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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第三章 武術師範、名を知られる
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武術師範、王との謁見(前編)

王城正門。


分厚い鉄扉の前には、鎧に身を包んだ近衛兵たちが槍を構えて立っていた。


近付くだけでも張り詰めた空気を感じる。


「止まれ」


先頭の近衛兵が静かに声を掛けた。


ヤスヒコは懐から招集状を取り出し、差し出す。


近衛兵は封蝋を確認すると、表情を引き締めた。


「失礼いたしました」


「ヤスヒコ殿、お待ちしておりました」


鉄門が重々しい音を立てて開いていく。


ギギギ……


ゆっくりと開かれた先には、美しく整えられた庭園が広がっていた。


色鮮やかな花々。


噴水。


手入れの行き届いた芝生。


その奥には、王城本館が堂々とそびえ立っている。


「すごい……」


シャーロットが思わず声を漏らした。


ビルも辺りを見回す。


「俺、こんな場所初めてだ……」


カミリーは二人へ小さく言う。


「先生に言われた通りだ」


「騒ぐな」


「あ……うん」


二人は慌てて口を閉じた。


ヤスヒコは庭園にも目を奪われることなく、案内役の近衛兵の後ろを静かに歩く。


長い廊下を進む。


磨き上げられた大理石の床。


壁には歴代国王の肖像画。


豪奢な赤い絨毯。


すれ違う文官や侍女たちは、ヤスヒコたちを見ると小さく会釈をした。


やがて一行は、大きな扉の前へたどり着く。


近衛兵が立ち止まった。


「こちらで少々お待ちください」


兵士が中へ入り、すぐに戻ってくる。


「陛下がお待ちです」


重厚な扉がゆっくり開かれた。


大広間。


高い天井。


巨大な柱。


左右へ整列する近衛騎士。


赤い絨毯の先。


玉座には、一人の壮年の男が腰掛けていた。


メタリア王国国王。


フレッド・メタリア。


その隣には、柔らかな微笑みを浮かべる女性。


王妃マーキュリー・メタリア。


さらに左右には、


第一騎士団長ラース・ウリク。


第二騎士団長ジェイム・ヘルフィード。


主席魔導士マディアンヌ。


そして宰相サイモンをはじめとする王国中枢の面々が並んでいた。


ビルたちは思わず息を呑む。


(すごい……)


(本当に王様だ……)


(あの人が主席魔導士……)


無意識に辺りを見回しそうになるが、すぐにヤスヒコの言葉を思い出す。


――礼を失するな。


視線を正面へ戻した。


ヤスヒコだけは何も変わらない。


歩幅も。


姿勢も。


表情も。


普段と同じ足取りで玉座の前まで歩く。


その後ろを三人が続いた。


やがて案内役の兵士が静かに告げる。


「ヤスヒコ殿、および同行者三名、お連れしました」


静寂。


誰も口を開かない。


やがて。


国王フレッドが穏やかな声で口を開いた。


「面を上げよ。」


ヤスヒコはゆっくり顔を上げる。


フレッド王はその姿をじっと見つめた。


粗末ではないが絢爛でもない、見たこともない服装。


後ろに束ねた長い黒髪。


静かな眼差し。


報告で聞いていた人物像とは違う。


そこにいるのは、名誉にも権力にも興味を示さぬ、一人の武人だった。


フレッド王は小さく笑みを浮かべる。


「そなたがヤスヒコ殿か」


「その通りです」


「先日の一件では王都を救ってくれた」


「まずは国王として礼を言う」


ヤスヒコは静かに答えた。


「礼には及びません」


「その場にいただけです」


その言葉に、広間の空気がわずかに揺れた。


ジェイムは思わず苦笑し、


ラースも静かに目を細める。


フレッド王は嬉しそうに続ける。


「その場にいただけか」


「はい」


「普通の冒険者ならば、逃げても誰も責めはせぬ」


「それでも戦ってくれた」


ヤスヒコは首を横へ振る。


「逃げれば、誰かが死ぬ」


「だから止めただけです」


マーキュリー王妃は柔らかく微笑んだ。


「お優しい方なのですね」


ヤスヒコは少しだけ困ったように視線を逸らした。


「……そういうものではありません」


そのやり取りを見ていたビルたちは、内心で冷や汗を流していた。


(先生……相手は国王陛下なんだけど……)


(いつも通りすぎる……)


(でも、それが先生だよな)


フレッドは笑みを浮かべたまま頷く。


「よい、飾らぬ者は嫌いではない」


「サイモンよ」


「はっ」


そして一枚の羊皮紙が宰相ディランによって読み上げられる。


「今回の働きは、冒険者として極めて優秀であると判断した」


「よって――」


一拍置く。


「本日付で、ヤスヒコ殿を二級冒険者へ特進とする」


広間に静かな拍手が響いた。


ビルたちは思わず顔を見合わせる。


(二級……)


(先生、本当に二級だ……)


近衛騎士が新しい冒険者証を運んでくる。


六級の証よりも一回り重厚な、深い銀色の冒険者証。


二級冒険者を示す証。


ヤスヒコはそれを両手で受け取り、静かに頭を下げた。


「拝命します」


ヤスヒコは何一つ変わらない表情で冒険者証を受け取った。


二級への特進。


国王からの感謝。


普通の冒険者なら一生に一度あるかないかの栄誉である。


それでも、彼の眼差しはどこまでも静かだった。


その姿を見つめる者は多かった。


だが、その中でも一人だけ。


マディアンヌだけは、その結果よりも"ヤスヒコという存在"そのものを見ていた。


マディアンヌの興味深そうな視線だけが、終始ヤスヒコから離れなかった。

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