武術師範、王との謁見(後編)
冒険者証を受け取ったヤスヒコを見て、フレッド王は満足そうに頷く。
「今後も王国のために力を貸してほしい」
ヤスヒコは迷いなく答えた。
「受ける依頼を変えることはありません」
「これまで通り、できることをするだけです」
「階級が変わっても、それは変わりません」
その言葉を聞いた瞬間だった。
「ぶはっ!」
突然、広間の端から豪快な笑い声が響いた。
「はっはっはっは!」
「やっぱりそう言うと思ったぜ!」
全員の視線がそちらへ向く。
そこには、一人の大男が立っていた。
見慣れた顔。
ヤスヒコが問いかけた。
「……ロブか」
「よぅ!」
普段通りの調子で挨拶をする大男。
その様子を見ていたシャーロットも驚きを隠せない。
「えっ!?」
「ロブさんってあのロブさん!?」
カミリーも続く。
「先生、知ってたんですか?」
「関係者とは聞いていた」
ビルは口を半開きにしたまま固まっていた。
男は笑いながら歩いてくる。
「いやぁ、悪かった悪かった」
「黙ってた方が面白そうだったからよ」
フレッド王が苦笑する。
「紹介しよう」
「第四騎士団団長、ロベルト・トールだ」
その瞬間。
ビルたち三人は完全に固まった。
「……え?」
「団長!?」
ロベルトは豪快に笑いながら頭をかいた。
「騎士団長なんて名乗ってたら、気軽に酒も飲めねぇからな」
「堅苦しいのは苦手なんだ」
そしてヤスヒコの前まで歩く。
「ま、変わらずよろしくな」
ニヤリと笑った。
たった、それだけだった。
ヤスヒコは数秒見つめたあと、小さく頷く。
「ああ」
その何気ないやり取りに、広間の空気が一気に和らぐ。
ロベルトは腹を抱えて笑った。
「やっぱお前さん最高だ!」
「俺が王国の騎士団長だって聞いても反応薄いな!」
ヤスヒコは静かに答える。
「ロブはロブだ」
その一言に、今度はフレッド王までもが声を上げて笑った。
「ははは!」
「確かにその通りだ!」
「ロベルト。よい縁を得たようだな」
ロベルトは愉快そうに答える。
「ええ、いい友を待ったもんですな」
謁見の間は、先ほどまでの厳かな空気が嘘のように、穏やかな笑いに包まれていた。
その後は当初の緊張感も薄れ、終始和やかな雰囲気で謁見を終えた。
──
正午過ぎ。
王城の大階段を下りながら、ビルが何度も振り返った。
「夢みたいだった……」
シャーロットも新しい冒険者証を見つめる。
「先生、本当に二級になっちゃったね」
カミリーは静かに笑う。
「先生なら、どの階級でも通用します」
ヤスヒコは三人を見渡した。
「階級は変わった」
「だが、積み重ねることは変わらん」
「お前たちも決して忘れるな」
三人は力強く頷いた。
「「はい!」」
夕陽が王都を赤く染める。
四人は静かに王城をあとにした。
この日。
メタリア王国に、新たな二級冒険者が誕生した。
その名は、ウスイ・ヤスヒコ。
だが本人にとって、それはただ一枚の冒険者証が変わっただけのことだった。




