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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第三章 武術師範、名を知られる
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武術師範、招待状を受け取る(前編)

夕暮れ。


王都の喧騒は、少しずつ夜の賑わいへと姿を変え始めていた。


石畳の大通りには仕事帰りの人々が行き交い、店先には温かな灯りがともる。


その一角にある酒場では、一日の疲れを癒やす冒険者たちの笑い声が響いていた。


木製の丸卓。


酒の香り。


焼いた肉の匂い。


活気に満ちているが、不思議と落ち着く空気が流れている。


その酒場の隅の席。


そこで向かい合う二人の男がいた。


ヤスヒコ。


そしてロブ。


王都へ来てから、こうしてロブと酒を飲むのも三度目になる。


ロブは豪快に杯を掲げた。


「いやぁ、やっぱ仕事終わりの一杯は格別だな!」


そう言って一気に酒を流し込む。


「ぷはぁ!生き返るぜ!」


ヤスヒコも静かに杯を口へ運ぶ。


ゆっくりと酒を飲み干し、そっと杯を置いた。


ロブはその様子を見て苦笑する。


「相変わらず飲んでも顔色一つ変わらねぇ」


「酒は嫌いではない」


「でも酔ってるようにも見えねぇんだよな」


ヤスヒコは少しだけ考えた。


「昔からだ」


「羨ましい体質してるなあ、お前さん」


ロブは笑いながら焼いた肉を口へ運ぶ。


しばらくは他愛もない話が続いた。


王都での生活のこと。


受けた依頼のこと。


王都の料理は田舎より少し味が濃いこと。


ロブは酒が進むたびに饒舌になっていく。


「そういやよ」


「王都はまだ昨日の話でもちきりだ」


ヤスヒコは静かに視線を上げた。


「昨日?」


「ミノタウロスだよ」


「ああ、あの牛の魔物か」


「『牛の魔物』じゃねぇよ」


ロブは肩を震わせながら笑う。


「ここら辺だとな」


『特級冒険者アリア・グランが討伐した』


『いや、六級冒険者が素手で倒した』


「どこ行ってもその話ばっかりだぜ。」


ヤスヒコは静かに答えた。


「そうか」


「で、実際のところお前さんがやったのかい?」


「ああ、そうだ」


ロブは苦笑する。


「六級冒険者が素手でミノタウロスを倒すなんざ、普通は笑い話だからな」


ヤスヒコは杯へ視線を落とした。


「結果としてそうなっただけだ」


ロブは思わず吹き出した。


「ははは!お前さん、本当にそう思ってんのか?」


「自慢にはならん」


「相手も、生きようとしていた」


ロブはしばらく笑い続けたあと、大きく息を吐いた。


「欲もねぇ」


「見栄も張らねぇ」


「本当に変わった男だぁな」


暖炉の薪が小さく音を立てる。


酒場の喧騒が遠く聞こえる。


しばらく二人とも黙って酒を飲んでいた。


やがて。


ロブが静かに口を開く。


「……さて」


その一言だけで空気が変わった。


ヤスヒコが視線を向ける。


ロブは懐へ手を入れ、一枚の封書を取り出した。


厚手の羊皮紙。


深紅の封蝋。


そこには王国の紋章が刻まれている。


酒場には似つかわしくないほど厳かな封書だった。


ロブはそれを静かに机の上へ置く。


「お前さん宛だ」


ヤスヒコは封書へ視線を落とした。


封を切る。


中身を読む。


そこには簡潔な文章が記されていた。


王城への正式な招集。


それ以上でも、それ以下でもない。


読み終えたヤスヒコは静かに紙を畳む。


数秒。


沈黙が流れた。


ロブはニヤリと笑う。


「驚かねぇのかい?」


ヤスヒコは顔を上げる。


「十分驚いている」


ロブは一瞬ぽかんとした。


そして腹を抱えて笑い出す。


「ははははは!表情の読めねぇ奴だ!」


「普通そこは目ぇ見開くだろ!」


周囲の客まで何事かと振り向く。


ヤスヒコは首を傾げた。


「そういうものか」


「そういうもんだ」


ロブはようやく笑いを収め、酒を一口飲む。


「まぁ安心しろ、悪い話じゃねぇ」


少しだけ真面目な顔になった。


「まぁ黙ってたが」


「俺ぁ王城の関係者なんだ」


ヤスヒコは静かに耳を傾ける。


「今回の件で、お前さんを王城へ招くことになった」


「どうやら、お偉いさん方がお前さんに会いたがってるらしい」


ヤスヒコは静かに頷く。


「そうか」


ロブはさらに続けた。


「それとな」


「二級冒険者への特進の話も出てる」


ヤスヒコは少しだけ考える。


「二級」


「興味なさそうだな」


「階級が上がろうと、やることは変わらん」


「必要なら受ける」


ロブは呆れたように笑う。


「普通なら飛び上がって喜ぶんだがなぁ」


ヤスヒコは静かに酒を飲み干した。


「王城へ行けばいいんだな」


「ああ、三日後だ」


「来られるか?」


「問題ない」


短い返事だった。


ロブは満足そうに笑う。


「よし、話は終わりだ」


「今日は飲もうぜ」


二人は再び杯を合わせた。

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