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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第四章 武術師範、神の力に触れる
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若き冒険者たち、指導する

魔物の討伐を終えたビルたち三人は、エンターサンド冒険者ギルドへ戻ってきた。


「お疲れ様でした」


受付のエミリアが笑顔で迎える。


「今回も問題ありませんでした」


ビルが討伐証明となる魔物の素材をカウンターへ置く。


エミリアが確認する。


「はい。こちらで間違いありません」


「では、報酬を――」


その時。


「おい」


後ろから声がした。


三人が振り返る。


「ガレスさん?」


そこにいたのは、ギルドマスターのガレスだった。


「ちょっと話がある」


「俺たちに?」


カミリーが首を傾げる。


「ああ」


ガレスが顎をしゃくる。


「少し時間をもらえるか?」


「はい」


三人は顔を見合わせ、ガレスについていった。



ギルドの奥。


応接用の部屋に入ると、ガレスが椅子へ腰を下ろした。


「お前たちも知っていると思うが」


「先月、新しい冒険者が登録した」


「はい」


ビルが頷く。


「四人組ですよね」


「そうだ」


ガレスが続ける。


「全員、まだ十級だ」


「今は薬草採取や街の雑用を中心に受けている」


「そろそろ、次の段階へ進ませようと思ってな」


カミリーが頷く。


「角兎の討伐ですか?」


「その通りだ」


角兎。


近隣の森に生息する、比較的危険度の低い魔物。


十級冒険者が初めて討伐を経験するには、ちょうどいい相手だ。


「だが」


ガレスが三人を見る。


「規則として十級の四人だけで行かせるわけにはいかん」


「そこでだ」


「お前たちに同行してもらいたい」


三人が目を見合わせる。


「俺たちが?」


「ああ」


ガレスは笑う。


「お前たちは一年ほど前まで、あいつらと似たようなものだった」


「だが今では、十分に後輩を連れて歩けるだろう」


ビルは少し驚いたような顔をした。


「俺たちが……教える側?」


「そういうことだ」


ガレスが頷く。


「もちろん、無理にとは言わん」


「だが」


「お前たちなら任せられると思っている」


しばらく沈黙。


やがて。


カミリーが口を開いた。


「……俺たちに出来ることなら」


「やります」


ビルも頷く。


「俺も」


シャーロットも続いた。


「私もいいわ」


ガレスが笑う。


「決まりだな」



その日の夜。


三人は宿へ戻る前に、ヤスヒコのもとを訪れていた。


「……ということになりました」


カミリーが説明する。


ヤスヒコは三人の話を黙って聞いていた。


「新人を連れて、角兎の討伐か」


「はい」


ビルが頷く。


「俺たちに、ちゃんと教えられるか不安ですけど」


ヤスヒコは三人を見て頷く。


そして。


「やってみろ」


「「はい!」」


短い言葉だった。


だが。


三人には、それで十分だった。



二日後。


朝。


エンターサンド冒険者ギルド。


三人が待っていると、四人の少年がやってきた。


「おはようございます!」


先頭にいた少年が頭を下げる。


「今日はよろしくお願いします!」


「ああ」


ビルが笑う。


「俺はビル」


「カミリー」


「シャーロットよ」


四人の少年も順番に名乗る。


「デレクです」


ナイフを腰に差した少年。


「ウィブルです」


剣を携えた少年。


「デイブです」


大きな斧を背負った少年。


「バクスです」


弓を背負った少年。


四人とも十五歳。


近隣の村にある同じ孤児院で育った仲間だという。


「俺たち、ずっと皆さんに憧れてました!」


デイブが嬉しそうに言う。


「エンターサンドで若いのに活躍してるって聞いて!」


「……そうなの?」


シャーロットが少し驚く。


「はい!」


バクスが頷く。


ビルは少し照れた。


「まあ……今日は俺たちが先輩だからな」


