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「離婚しましょう、お嬢様」「いいえ、溺愛してもらいますわ!」〜英雄伯爵と毒沼令嬢の幸せすぎる政略結婚〜  作者: 朱音ゆうひ@4月1日新刊発売!


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20/25

20、???????

「王太子殿下。デザートコースはありますが、このお部屋は無人ですわね。お話が違うようですが?」

  

 王太子バティストに連れられて入った部屋に他の人間がいなかったので、ダリアは警戒度を高めて袖の下に隠した暗器に手を伸ばしかけた。


「ちょっと誰もいないからといって俺を暗殺しようとするな。これだからキンツェル伯爵家は」


 バティストは呆れた顔で言い、パチンと指を鳴らした。

 すると、ダリアは強制的に椅子に着席させられた。

 魔法によるものだ。

 立とうとしても、見えない何かに縛られているみたいに身動きができない。


「まあ! 素敵」

「喜んでいるのか? ウェルザー伯爵夫人?」

「殿下。この魔法、できれば誰にでも見える茨などにできませんこと?」

「何を言っている? ウェルザー伯爵夫人?」


 〜妄想〜

 暗い部屋の中で燭台の灯りに淡く照らされるわたくしは、茨で縛られて動けません。

悪の王太子「くっくっくっ、これで夫人は俺のものだ(ニタァ……)」

わたくし「いやっ、来ないで……(ヒロインらしく可憐に)」

 そこへ颯爽と白馬に乗ったヘルマン登場!

 

「こんな感じですわ」

「……夫婦仲が良さそうで何よりだ」


 バティストはダリアの妄想を理解してくれた。実践には付き合ってくれなかったが。

 彼がパチン、と指を鳴らすと、見えない魔法はするりと解かれた。


「あら、拘束を解いてくださってありがとうございます」

「いそいそと暗器に手を伸ばすな。俺は敵ではない。貴様の協力者だ」

「ですが殿下、わたくしの茨ヒロイン計画には加担してくださらないのでしょう?」

「勝手に変な計画を立ち上げるな、ウェルザー伯爵夫人。お前たちはどうも変な風に変わったな」


 変わったとは、どういう意味だろう。

 ダリアは違和感を飲み込まなかった。


「殿下、わたくしたちが『変わった』とは、どういう意味でしょうか?」

「そのままだ。人間、ちょっとしたきっかけで変わるだろう。国もそうだが……」

「それはそうですが、そういうニュアンスのご発言に聞こえませんでしたの」 

「それは、そういうニュアンスじゃないからだな」

  

 話してみた感じ、この王太子はまったく脅威ではない。

 ダリアは安心してデザートプレートに手を伸ばした。


「わたくしは常々思うのですわ。夫ヘルマンはいくつもの武勇伝が本になっておりますが、ひとつくらい、わたくしがヒロインの本があってもよろしいんじゃないかしら、なんて……」

  

 黄金色に艶やかに煮詰められたりんごが香ばしい生地の上に美しく並んだ温かいタルトにフォークを入れると、蜜がとろりと溢れる。上品に口に運べば、滑らで豊かな甘みが幸せ気分にしてくれた。

 スイーツに舌鼓を打ちつつ、ダリアは本題に切り込んだ。


「先日など、わたくしの夫は殿下の夢を見ていたのです」

「ほう。俺の夢を?」

「殿下は夫に夢の中で呪いをかけて苦しめたのですわ」

「それはまったく正しい認識だ」


 自白?


