武術師範、帰路に就く(後編)
帰路の馬車。
往路では徒歩だった道も、今回は馬車だったこともあり、景色は驚くほど早く流れていった。
荷台ではビル、シャーロット、カミリー、そしてアリアの四人が途切れることなく話を続けている。
ヤスヒコはその少し離れた場所に腰掛け、流れていく景色を静かに眺めていた。
「そういえば先生って、旅の途中でも全然疲れた顔しないよね」
シャーロットが不思議そうに呟く。
「確かに」
ビルも頷いた。
「俺なんか尻が痛くて仕方ないのに」
「鍛え方が違うんじゃないか?」
カミリーが苦笑する。
その横でアリアは頬杖をつきながらヤスヒコを眺めていた。
「ヤスヒコってさ、本当に何者なの?」
ヤスヒコは街道の先を見たまま答える。
「冒険者だ」
「それは知ってるって」
アリアは呆れたように笑った。
「そういうことじゃないんだけどなぁ」
結局、それ以上は聞かなかった。
聞いても答えないことは、もう何となく分かっていたからだ。
──
二日後。
街道の先に、見慣れた城壁が見えてくる。
エンターサンド。
ビルは思わず声を上げた。
「帰ってきた!」
シャーロットも嬉しそうに身を乗り出す。
「やっぱり落ち着く!」
カミリーも小さく微笑んだ。
「長かったようで短かった」
ヤスヒコは静かに街を見つめる。
「行くぞ」
その一言で、一行は馬車を降りた。
エンターサンド冒険者ギルド。
昼過ぎということもあり、中は多くの冒険者で賑わっていた。
扉が開く。
「……あ」
誰かが呟く。
「帰ってきたぞ」
「あいつらだ」
視線が一斉に入口へ集まった。
その中を、ヤスヒコたちは静かに歩いていく。
受付では、見慣れた女性が笑顔で迎えた。
エミリアだった。
「お帰りなさい、ヤスヒコさん」
その笑顔は、三週間前と何一つ変わらない。
ヤスヒコも軽く頭を下げる。
「ああ」
「ご無事で何よりです」
その様子を見ていたビルたちも自然と笑みを浮かべた。
しかし。
酒場の奥から、数人の冒険者が立ち上がる。
「おい!」
「王都どうだった!」
「昇級審査は!?」
次々と声が飛ぶ。
ビルは少し得意げに笑った。
「聞いて驚くなよ!」
「先生――」
そこでヤスヒコが新しい冒険者証を受付へ差し出した。
エミリアはそれを受け取る。
一瞬。
目が止まった。
「……え?」
何度か見直す。
もう一度見る。
そして。
「に……二級!?」
思わず声が裏返った。
ギルド中が静まり返る。
「二級!?」
「嘘だろ!?」
「この短期間で!?」
「何があったんだ!」
一気に騒ぎになる。
エミリアもまだ信じられない様子だった。
「ヤ、ヤスヒコさん……」
「本当に二級なんですか?」
「ああ」
短く答える。
それだけで十分だった。
ギルド中にどよめきが広がる。
「本当に二級だ……」
「いや、あり得ねぇ……」
「三週間だぞ?」
「どうやったらそんなことになるんだ」
ビルは腕を組み、満足そうに笑った。
「だから言っただろ」
「先生はすごいんだって」
シャーロットも嬉しそうに胸を張る。
「ね!」
「先生だもん!」
カミリーは苦笑しながら二人を見る。
「お前たちが威張るな」
その時だった。
エミリアが、ヤスヒコの後ろへ目を向ける。
そこには金髪の少女が立っていた。
「……あの」
「そちらの方は?」
アリアは一歩前へ出る。
満面の笑みを浮かべた。
「やっほー、アリア・グランだよ!」
「ちょっとヤスヒコについてきちゃった!」
その瞬間。
ギルドの空気が凍り付いた。
「…………」
誰も言葉を発しない。
数秒。
沈黙が続く。
そして。
「「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」
ギルド中に、この日一番の絶叫が響き渡った。
誰もが目を疑い、誰もが自分の耳を疑う。
王都へ向かった一人の六級冒険者は、
二級冒険者となって帰ってきた。
その隣には、特級冒険者アリア・グランが立っている。
誰一人として想像もしなかった帰還だった。
だが、当の本人だけは何一つ変わらない。
階級が変わろうと、周囲の評価が変わろうと。
ヤスヒコは今日までと同じように、自分にできることを積み重ねていくだけだった。
だからこそ、
その静かな歩みは、ここからさらに大きく動き始めようとしていた。
第三章はここで終了です。
時系列や話し方等々おかしな点や矛盾点があれば教えてください。
頭抱えながら直します。




