」

 朔が少し笑った。

 千夏は二歩ほど早く歩いて、その横に並んだ。手の中のペットボトルは、もう半分くらいになっていた。いつもの味だった。

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