 ダリアが瞬きをして顔を上げて、異変に気付いて身構えた。


「あら……?」

 

 いつの間にか部屋の内装が変わっていた。デザートプレートやテーブル、椅子のセットはそのまま。

 しかし、床には五芒星の魔法陣が広がっている。ダンジョン攻略で見つけた部屋と同じだ。

 五芒星の五つの頂点には本が置かれていて、そのうちの一冊が緑色に光っている。

 本の表紙には『名もなき時計屋ロルロジェ・サン・ノン』というタイトルが書いてあった。


「ダリア・ウェルザー伯爵夫人。真実を告白しよう。お前たちを呪ったのは、この俺だ。正確に言うと、俺の前世……二代目竜騎士王、バロンという男だ」

 

 王太子バティストがタルトを一切れ取り、ぱくりと齧りつくと同時に、彼が贈ったクマのぬいぐるみが可愛らしい声でしゃべりだした。

   

名もなき時計屋ロルロジェ・サン・ノンの研究室、第三幕。


 古代、二代目竜騎士王バロンによる支配の時代が始まるよ。

 

 バロンは狭量な青年王――伝説級の父王を敬愛しつつ、二代目のプレッシャーに生涯悩まされた孤独な王だ。

 

 歪んだ青年の王子時代を語ろうか。

 バロンは自らが滅ぼした闇の眷属の生き残りである幼い吸血鬼の兄妹を保護して育てたが、我が子のように慈しんだのにも関わらず、兄妹は同胞の仇として憎悪を向けてきた。

 寝ても覚めても暗殺を仕掛けてくるふたりに辟易したバロンは、ふたりに臣従の呪いをかけて自分に敵対できないようにした。

 命令は絶対だ。

 吸血鬼の兄妹は敵意を抱えつつも表面上は従順にバロンの言いなりになる。

 まるで人形遊び。人形には心があるのに、心を踏みにじって真逆のことをさせている。バロンは根の部分で善性も持っていたので、自分の行いに良心の呵責を覚えて苦しんだ。同時に、妹のヴィクトリアが美しく成長していくと、彼女に執着心も抱いてしまう。

 

 しかし、ある日、ヴィクトリアは他の男と恋に落ちた。

 闇妖精と人間のハーフ、魔術師アルチュールだ……」


 領地に出現したダンジョンのときと同じ。

 (いな)――語られている時系列が、それより前の出来事のようだ。


 ダリアがぬいぐるみの語りに聞き入っていると、王太子バティストがパチンと指を鳴らした。

 すると、ぬいぐるみの声がぴたりと止まる。

 ぬいぐるみと交代するようにして、バティストは語った。


 語りと同時に、ダリアの視界に過去の映像が見せられる。

 魔法で作られた映像には、見たことがないのにどこか懐かしい男性が順に浮かび上がった。


名もなき時計屋ロルロジェ・サン・ノンは、魔術師アルチュールが生まれ変わった人物だ。奴は記憶を保持して輪廻転生を繰り返していた。そして現在のヘルマン・ウェルザー伯爵になったのだ」


 見覚えのあるヘルマンの姿が映し出されて、ダリアはまじまじと映像に見惚れた。


名もなき時計屋ロルロジェ・サン・ノンと魔術師アルチュールも素敵ですけど、わたくしはヘルマンが一番格好いいと思いますわ」

「他に感想はないのかよ」

「正直申しますと、なかなかに驚いておりますし、困惑もしておりますわ」

「そうそう。そういう感想がほしかったんだ、俺は」


 バティストは呆れた声で言うと指を再び鳴らした。


 部屋が一変して、広々とした草原になる。ドラゴンが空から降りてくる。


 魔術師アルチュールとヴィクトリアはその日、竜騎士の手にかかって命を落とした。

 しかし、見守っていると変化が起きる。

 アルチュールは記憶を保持したまま輪廻転生をする術を仕掛けていたのだ。

 