「しっかり教えてやるよ」


「「はい!」」


四人の返事が揃った。



森。


「ちょっと!」


シャーロットが声を上げる。


四人の少年が振り返る。


「何ですか?」


「何ですかじゃないわよ」


シャーロットが腕を組む。


「森に入る時に、そんなに前へ出てどうするの?」


「魔物を探すんですよね?」


デレクが答える。


「そうだけど」


シャーロットがため息をつく。


「だからって、全員で固まって前へ行ったら、横や後ろから襲われた時に対応できないでしょ」


「……」


四人が顔を見合わせる。


「森では、周囲を見る」


シャーロットが言う。


「足跡」


「折れた枝」


「鳥や小動物の動き」


「全部が手掛かりになる」


「魔物を探す前に、まず自分たちが探されないようにするの」


「「はい!」」


四人が頷く。


ビルはその様子を見ながら、ふと昔を思い出した。


自分たちも。


最初は何も知らなかった。


ただ魔物を探して。


ただ強くなりたくて。


前へ進んでいた。


その頃。


ヤスヒコが教えてくれた。


「周囲を見ろ」


「敵だけを見るな」


「自分の位置を考えろ」


あの時は。


言葉の意味を理解するだけで精一杯だった。


だが今なら。


その一つ一つが分かる。


「……よし」


ビルが前を見る。


「じゃあ、次は俺たちが教える」



しばらく進んだところで、カミリーが足を止めた。


「四人とも」


「はい!」


「今のままだと、全員が前を向きすぎてる」


カミリーは四人を見回す。


「武器も身体の大きさも違う」


「だったら、それぞれの得意なことを使えばいい」


デレクを見る。


「デレクは身軽だな?」


「はい」


「じゃあ、先頭に立て」


「前方の確認を頼む」


「はい!」


次にデイブ。


「デイブは体格がいい」


「前に出て、敵の動きを止めろ」


「分かりました!」


ウィブル。


「お前は剣だ」


「デイブが止めた相手を仕留める」


「はい!」


最後にバクス。


「お前はデイブの後ろ」


「前に出るな」


「そこから狙え」


バクスが頷く。


「分かりました!」


「これでいい」


カミリーが笑う。


「やってみよう」


四人が動き始める。


最初はぎこちなかった。


デレクが前へ出すぎる。


デイブが遅れる。


バクスが射るタイミングを失う。


ウィブルが一人で前へ出ようとする。


「デイブ、もっと左!」


「ウィブル、待て!」


「バクス、今じゃない!」


カミリーが次々と声を飛ばす。


ビルも周囲を確認しながら指示を出す。


シャーロットは後方から全員の位置を見る。


「少しずつでいい!」


「焦らないで!」


何度も。


何度も。


やり直す。


そして。


森へ入ってから、しばらく経った頃だった。


デレクが足を止めた。


「……いました!」


全員が身構える。


茂みの向こう。


二匹の角兎が姿を現した。


「二匹……!」


ウィブルが剣を抜く。


「どうする!?」


「えっと……」


デレクが戸惑う。


デイブも斧を構えるが、どう動けばいいのか分からない。


バクスは弓を引くものの、狙いが定まらない。


「……」


ビルたちはその姿を見ていた。


そして。


三人とも同時に思った。


――昔の自分たちだ。


初めて魔物と向き合った時。


何をすればいいのか分からなかった。


武器を持っている。


戦える。


それなのに。


身体が動かない。


「落ち着け!」


ビルが声を上げる。


「まず、位置を取れ!」


「デレク、左!」


「デイブ、そのまま前!」


「ウィブル、まだ動くな!」


「バクス、狙える方を見ろ!」


四人が動く。


少しずつ。


少しずつ。


形ができていく。


だが。


角兎は素早かった。


一匹がデイブへ突っ込む。


「うわっ!」


デイブが斧を構える。


角がぶつかる。


「ぐっ!」


何とか受け止めた。


「今!」


ウィブルが踏み込む。


剣が振り下ろされる。


だが。


外れた。


「くそっ!」


角兎が逃げる。


