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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第一章 武術師範、異世界に立つ
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武術師範、昇級試験を受ける

数日後。


エンターサンド冒険者ギルド。


訓練場には十数人の冒険者たちが集まっていた。


「今日は十級から九級への昇級試験が行われる。」


試験官の声が静かに響く。


昇級試験自体は珍しいものではない。


だが今日は違った。


「素手でフォレストウルフを退けた新人が受けるらしい」


その噂が街中へ広まり、多くの冒険者が見物に訪れていた。


「本当なのか?」


「どうせ尾ひれが付いた話だろ」


「魔力もないって聞いたぞ」


ざわめきの中、ヤスヒコが静かに訓練場へ姿を現す。


いつもの袴姿。


腰に剣はない。


試験官が尋ねた。


「武器はどうした」


「使わん」


「木剣なら貸せるが」


「普段通りで構わん」


試験官は少し考えた末、小さく頷いた。


「……分かった」


「では第一試験を始める」


呼ばれたのは七級冒険者の男。


木剣を構え、一礼する。


「悪く思うなよ」


「試験だからな」


ヤスヒコも静かに一礼を返した。


「よろしく頼む」


開始の合図。


男が一気に踏み込む。


鋭い袈裟斬り。


だが――


ヤスヒコは半歩だけ身体をずらした。


木剣が空を切る。


そのまま男の手首へ軽く触れる。


重心を崩す。


「……!」


男の身体が前へ流れる。


気付いた時には地面へ転がっていた。


試験官が静かに告げる。


「一本」


男はしばらく起き上がれなかった。


何が起きたのか理解できない。


攻撃された感覚すらない。


――何も、させてもらえなかった。


呆然とヤスヒコを見上げる。


ヤスヒコは歩み寄り、静かに手を差し伸べた。


「立てるか」


男は戸惑いながら、その手を取る。


「……ああ」


立ち上がると、ヤスヒコは一歩下がり、静かに一礼した。


「良い立ち合いだった」


男は目を見開く。


勝者が敗者へ敬意を示す。


そんな光景を、彼は見たことがなかった。


場内も静まり返っていた。


「今の……何をした?」


「剣を弾いてもいないぞ」


「触れただけじゃないか……」


試験官は静かに頷く。


「第二試験」


今度は二人。


剣士と槍使い。


「始め!」


二人が左右から同時に攻め込む。


挟み撃ち。


互いに息の合った連携だった。


ヤスヒコは動かない。


正確には、動いているように見えなかった。


半歩。


また半歩。


最小限の動きだけで二人の攻撃をかわしていく。


剣を流す。


槍をいなす。


力ではなく、技。


やがて剣士の体勢が崩れる。


そこへ槍使いが踏み込もうとした瞬間、その勢いまで利用される。


二人は絡み合うように地面へ倒れ込んだ。


「そこまで!」


試験官が声を上げる。


二人とも傷一つない。


それでも勝敗は明らかだった。


「攻撃してないぞ……」


「投げただけだ」


「いや……投げたようにも見えなかった」


観客席では困惑の声が広がる。


二階の執務室。


窓際に立つガレスは腕を組んでいた。


「なるほど」


小さく呟く。


「技だけではない」


「相手を傷付けないよう加減までしている」


隣の職員が尋ねる。


「降りられますか?」


ガレスは短く答えた。


「ああ」


訓練場へ姿を現した瞬間、場内がどよめく。


「ギルドマスター!」


「どうしてここに?」


ガレスはヤスヒコの前まで歩み寄る。


「ヤスヒコ」


「何だ」


「最後に私が相手をしよう」


場内が騒然となる。


「ギルドマスター自ら!?」


「そこまで評価されてるのか!」


ヤスヒコは静かに首を横へ振った。


「必要ない」


ガレスは眉を上げる。


「理由を聞こう」


「立場ある者に怪我をさせる必要はない」


その言葉に、その場の誰もが息を呑んだ。


ガレスは小さく笑う。


「心配はいらん」


「私はそう簡単には壊れん」


「一撃だけでいい」


「君の技を見せてくれ」


しばらく沈黙が流れる。


やがてヤスヒコは頷いた。


「……分かった」


互いに向かい合う。


ガレスは木剣を構える。


ヤスヒコは静かに拳を握る。


深く息を吸う。


踏み込む。


一歩。


その瞬間だった。


「っ!」


誰も見えなかった。


ただ、乾いた衝撃音だけが訓練場へ響く。


ガレスは咄嗟に木剣で受け止めていた。


しかし。


腕が痺れる。


足が半歩、後ろへ滑る。


木剣を握る手が震えていた。


ヤスヒコはすぐに拳を下ろす。


「これで十分か」


ガレスは木剣を見つめる。


刃こぼれ一つない。


それだけ加減されていた。


にもかかわらず、この衝撃。


心の中で確信する。


――本気ではない。


もし本気だったなら。


受け止められたかどうかすら分からない。


ガレスは木剣を下ろした。


「あぁ、十分だ」


試験官が前へ出る。


「ウスイ・ヤスヒコ」


「九級への昇級を――」


「待て」


ガレスが制した。


場内が静まる。


「この男は九級相当ではない」


試験官が息を呑む。


「では……」


ガレスは静かに告げた。


「本日付けでヤスヒコを八級冒険者とする」


場内が一斉にどよめく。


「二階級昇格!?」


「聞いたことがないぞ!」


「実力だけではない」


ガレスは周囲を見渡した。


「依頼達成率」


「納品品質」


「後進を見捨てなかった判断」


「そして、冒険者としての在り方」


「すべてを総合して判断した」


静寂が訪れる。


ヤスヒコは深く一礼した。


「承知した」


それだけだった。


喜ぶことも。


驕ることもない。


ただ静かに受け入れる。


ガレスはその姿を見つめ、小さく笑った。


「階級に執着しないか」


「……だからこそ、信頼できる」


その日。


冒険者ギルドの誰もが、一人の武人の生き方を目の当たりにした。


そして、その名は静かに街の中へ広がっていく。


臼井ヤスヒコ。


魔力を持たず、拳一つで戦う異世界の武術師範の名が。

第一章完!

第二章は既に書き終えてますが、その後の展開がとっ散らかって纏まりません。

誰か助けて…

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