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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第一章 武術師範、異世界に立つ
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EX1 王国騎士団円卓会議

メタリア王国。


王都【マスティアパペルツ】


王城最上階。


六騎士団が一堂に会する会議室。


巨大な円卓。


そこへ六人の団長が着席している。


それぞれの後ろには副団長が一人ずつ控えていた。


王国最強の武力が、一つの部屋へ集まっている。


静かな空気の中、第一騎士団団長ラース・ウリクが口を開く。


「では始めよう」


「第二騎士団、報告を」


ジェイム・ヘルフィードが立ち上がる。


机へ一枚の報告書を置いた。


「先日、辺境エンターサンド近郊で討伐予定だった危険指定個体『黒牙のグロム』について報告します。」


室内の空気が引き締まる。


グロム。


辺境では名の知れたネームドモンスターだった。


商隊襲撃。


冒険者殺害。


討伐失敗も少なくない。


本来なら第二騎士団が討伐する予定だった。


ジェイムは続ける。


「結論から申し上げます」


「到着時には、既に討伐されていました」


円卓がざわめいた。


「……誰だ」


ラースが静かに尋ねる。


ジェイムは首を横へ振る。


「不明です」


「周囲には一人分の足跡のみ」


「剣傷なし」


「槍傷なし」


「魔法使用の痕跡なし」


そこで一拍置く。


「致命傷は拳による一撃でした」


空気が止まる。


最初に口を開いたのは第四騎士団長ロベルト・トールだった。


「拳?」


豪快な男らしく眉をひそめる。


「冗談だろ」


「ゴブリンを殴り殺したって話か?」


ジェイムは静かに答えた。


「ただのゴブリンではない」


「危険指定個体だ」


「胸骨を砕き、背まで衝撃が抜けていた」


第三騎士団長カリク・ヘモンドが指を組む。


「興味深いですね」


「魔法強化の痕跡も?」


「ない」


「身体強化も?」


「確認できなかった」


カリクは眼鏡の奥で目を細めた。


「ならば純粋な体術……」


第五騎士団長クリフ・バティオが苦笑する。


「そんな人間がいたら、とっくに騎士団へ入っていますよ」


第六騎士団長ジェス・ニューシュタットも頷く。


「辺境で長く戦ってきたが、聞いたことがない」


「拳だけでネームドを倒す者など」


ロベルトが腕を組む。


「魔物同士の争いじゃねぇのか?」


ジェイムは即座に否定した。


「技だ」


「身体構造を理解していなければ、あの傷にはならない」


その言葉に全員が黙る。


ラースだけが静かにジェイムを見ていた。


「……続けろ」


ジェイムはもう一枚の書類を取り出した。


「さらに数日前の話です」


「エンターサンド冒険者ギルドより興味深い人物の情報提供がありました」


『フォレストウルフ二頭を素手で撃退』


『救助対象は新人冒険者三名』


「討伐ではなく撃退」


「必要以上の殺生はしていません」


カリクが顔を上げる。


「同一人物と?」


「可能性は高いと考えている」


ロベルトは豪快に笑った。


「面白ぇじゃねぇか」


「ぜひ酒でも飲みたいもんだ」


クリフはまだ半信半疑だった。


「噂が一人歩きしている可能性もあります」


ジェイムは静かに答える。


「ギルドマスター・ガレス本人が確認済みだ」


その一言で、クリフも口を閉ざした。


ガレスの目は確かだ。


ラースはしばらく黙考し、やがて静かに口を開く。


「名前は」


ジェイムは報告書へ目を落とした。


「ウスイ・ヤスヒコ」


「登録したばかりの冒険者」


「現在、八級」


ロベルトが思わず吹き出す。


「八級だと?」


「おいおい、まだひよっこじゃねぇか」


「ああ」


ジェイムも苦笑する。


「だからこそ不可解なのだ」


ラースは静かに椅子へ背を預けた。


「監視は不要」


その一言に全員が視線を向ける。


「悪意ある者なら、グロムを倒した後も力を誇示している」


「だが、その男は名乗らず街へ戻った」


「人命救助を優先し、魔物も必要以上には殺さない」


ラースは短く結論を告げた。


「今は静観せよ」


「異論はあるか」


ロベルトは豪快に笑う。


「ねぇな。悪人じゃねぇなら、それでいい」


ジェイムは静かに答える。


「承知しました」


クリフはまだ納得しきれない表情を浮かべたが、小さく頷く。


「……承知しました」


カリクは報告書を閉じる。


「こちらでも情報だけは集めておきましょう」


ジェスも腕を組んだまま頷いた。


「了解」


最後にラースが静かに言う。


「以上だ」


しかし会議室を出る直前、ジェイムは心の中で静かに思う。


――ウスイ・ヤスヒコ。


――いずれ、必ず会うことになる。


その予感だけは、不思議なほど確信に近かった。

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