「『悲劇を覆すまで終わらない』『逆転の輪廻ル・サムサラ・アンヴェルセ』……」

「アルチュールめ、妙な術を。そうはいかないぞ」


 竜騎士バロンは、それに対抗する呪いを放った。


 アルチュールは転生し、新たな人生を歩んでいる愛しいヴィクトリアの転生体を探し出して愛を囁く。

 彼らは出会いなおして再び恋をしなおし、結ばれる。そこで竜騎士バロンの呪いが発動して、ふたりは破滅する。

 アルチュールの転生体は呪いに気づいた。

 後世で名もなき時計屋ロルロジェ・サン・ノンと呼ばれた彼は呪いを放った竜騎士の国を恨み、呪いを跳ね返す大掛かりな仕掛けを国土に施した。

 呪いが発動すると仕返しにダンジョンが湧き、モンスターが国土を荒らす迷惑極まりない仕掛けだ。

 数代後の王はそれに気づき、ダンジョンを攻略するための魔法を作ろうとした。彼の王女はヴィクトリアの転生体で、自国を愛していた。

 王女が三度生まれ変わって自分に会いにきたアルチュールの転生体を批難すると、彼は反省を口にした。そして、記憶を捨てて生まれ変わった。

 そうして生まれたヘルマン・ウェルザーはアルチュールの記憶を持たなかったが、ヴィクトリアの生まれ変わりであるダリアと出会い、恋に落ちた。

 記憶こそ受け継がれなかったが、アルチュールの輪廻転生の魔法と恋人への執着は健在で、竜騎士バロンの呪いもまた継続されていた。もちろん、呪いの発動と共にダンジョンが出現する仕掛けもだ。

 そのためヘルマンとダリアは破滅したのだが……「俺もまた、前世を思い出したのだ」王太子バティストはうんざりした口調でそこまでを教えてくれた。


「俺が悪かった。国民を巻き込む三角関係はもう、うんざりだ。やめようじゃないか」


「それをわたくしに言われましても……」


 ダリアはどんな反応をするべきか本気で悩んだ。


「ウェルザー伯爵夫人。お前の頭はどうなっているんだ。俺は真剣に話しているんだぞ。ふざけているわけではないんだ」

「殿下。あまりにも途方もない話で、飲み込むのに苦労しておりますの。現実味がなくて……ただ、はっきりしてきたのは、なんだか……。わたくし、ヘルマンにとても……」


 ……前世の前世のそのまた前世(詳細不明)からずっと愛されて執着されて追いかけられています?


 それはなんだか理想の夢を超過しすぎていて、まったく自分事に思えない話だった。


「ウェルザー夫人。呪いを解かないといけない。そう思わないか?」


 バティストはドラゴンの騎乗する竜騎士バロンを指さし、必死に訴えかけてくる。その姿はまったく怖くもなんともなくて、逆にどこか哀れっぽくて滑稽で、可愛らしさまで感じられる気がした。

 ダリアはおっとりと頬に手を当て、「大変ですわね」と頷いてみた。

 すると、バティストは「そうだろう」とほっとしたように吐息をつく。彼はどうも善良で、前世の記憶にひとりで苦しんでいたのかもしれない。そう思うと、ダリアはバティストが可哀そうになってきた。


 だって、前世の記憶があっても前世と今世の彼は別人ではありませんこと?

 

「大変でしたわね、殿下」

 

 ご同情申し上げますわ、と優しく言ったとき、可哀そうなバティストは自信満々に言葉をかぶせてきた。

 

「アルチュールと竜騎士バロンの妄執をもろともに昇華させてやり、ふたりの魔法と呪いを共に消滅させるんだ。ふたりの望みを両方叶えてスッキリさせてやるというわけさ」

「ふ、ふむ……?」


 この殿下は何をおっしゃるのかしら。よくわかりませんわ。

 でも、自信満々ですし、きいてみましょう。

 

 ダリアは神妙な顔で頷いた。それに励まされたようにバティストは言い切った。

 

「つまり、アルチュールとバロンを両方暗殺するのだ!」

「……?」

 

 ???????


「あっ、なっ、ウェルザー伯爵夫人⁉︎ なんだ、その『?』は! 新しい暗殺ワザか⁉︎ や、やめっ……」

 

 バティストが不思議なことを言うので、ダリアは頭から「?」を大量に噴出させて広い空間を埋め尽くしたのだった。


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