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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第三章 武術師範、名を知られる
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武術師範、帰路に就く(前編)

翌朝。


宿屋「木漏れ日」。


荷物をまとめた四人は、一階へ降りてくる。


入口ではマールとチコが見送りに来ていた。


マールは少し寂しそうに微笑む。


「もうお帰りになるんですね」


ヤスヒコは頷いた。


「ああ、世話になった」


マールは小さく首を横へ振る。


「こちらこそです」


「本当なら、もう少しゆっくり泊まっていただきたかったんですけど」


少しだけ照れ笑いを浮かべる。


「今回は滞在が短くなってしまいましたね」


ヤスヒコは静かに答えた。


「用事が済んだからな」


「また王都へ来ることがあれば、その時は世話になる」


その一言に、マールの表情がぱっと明るくなる。


「ええ、その時にはぜひまた」


「今度はもっとゆっくりしていってください」


その横でチコが元気よく駆け寄る。


「お兄ちゃんたち!」


「もう帰っちゃうの?」


「ああ」


「さみしい!」


チコは少しだけ頬を膨らませる。


ビルがしゃがみ込んで笑った。


「また遊びに来るよ」


シャーロットも微笑む。


「今度はお土産持ってくるね」


「ほんと?」


「うん」


チコは満面の笑みになる。


「約束だからね!」


カミリーも穏やかに笑った。


「元気でな」


チコは何度も頷く。


ヤスヒコはチコの頭へそっと手を置いた。


「母親の言うことをよく聞け」


「うん!」


元気な返事が返ってくる。


マールは深く頭を下げた。


「皆さんも、お元気で」


「どうかお気を付けて」


四人も軽く頭を下げる。


宿屋「木漏れ日」をあとにし、一行は王都冒険者ギルドへ向かった。


──


王都マスティアパペルツ冒険者ギルド。


昨日までとは変わらぬ賑わいの中にも、どこか落ち着かない空気が漂っていた。


酒場では冒険者たちが朝食を取りながら談笑している。


その視線が、一人の男へ集まっていた。


ヤスヒコ。


昨日、国王より二級冒険者への特進を命じられた男。


そして、ミノタウロスを素手で討伐した張本人。


彼がギルドへ姿を現した瞬間、それまでの喧騒が少しだけ静まった。


「あ……」


「おい、あいつだ」


「本当に来たぞ」


誰かが小さく呟く。


以前なら、


『六級なのに安い依頼しか受けない奴』


そんな認識だった。


だが今は違う。


遠巻きに見つめる視線。


畏怖。


尊敬。


そして少しだけ緊張。


誰一人として不用意には近寄らなかった。


ヤスヒコ本人は、そんな視線に気付いている様子もなく、普段通り受付へ歩いていく。


その後ろを歩くビルは、小さく胸を張った。


「……見たか?」


シャーロットも得意げに笑う。


「みんな先生見てる」


「当たり前だよ」


カミリーは苦笑した。


「お前たち、自分が認められてるわけじゃないぞ」


「分かってるよ」


ビルは照れ笑いを浮かべる。


「でも、なんか嬉しいじゃん」


シャーロットも何度も頷いた。


「うんうん!」


その表情は自然と誇らしげだった。


受付では、エミリアとは違う王都ギルドの受付嬢がヤスヒコを見るなり、柔らかく微笑んだ。


「ヤスヒコ様、昨日は、お疲れさまでした」


「今日はご出発と伺っております」


「ああ」


短く答える。


受付嬢は少しだけ嬉しそうな顔になった。


「その前に、一つだけお礼を言わせてください」


ヤスヒコは静かに耳を傾ける。


「ヤスヒコ様が王都へ来られてからの数週間」


「薬草採取」


「荷物運び」


「迷子探し」


「畑の害獣駆除」


「皆さんが敬遠するような依頼を、一つずつ丁寧に引き受けてくださいました」


「そのおかげで、滞っていた依頼が本当に減ったんです」


隣の受付嬢も続けた。


「私たちも、とても助かりました」


「本当にありがとうございました」


深く頭を下げる。


ヤスヒコも小さく頭を下げ返した。


「依頼を受けただけだ」


「礼を言われることではない」


「それでもです」


受付嬢は穏やかに笑う。


「皆さん、危険な依頼ばかり受けたがります」


「ですが、街はそういう小さな依頼も多いのです」


「それを誰より理解してくださった冒険者でした」


ヤスヒコは少しだけ考えたあと、小さく頷いた。


「そうか」


それ以上は何も言わない。


だが受付嬢たちには、その一言で十分だった。


受付を離れると、酒場の奥から一人の中年冒険者が立ち上がった。


「ヤスヒコさん!」


少し緊張した様子で近付いてくる。


「……あの時は助かった」


「俺ぁ西地区にいたんだ」


「本当にありがとう」


そう言って頭を下げた。


それをきっかけに、周囲の冒険者たちも次々と立ち上がる。


「ありがとう」


「王都を守ってくれて助かった」


「また王都へ来てくれよ」


ヤスヒコは一人ひとりに小さく頭を下げた。


「できることをしただけだ」


それだけだった。


だが、その飾らない言葉が、かえって彼らの胸へ深く残った。


やがて四人はギルドをあとにする。


石畳を踏みながら王都の城門へ向かう。


今日で王都とも別れだった。


ビルが後ろを振り返る。


「短かったけど……」


「いろんなことがあったな」


シャーロットも笑う。


「最初は王都って怖いと思ってた」


「でも結構好きになったかも」


カミリーも静かに頷く。


「また来ることもあるさ」


ヤスヒコは何も言わず歩き続ける。


やがて巨大な城門が見えてきた。


門番へ通行証を見せ、四人が王都の外へ出ようとした、その時だった。


「ヤスヒコーーー!」


聞き覚えのある元気な声が響く。


四人が振り向く。


街道脇へ停められた馬車の荷台から、一人の少女が勢いよく飛び降りた。


金色の髪を揺らしながら、満面の笑みで駆け寄ってくる。


特級冒険者。


アリア・グラン。


「やっと来た!」


「待ちくたびれたよ!」


ビルたちは目を丸くした。


「アリアさん!?」


「なんでここに!?」


アリアは悪びれる様子もなく笑う。


「決まってるじゃん!」


「面白そうだから!」


「エンターサンドまで一緒に行く!」


そう言って胸を張る。


ヤスヒコは一瞬だけアリアを見つめ、小さくため息をついた。


「……好きにしろ」


「うん!よろしく!」


アリアは満面の笑みを浮かべた。


こうして、五人となった一行は、エンターサンドへの帰路につくことになった。

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