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かわいくおめかし

 今日の頭のてっぺんから爪先まで、ボクの格好は一分の隙なく完璧だ。肌触りがよくて淡い空色をした、それでいてちょっと色っぽいパーティードレスに身を包み、いつもなら結ばず、良くて髪飾りをつける程度の髪は、小さくお団子を作って纏められている。指の先も、脚にも、手を抜いた部分は微塵もない。はっきりと言える。これは今までで一番かわいいボクだ。


 待ちに待ったパーティーの日。ボクはそれまでに、主にラフィネとともに、この日のための衣装、装飾品などを、選び抜いていた。そして、五日くらい経ったときのことだろうか。やっとのことで、この格好に辿り着いたのだった。

 元々はラフィネには頼まず、自分の力で選ぼうとしていた。心に余裕はなかったとはいえ、ラフィネを傷付けるような行動を取ってしまった。それに、服装に気合いを入れる理由が理由だから、とても頼りづらい。そう考えて、イリスさんに少し手伝ってもらいながら、衣装探しを始めた初日、一時間も経たないうちに、ラフィネは家まで来て、不満げに言ってきた。


「何楽しそうなことしてんの。僕に言わないなんて水臭いでしょ」


 一言そう告げると、ラフィネはガラガラと持ってきた服やら靴やらを部屋の中に片っ端から入れ始めたのだった。どうやら、セザールさんがこっそり言いに行ってしまったそうだ。僕も本気でいくから弱音吐かないでよね、と何食わぬ顔でそう言ったラフィネに、ボクは良くないと思いつつも、彼に甘えて、その手を借りてしまった。

 今さらだけど、せめてけじめはつけておきたいと思い、タイミングを見計らって話を切り出そうとしたものの、そんな暇は全くなかった。どっちもコーディネートや試着を繰り返し行っていたため、それ以外の会話なんて、行き帰りの挨拶くらいだった。


 そしてそのまま時が流れ、最終的にはこれで行くことに決まった時が最初で最後のチャンスのようなものだったのだけれど、そこでさえもラフィネは隙を作ることはなく、ボクが言うよりも先にこう言った。


「ほら、やっぱり僕がいた方がかわいくなったでしょ。後ろめたいとか申し訳ないとか言ってる暇があったら、自分の魅力を引き出して、さっさと男の一人や二人、ものにしてきなよ。僕の手で組み合わせたコーディネートでそれが出来たんだったら、成長してるって実感できるしさ」


 背中を勢いよく押されるようなその言葉には、これでこの話は終わりだという固い意思が、強く込められていた。ラフィネの顔は、満足そうでありながら、送り出すように優しいもので、それがさらに、ボクが言葉を口にするのを阻んでいるかのように思えた。

 ボクは、誰よりも強い彼を選べないことをほんの僅かに悔いつつも、その言葉に対して頷いてみせた。


 そんなわけで、ラフィネのお陰でこうして史上最高にかわいいルミアが出来上がったのだった。うん、改めて見ても、どこに出しても恥ずかしくないお嬢様に見える。中身が伴ってないのはもうどうしようもないけど、見た目だけならとてつもなくかわいい。元のルミアは綺麗で美しいタイプだったから、かわいさではボクが勝っているのではないだろうか。いや、勝ち負けの問題じゃないんだけどね! そう思えるくらい自信がついているということだ。


 胸を張って、パーティー会場である部屋に入っていくと、すぐにフランがボクの方へ駆け寄ってきた。今日はおめかしをしているから、抱き着いては来ず、ボクの近くで立ち止まって、花が咲いたような笑顔でと話しかけてきた。


「わあ! ルミアちゃん! いつもかわいいですけど、今日は一段とかわいいですね!」


「フラン! 別にそ……」


 そんなことない、と言おうとして、止めた。今日のボクは、そんなことなくはないのだ。自信を持っていかなければ男の一人や二人も……二人も要らないんだけど、とにかく、ラフィネの言葉にも応えられないし、努力を水の泡にしてしまうように感じるから、肯定していかなければ。

 少し照れ臭いが、勇気を持って口を開いた。


「フランにも、そう見える? 今回は結構頑張ってみたんだ」


 フランは一瞬固まった後、言葉を次から次へと口にし始めた。


「はい! とってもかわいいです! ルミアちゃんのかわいさは無限大だと再確認してしまいました! そのかわいらしさはもうこの国一どころか世界一と言っても過言ではないです! これはもうかわいいを具現化したものがルミアちゃんであると言ってもいいのではないでしょうか! ああああああああ私の知る全ての語彙を駆使してもルミアちゃんの真のかわいさを語り尽くすことはできません! 身も心も全てがかわいらしく、もう天使、天使なのでないでしょうか! 神様が浅ましい人間たちに、本当のかわいさというものを知らしめるために遣わせたのではないかと錯覚するほどのかわいらしさで」


「待って! もうわかったから! お願い、止まって!」


 基本的にいるのは身内だけだったとしても、そんなにもマシンガンみたいに自分のかわいさを語られるのは居たたまれない。気持ちは、気持ちは嬉しいんだ。だけど、フランが語ったことの六割くらいは胸の内に秘めておいてほしい。外に出すとしても他の人には見えない範囲で、せめて文字とかに書き起こして。


「あら、そうですか? それならこの辺りで止めておきますね」


「うん、そうしてほしい」


 ボクの表情を見て、ふふふ、とフランはころころ笑った。ボクが照れているのを、面白がっているのだろうか。……フランは、かわいいから許そう。

 少しの間笑った後、フランは思い出したかのように声をあげた。


「あ、そうでした。ルミアお嬢様、本日はお招きいただきありがとうございます。一家ともども楽しくパーティーを過ごさせていただきます」


 そう言って深々と頭を下げるフランを、ボクはポカンと口を開けて見ていた。何で、急にこんなことをし始めたのだろうか。今までもこういう場で会っても固い感じの挨拶はしなかったのに。

 ぐるぐると考えを巡らせていると、フランは顔をあげて、また朗らかに笑顔を浮かべた。


「ふふ、一度もきちんと挨拶したことがない、と家族に話したら、一回くらいはしてみようかという話にはりまして、どうでしたか?」


「どうって……きちんとできてたよ?」


「そうですか、それならよかったです。……実は、初対面の時は混乱してしまっていて、挨拶できていなかったので。少しだけ、気にしてたんです」


 そう言われてみると、確かにフランは混乱してたな。今でこそこんなにも落ち着いて……ないときもあるけど、ちゃんと余裕を持って話ができてるけど。昔のやり直しがしっかりとできたのなら、ボクも嬉しい。

 フランの安心した表情にほっこりしていると、フランがやってきたのと同じ方向から、見覚えのある子が歩いてきた。


「姉上、ルミアちゃん」


「ベストちゃん」


「あれ? どうしたんですか、ハーベスト。嫌いな食べ物でもありました?」


 やってきたのはベストちゃんだった。何故かこそこそと名前を呼ぶ彼女につられて、ボクたちも小声になって話してしまう。


「いえ、姉上。もう私も子供ではないのですから、そんなこと仰らないでください。そうではなくて、料理人に混じって厨房に立っていらっしゃったお二人が、たった今参りましたよ、とお伝えしに来たんです」


 本日の主役なのに不思議な方ですね、と顔だけそちらに向けながら、ベストちゃんは言った。ボクもつられてそっちを見ようとした、その瞬間に、フランに手を取られ、その方向へと引っ張られる。


「え、ええ!? フラン!?」


「早く行かないと! 善は急げですよ、ルミアちゃん!」

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