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味方などいない

 フランに手を引かれ、深呼吸する間もなく、前に出てきてしまった。まだ、せめて一回遠くから見て心の準備をしてから、行ってみようと思っていたけど、一時撤退するのも格好がつかない。


「エドガーさん!」


「フランさん! 会いたかったっす~!」


「こちらこそ、エドガーさんに会いたくて仕方がなかったですよ」


「ひえええ……そんなこと言われたの生まれて初めてかもしれないっす。え、死ぬ? おれ幸せすぎて死ぬんすか? それとも都合のいい夢なんすかー!?」


 エドガーさんったら困っちゃいますねぇ、と口では言うものの、フランの表情は全く困った様子は見られず、晴れやかな笑顔をしていた。うん、仲が良いのは結構なのだけれど、少しこっちを助けてもらえるとありがたいんだけどなあ。


 ボクは横の二人の会話を聞きながら、黙って俯いていた。ルドヴィンの声は聞こえない。脚は見えてるから、確かに目の前にいるはずだけど、声をかけてくる気配はない。ならば、ボクが動くしかない!

 そう意を決して、そっと慎重に顔をあげてみると、ルドヴィンとバッチリ目が合ってしまった。思わずさっと顔ごと視線をそらしてから、今度は目だけで彼を見てみる。いつも通り悪そうな表情をしているものかと思いきや、ルドヴィンは予想外にも、びっくりしたような表情でボクを見ているようだった。

 どの辺りに驚く要素が? もしかして、いきなり目をそらしてしまったからか? そう考え付き、申し訳なさを感じながらも、顔をまた正面に向け、今度は真っ直ぐルドヴィンを見て、声をかけた。


「えっと、ルドヴィン。久しぶりだね?」


 ……反応がない。あれ? 無難なことを言ったつもりなんだけどな。いや、待てよ。最後に会ってから一ヶ月も経ってないし、久しぶりだと感じてるのはボクだけかもしれない。久しぶりという挨拶を使うにはいささか期間が短すぎて、何言ってるんだこいつ、と思っているのか? くっ、盲点だった。

 というか、どうしてこんなにも驚いている感じなんだろう。ボクの見た目はラフィネのお墨付きだし、フランにもたくさん褒めてもらったはずだけど……もしかして服のどこかにシワになっているとか!? 髪がはねてたりとかしてるのか!? それはさすがに自分ではわからない。フランがエドガーさんと楽しくお話し始める前に聞いておけばよかった!


 ……仕方ない。ルドヴィンに恥を忍んで聞かせてもらおう。それが一番手っ取り早くて、不振な動きもせずに済む。


「……どこかが変なら正直に言ってほしいな。髪? 服? それとも肌とかかな?」


 ボクがそう聞くと、やっとルドヴィンは声をあげて反応した。まるで今話しかけられていることに気づいたような表情だ。少し戸惑いをみせた後に、ボクに対して言葉を返し始めた。


「変だから見てたとか、そういうわけじゃあねぇよ。ただ……」


「ただ?」


 首を傾げて聞くと、ルドヴィンはちょっと考えるように顔を上にあげながら答えた。


「ただ……いつもと違うから、驚いただけだぜ。あ、あれだな、その、馬子にも衣装って奴だよな?」


 ……それは、褒められてるのか? 何か失礼なことを言われた気がしなくもないけど、褒められているのか?

 そう思っていると、エドガーさんが頬を膨らませながら、ルドヴィンに向かって言った。


「ちょっとルドヴィン様! 折角ルミちゃんがおめかししてるのに、その言い方なんて。ルドヴィン様の思ったことの一割だって伝わらないっすよ!」


「そ、それはわかってんだけどなぁ……」


 エドガーさんの言葉に、ルドヴィンは苦々しい表情で言いにくそうに返していた。ルドヴィンの思ったことって何なのだろうか、と疑問に思ったが、それを口に出す前に、フランが耳元で、内緒話をするようにこそこそとボクに言ってきた。


「大丈夫ですよ、ルミアちゃん。ルドヴィン様のことですから、素直じゃないだけですよ」


 ……素直になれない理由とは、一体何なのだろうか。そう思って、ルドヴィンを見ると、一瞬で目をそらされた。何でだ。さっきは凝視してたじゃないか。


 なら自分で考えるしかない。さっきのルドヴィンの言葉を考えると……まさか、いつもと違うというのはオブラートに包んだ言い方!? やっぱりどこか変なところがあるのか!? そんな、正直に言ってほしいって言ったのに!

