EX2「あの人って、何者なんだ?」
昇級試験の翌日。
エンターサンド冒険者ギルド。
朝から多くの冒険者で賑わう館内では、一つの話題で持ちきりだった。
「昨日の昇級試験、見たか?」
「ああ」
「素手で八級になった新人だろ」
「フォレストウルフを退けたって噂も本当だったらしいぞ」
「しかも今日も薬草採取だってよ」
「八級なのにか?」
「討伐依頼じゃないのか」
「変わった奴だよな」
その会話を、依頼掲示板の前でビルたち三人が聞いていた。
ビルが首をかしげる。
「八級になったのに薬草採取かぁ」
「俺なら討伐依頼を受けるけどな」
シャーロットも腕を組む。
「ほんと変」
「せっかく強いのにもったいない」
カミリーだけは黙っていた。
少し考えるように掲示板を見つめている。
その時だった。
「おはようございます」
受付からエミリアの声が聞こえた。
三人は揃って受付へ向かう。
「エミリアさん、おはようございます」
ビルが元気よく頭を下げる。
「おはようございます、皆さん」
エミリアは柔らかく微笑んだ。
依頼書を受け取りながら、ビルが思い切って尋ねる。
「あの……」
「ヤスヒコさんって、いつも薬草とか見回りばっかり受けてるんですか?」
エミリアは少し驚いたように目を丸くした。
「ええ」
「ほとんど毎日ですよ」
シャーロットが思わず口を挟む。
「なんで?」
「もっと強い魔物を倒した方がお金も稼げるじゃん」
エミリアは少し考えてから答えた。
「ヤスヒコさんは、依頼に大きいも小さいもない、と考えているみたいです」
「頼まれたことは、最後まできちんとやり遂げる」
「それだけなんです」
ビルは驚いた顔になる。
「それだけ……?」
エミリアは頷いた。
「薬草も、次に育つように採取されています」
「納品もいつも丁寧ですし、報告が遅れたこともありません」
「それに……」
少しだけ苦笑する。
「依頼の帰り道で困っている方を見つけると、放っておけないみたいなんです」
「荷物運びを手伝ったり」
「道に迷った子どもを送り届けたり」
「壊れた柵を直したり……」
「だから予定より帰りが少しだけ遅くなる日もあります」
三人は顔を見合わせた。
ビルが小さく呟く。
「依頼じゃないのに?」
「はい」
エミリアは微笑んだ。
「きっと、ヤスヒコさんにとっては同じなんでしょうね」
「困っている人を助けることも、依頼をこなすことも」
その言葉を聞き、カミリーは静かに口を開く。
「……強い人だから優しいんじゃない」
二人が振り向く。
カミリーはゆっくり続けた。
「優しい人だから、あんなに強くなれたのかもしれない」
しばらく誰も言葉を発しなかった。
シャーロットが腕を組みながら、小さく笑う。
「でもさ、本人はそんなこと考えてなさそう」
エミリアも思わず笑みをこぼした。
「ふふっ」
「それは私もそう思います」
四人の間に穏やかな笑いが広がる。
ビルは腕を組み、真剣な顔になった。
「なあ」
「俺たち、ちゃんとお礼しよう」
カミリーが頷く。
「ああ」
「助けてもらったままじゃ終われない」
シャーロットも笑った。
「じゃあ、ご飯でも誘おっか」
「それならあの人も断らなさそう」
ビルが勢いよく頷く。
「決まり!」
三人は顔を見合わせて笑った。
その笑顔を見ながら、エミリアも静かに微笑む。
――きっと、喜んでくださいますよ。
そんな予感がしていた。
その翌日。
三人はギルドの前で、ヤスヒコの帰りを待つことになる。