「バクス!」


「はい!」


弓が放たれる。


矢は角兎のすぐ横を飛んでいった。


「惜しい!」


シャーロットが叫ぶ。


「もう一度!」


四人は必死だった。


何度も失敗する。


追いつけない。


攻撃が噛み合わない。


それでも。


ビルたちは手を出さなかった。


助けることはできる。


だが。


この戦いは。


四人が経験しなければ意味がない。



そして。


夕方が近づいた頃。


角兎の一匹が再び姿を現した。


「来た!」


デレクが叫ぶ。


「全員、位置につけ!」


今度は。


誰も慌てなかった。


デレクが先に動く。


角兎の進路を誘導する。


「デイブ!」


デイブが前へ出る。


「任せろ!」


角兎が突っ込む。


デイブが受け止める。


「今だ!」


ウィブルが踏み込む。


剣が振られる。


角兎が逃げようとする。


「逃がさない!」


バクスが矢を放つ。


矢が角兎の脚を捉えた。


動きが止まる。


ウィブルが最後の一撃を入れた。


角兎が倒れる。


静寂。


四人は動かなかった。


「……」


「……」


やがて。


デイブが叫んだ。


「やったあああ!」


「やった!」


デレクが飛び跳ねる。


ウィブルも剣を掲げる。


バクスはその場に座り込んだ。


「……倒した」


四人の顔は。


喜びで輝いていた。


ビルは笑う。


「よくやったな」


「はい!」


カミリーも頷く。


「最初より、ずっと良かった」


シャーロットが笑う。


「まだまだだけどね」


「はい!」


四人は元気よく返事をした。



夕方。


エンターサンド冒険者ギルド。


「お疲れ様でした」


エミリアが報告を確認する。


「角兎、一匹」


「はい」


「初めての討伐としては、十分です」


新人四人が嬉しそうに笑う。


その様子を見ていたエミリアが、ビルたちへ視線を向ける。


「それにしても……」


「皆さん」


「はい?」


「一年前とは、別人のようですね」


「……!」


三人が固まる。


エミリアは微笑んでいる。


「今日、皆さんがあの子たちに教えている姿を見ていて思いました」


「以前は、まだ自分たちが冒険者として歩き始めたばかりだったのに」


「今では、立派に後輩を導いています」


ビルは照れくさそうに頭を掻く。


「……そうですかね」


「はい」


カミリーも少し笑った。


シャーロットはそっぽを向く。


「……まあ」


「悪い気はしないけど」


四人の新人が頭を下げる。


「今日はありがとうございました!」


「こちらこそ」


ビルが笑う。


「また一緒に頑張ろうな」


「はい!」


四人がギルドを出ていく。


その背中を三人は見送った。



夜。


宿へ向かう道。


三人は並んで歩いていた。


誰も、しばらく口を開かなかった。


やがて。


ビルが言う。


「……一年前とは、別人か」


「そう言われたな」


カミリーが笑う。


シャーロットも空を見上げる。


「私たち、そんなに変わったのかな」


「変わっただろ」


ビルが答える。


「だって」


「昔の俺たちなら、今日のあいつらみたいになってた」


カミリーが頷く。


「確かに」


森で右往左往していた四人。


それを見た時。


自分たちの過去を見ているようだった。


そして。


今度は自分たちが。


その四人を導いた。


「……先生のおかげだな」


ビルが呟く。


「うん」


シャーロットが頷く。


「私たちだけじゃ、ここまで来られなかった」


カミリーも前を見る。


「もっと強くなろう」


「そして」


「いつか」


三人は顔を見合わせる。


「先生みたいに」


誰からともなく。


そう言った。


夜のエンターサンド。


三人は宿へ向かって歩いていく。


その背中は。


一年ほど前とは。


もう違っていた。


ヤスヒコの背中を追いかけていると思っていた三人は。


いつの間にか。


誰かに追いかけられる側へと。


少しずつ、歩み始めていた。

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