 でも確かに、正直に言って、なんて言われても言いにくいことってあるよね。涎の跡がついてるとか、鼻毛が出てるとかか!? だとすると全っ然大丈夫じゃないね!? そんな、今までのパーティーでもそんな恥ずかしいミスはしたことないのに! それなら一回鏡で確認しなきゃ!


「わかった! じゃあ一旦外に出てくるね!」


「え!? な、何がわかったんですか!? ルミアちゃん! ルミアちゃーん!」


 フラン、そんな気を使わなくてもいいんだ。任せて。今度こそ、一切の隙のない格好に仕上げてくるから!

 そう胸に誓い、また会場の外に出た。扉のすぐ近くにはちょうど、ラフィネと兄様が歩いてきていた。


「あ、兄様! そろそろ挨拶し始めるの?」


「ああ、形式としてやっておかなければいけないからな。ルミアはどうしたんだ?」


「ボクはちょっとだけ自分の姿を見直してくるよ」


 ボクがそう答えると、ラフィネがするどく睨み付けてきた。


「何それどういう意味? そのコーディネートに不満が出てきたわけ? それなら気が済むまで付き合ってあげるけど」


 言ってることは思いの外優しいように思えるけど、表情には、どこが悪いのか言ってみろと言わんばかりの圧を感じる。本当に不満があったら、ラフィネを納得させられるように伝えなければ、言葉の刺を大量に刺してくるんだろう。


「不満は全然ないよ! 満足、超満足だから! でもね、ほら! わかる?」


 バッと手を広げてみせる。ルドヴィンが気付いたんだから、おそらく正面からだらしないところが見えるはずだ。

 そう思ったのだが、兄様はきょとんとした表情をした。


「……何のことだ? 今日のルミアは一段と美しくかわいいと言うことか?」


 兄様は相変わらずボクに甘いな!? いや、それかもしや、兄様は正直な方だし、本当に気付いていないのかも? でも、ラフィネなら! ラフィネは人の服装とかには目敏いし、何でもズバッと言うから、確実に指摘してくれるはずだ。

 そう期待しつつ、ラフィネの答えを待った。目を凝らしてみるラフィネに、兄様が、何のことかわかるか、と聞くと、ちょっとだけ間をあけてから、小さく首を傾げながら口を開いた。


「ごめん。全く何を伝えたいのかわかんない。強いて言うなら、僕は芸術とも呼べるほどにしっくりくるコーディネートを完成させてしまったと改めて思ったくらいかな」


「な、何だって……」


 ラフィネでも気付かないなんて、一体みんなはどの部分のことを言ってたんだ!? むう、でもとりあえず鏡で確かめてみるしか……。


「おい、どこ行こうとしてんだ」


 後ろからそう声をかけられると同時に、腕を掴まれた。振り返ると、ルドヴィンが焦ったようではあるものの、どこか不思議そうな顔をして立っていた。

 今のボクをこれ以上ルドヴィンの目に映すわけにはいかない。ボクがルドヴィンを振り切るために口を開きかけたが、その前にラフィネの声が聞こえてきた。


「ちょうど良かった。ルミアは最近ずっと何もさせてもらえなかったから、ちょっと暴れたいみたい。ルドヴィンも付き添ってあげなよ」


「は? そうなのか?」


 な、何故急にそんな嘘を、と思ってラフィネを見ると、少し悪い感じに笑っていた。ま、まさかこの状態でルドヴィンと二人にしようと仕向けてる!? それは不味い! でもどうしよう? ラフィネはこうなったらもう絶対に助けてはくれないし……そうだ! 兄様!

 兄様に助けを求める視線を送る。すると兄様は何かを察したように、ああ、と微笑みながら頷くと、ルドヴィンに向かって言った。


「俺からも頼む。ルドヴィンも最近はずっと暴れていなかったから、ちょうどいいんじゃないか?」


 そうじゃない! 兄様! そうじゃないんだ! 違う意図を汲み取っちゃってるよ兄様!


「……それもそうだな」


「待って、ちょっと待って。一回落ち着こう。落ち着いて話し合おう」


 ボクの制止する声に最早意味はなく、ルドヴィンはニヤリと笑ってボクを抱き上げた。


「よし、行ってくる」


「うん、ゆっくり羽伸ばしてきなよ」


「ああ、ほどほどにな」


「うわああああああああ待って! 誰か止めてえええええええ!」


 二人が静かに見送る中、僕の絶叫だけが一際大きく響いた。

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