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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第一章 武術師範、異世界に立つ
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武術師範、依頼をこなす

冒険者登録から数日後。


ヤスヒコはエンターサンド近郊の森を歩いていた。


依頼は薬草採取。


十級冒険者が最初に受けることの多い依頼の一つである。


森へ差し込む木漏れ日の中、ヤスヒコは足を止めた。


足元に生えた一株の薬草へ静かに膝をつく。


葉の色。


茎の張り。


根の状態。


教えられた特徴と見比べながら、慎重に摘み取っていく。


「……来年も芽吹くよう、根は残すか」


必要以上に採らない。


自然から恵みを受ける以上、次へ繋ぐこともまた大切だった。


山籠もりで身につけた習慣は、この世界でも変わらない。


少し離れた場所では、数人の若い冒険者が薬草を根ごと引き抜き、袋へ放り込んでいた。


ヤスヒコはその様子を一瞥する。


何も言わない。


頼まれてもいないことを押し付けるつもりはなかった。


人は経験を積み、失敗から学ぶ。


それもまた、生きるということだった。


薬草を籠へ収めながら、数日前の出来事を思い返す。


――――――――――――――――――


冒険者登録を終えた直後。


受付嬢が書類をまとめながら微笑んだ。


「それでは、今後の受付や依頼のご相談は、私が担当させていただきます」


「担当?」


ヤスヒコは首を傾げる。


「はい。新しく登録された冒険者には、できるだけ同じ受付係が付くようにしているんです」


「依頼の受注や達成状況、それから昇級の管理もございますので」


「なるほど」


ヤスヒコは静かに頷いた。


「世話になる」


受付嬢は丁寧に一礼する。


「改めまして、私はエミリアと申します」


「エミリアか」


ヤスヒコも軽く頭を下げた。


「臼井ヤスヒコだ」


「よろしく頼む」


「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


エミリアは嬉しそうに微笑んだ。


続けて、一枚の木製の札を机へ置く。


「こちらが冒険者証になります」


ヤスヒコは札を手に取る。


自分の名前。


所属する街。


そして――


『十級』


と刻まれていた。


「現在のヤスヒコ様は十級冒険者です」


「十級」


「冒険者には階級があります」


「十級が最も下位で、依頼をこなし実績を積むことで九級、八級と昇級していきます」


「そして、一級が最高位となります」


ヤスヒコは静かに耳を傾ける。


「一級が頂点か」


「はい」


エミリアは少しだけ表情を改めた。


「ただし、一級のさらに上に、特別な称号があります」


「称号?」


「特級冒険者です」


その言葉に、近くにいた冒険者が思わずこちらを見る。


「世界でも数人しか存在しない、伝説と呼ばれる冒険者です」


「国を救った英雄や、災厄級の魔物を討伐した者だけが認められる、特別な階級になります」


ヤスヒコは小さく頷いた。


「そうか」


エミリアは少し微笑む。


「多くの冒険者が、一度は憧れる称号なんですよ」


「興味はありませんか?」


ヤスヒコは少しだけ考え、穏やかな声で答えた。


「俺には、そのような大層な目標はない」


エミリアは少し驚く。


「困っている者がいて、俺にできることがあるなら手を貸す。それで十分だ」


「階級は、そのために必要なら受け入れる」


「だが、階級を得るためだけに動くつもりはない」


エミリアは言葉を失った。


多くの冒険者は、少しでも高い階級を目指す。


報酬。


名声。


栄誉。


それらを求めて剣を振るう者は少なくない。


だが、この男は違った。


階級ではなく、人を見ている。


「……素敵なお考えですね」


思わず漏れた言葉だった。


ヤスヒコは少し照れたように頭を掻く。


「そう大したものでもないさ」


エミリアは小さく笑い、一枚の依頼書を差し出した。


「では、こちらが最初の依頼になります」


薬草採取。


街道沿いの森で、回復薬の材料となる薬草を採取する依頼だった。


「魔物討伐ではないのか」


「十級の方には、まず街の周辺を知っていただく意味もあるんです」


「薬草は薬師の方々にとって欠かせないものです」


「街で暮らす人々を支える、大切なお仕事なんですよ」


ヤスヒコは依頼書を受け取り、小さく頷いた。


「誰かの役に立つなら、それで十分だ」


エミリアはその言葉を聞き、自然と笑みを浮かべていた。


――――――――――――――――――


薬草を籠へ収め終えた、その時だった。


森の奥から鋭い悲鳴が響く。


「うわぁぁああ!」


ヤスヒコはゆっくりと顔を上げた。


耳を澄ませる。


複数の足音。


荒い呼吸。


獣の唸り声。


「……三人」


「相手は二匹か」


静かに薬草籠を地面へ置く。


袴の裾を整え。


ゆっくりと歩き出した。


困っている者がいる。


それだけで十分だった。


その先で待ち受ける出来事が、自らの名を少しずつ街へ広めることになるとは、まだ誰も知らない。

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