第17話 これでいい?
文化祭が終わって、一週間ほど経った。教室からは、もう模造紙も段ボールもなくなっていた。黒板の端に残っていた『文化祭まで』の文字も、いつの間にか消えている。
放課後、千夏が鞄に教科書を入れていると、教室の入口に朔が立っていた。望は、と聞かれて、職員室、と答える。
「何で?」
「知らない。呼び出されてた」
望を待つ、と言った朔は近くの空いた席に座った。千夏もそのまま自分の席に残る。スマートフォンを出そうとして顔を上げると、朔と目が合った。
「今見てた」
「前にいるのが悪い」
千夏が少し笑うと、朔は怪訝そうな顔をした。そのとき、望が戻ってきた。
「望、なんか悪いことしたの? 父さんに言ってやろうか」
「違う。文化祭の委員会、反省会の日程聞かされただけ」
朔は拍子抜けしたような顔をした。
「一緒にコンビニ寄らない?」
千夏が言った。文化祭頑張ったから、と続ける。もう一週間前だろ、と朔は呆れていたが、結局三人で行くことになった。
* * *
外は、文化祭の前より少し涼しくなっていた。
コンビニの入口には、もうハロウィンの菓子が並んでいる。望は肉まんがあるか見てくると言って、先にレジの方へ行った。
千夏が冷蔵ケースの前に立つと、横から朔の手が出た。一本取って、そのまま千夏へ渡しかける。いつものだった。棚の端には、レモン味の炭酸が並んでいた。
受け取ろうとすると、朔の手が少し止まった。
「……これでいい?」
千夏は首を傾げる。
「いつもそれじゃん」
「知ってる」
「じゃあ何で聞くの」
朔は答えず、いらないなら戻す、と言った。
そのとき、不意にひかりの声を思い出した。
――聞かないんだ。それでいい?って。
「いる」
それだけ言って、受け取った。ペットボトルを持ったまま、朔を見る。
「何?」
「別に」
今度は千夏が答えた。朔はもう、自分の飲み物を探していた。
* * *
店を出ると、望は肉まんではなく、小さな菓子の袋を持っていた。歩きながら開けようとするので、家まで待てば、と千夏が言う。朔にも止められ、二人ともうるさいなあ、と望は袋を鞄へ押し込んだ。
しばらくして、クラスのグループに上がっていた文化祭の写真の話になった。
「そうだ、朔も写ってたよ」
どうして、と聞く朔に、二組で手伝ってたからじゃない、と望が答えた。消して、と言われて、撮ったの私じゃないし、と望が返す。千夏は少し笑った。
「何」
「別に」
「またそれ」
朔だって言うじゃん、と返すと、俺はいいんだよ、と意味の分からないことを言った。望が二人を交互に見た。
「二人、文化祭のころからちょっと変じゃない?」
「変じゃない」
朔はすぐに答えた。
「……変じゃない」
同じ言葉が、遅れて出た。
望は何も言わなかった。千夏の顔を一度見てから、前を向いた。千夏はペットボトルに口をつけた。
いつもの分かれ道まで来た。また明日、と千夏が言うと、望も同じ言葉を返した。朔も、また明日、と言った。
千夏は一人で道を曲がった。歩きながら、ペットボトルの蓋をもう一度開けた。




