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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第三章 武術師範、名を知られる
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武術師範、奥義を披露する(前編)

夜。


王都西地区裏路地。


誰もいないはずの石畳の上に、不気味な魔法陣が静かに輝いていた。


紫黒い光が脈打つたび、空気そのものが震える。


やがて――


ズシン……


ズシン……


重い足音が響いた。


魔法陣の中心から現れたのは、巨大な魔物だった。


二本の湾曲した角。


漆黒の体毛。


筋肉の鎧のような肉体。


そして人間ほどもある巨大な斧。


赤く濁った瞳がゆっくりと王都を見渡す。


「グォォォォォッ!!」


咆哮。


その一声だけで近くの窓ガラスが砕け散った。


「きゃあああっ!」


「魔物だ!」


「逃げろ!」


静かな夜は一瞬で悲鳴に包まれる。


巨大な斧が振り下ろされる。


轟音。


石造りの建物が半壊した。


瓦礫が飛び散り、人々は必死に逃げ惑う。


王都の平穏は、ほんの数秒で崩れ去った。


――


王都警備詰所。


鐘の音が鳴り響く。


「魔物出現!」


「西地区!」


「至急、第二騎士団を招集!」


騎士たちが一斉に立ち上がった。


鎧を身につけ、


剣を取り、


馬へ飛び乗る。


その先頭には、第二騎士団団長ジェイムがいた。


「被害状況は」


副団長が駆け寄る。


「建物が複数倒壊!住民避難中です!」


ジェイムは短く頷いた。


「住民を最優先だ」


「はっ!」


馬が一斉に走り出した。


――


数分後。


西地区。


第二騎士団が現場へ到着する。


目の前には瓦礫の山。


倒壊した建物。


逃げ遅れた住民。


そして――


「グォォォォォッ!」


巨大な魔物。


ジェイムは目を見開いた。


「……あれは、文献でしか見たことがないが」


「まさか……ミノタウロスか?」


その名を口にした瞬間、周囲の騎士たちの表情が変わる。


「団長……」


「魔族の地の魔物が……?」


ジェイムは剣を抜いた。


「怯むな!」


「奴はここで止める!」


「まず住民を避難させろ!」


騎士たちが一斉に動き出す。


「こちらです!」


「急いで!」


住民を誘導する者。


負傷者を運ぶ者。


そして。


ジェイム自身は一直線にミノタウロスへ向かった。


「さあ来い!」


ミノタウロスが咆哮する。


巨大な斧が振り下ろされた。


ドォォン!!


石畳が砕ける。


ジェイムは紙一重で回避。


そのまま懐へ飛び込み、横薙ぎに剣を振るった。


ギィン!!


火花が散る。


浅い。


まるで鉄を斬ったような感触だった。


「硬い……!」


ミノタウロスは怯まない。


巨大な拳が振るわれる。


ジェイムは剣で受け流したが、その衝撃だけで数メートル吹き飛ばされた。


「団長!」


騎士たちが叫ぶ。


ジェイムは地面を滑りながら体勢を立て直した。


(強い……)


(だが、止めなければ)


彼は再び剣を構える。


第二騎士団も一斉に突撃した。


騎士たちが一斉にミノタウロスへ斬り掛かる。


「はあぁっ!」


「囲め!」


四方から放たれる剣閃。


しかし。


ガギィン!


ギィン!


鋼を打つような音だけが響いた。


刃は厚い筋肉を浅く裂くだけで、致命傷には程遠い。


「くそっ……!」


騎士の一人が歯を食いしばる。


その瞬間。


ミノタウロスの巨大な腕が横薙ぎに振るわれた。


ドォン!!


「ぐあぁっ!」


三人の騎士がまとめて吹き飛ぶ。


石壁へ叩きつけられ、そのまま動かなくなった。


「負傷者を下げろ!」


ジェイムが叫ぶ。


「隊列を崩すな!」


騎士たちはすぐさま仲間を救助しながら態勢を立て直す。


王都の精鋭だけあり、恐怖に飲まれてはいない。


それでも。


「……強すぎる」


誰もがそう感じていた。


ジェイムは再び飛び出した。


(まずは注意を俺に向ける)


そう判断したのだ。


剣を大きく振りかぶる。


「はぁぁっ!」


斬撃。


ミノタウロスの肩口から血が飛ぶ。


「……効いてはいるか」


今度は首筋を狙う。


ギィン!!


わずかに肉を裂いた。


だが、それだけだった。


「グォォォ!」


怒ったミノタウロスが斧を振り回す。


ジェイムは後方へ跳ぶ。


しかし。


瓦礫が吹き飛び、近くの家屋へ一直線に飛んだ。


「まずい!」


家の中には避難しきれていない母子がいた。


ジェイムは迷わず駆ける。


「伏せろ!」


剣を振るい瓦礫を砕く。


完全には防ぎきれなかったが、大きな破片は逸らした。


「団長!」


「ご無事ですか!」


「問題ない!」


息を整えながらジェイムは立ち上がる。


だが、その隙をミノタウロスは見逃さない。


巨体とは思えない速度で距離を詰めた。


「なっ――」


巨大な戦斧。


ジェイムは咄嗟に剣を交差させる。


ドォォォン!!


「ぐっ……!」


凄まじい衝撃。


数十メートル吹き飛ばされ、石畳を転がる。


鎧が軋む。


口の中へ鉄の味が広がった。


「団長!」


騎士たちが駆け寄ろうとする。


「来るな!」


ジェイムは叫んだ。


「住民を守れ!」


「俺はまだ戦える!」


立ち上がる。


膝は震えている。


腕も痺れている。


それでも剣は離さなかった。


「俺は……」


「メタリア王国第二騎士団団長」


「ジェイム・ヘルフィードだ!」


――


その頃。


王都北門。


一台の大型馬車がゆっくりと門をくぐろうとしていた。


門番が声を掛ける。


「止まれ!」


「現在王都内で魔物が暴れている!」


その刹那


ドォン!


煙の中から、一人の少女が勢いよく飛び出した。


金色の長い髪。


まだ幼さの残る顔立ち。


しかし背中には、自身の身長をはるかに超える巨大な魔法銃が背負われている。


砲身だけで人の胴ほどもある異様な武器だった。


少女は大きく伸びをする。


「ふあ~ぁ……」


そして周りを見回し状況確認。


「ん?なになに?ピンチって感じ?」


門番は唖然とする。


「な……」


「え?」


少女は騒ぎの方向へ顔を向けた。


遠くから聞こえる爆音。


悲鳴。


咆哮。


「よし、あっちだね!」


次の瞬間。


少女は笑顔になった。


「行ってきまーす!」


言うが早いか。


地面を蹴る。


バン!!


石畳が砕けるほどの脚力。


少女は屋根から屋根へ飛び移り、王都の夜空を一直線に駆け抜けていった。


門番たちは呆然と見送るしかない。


「……誰だ、あれ」


一人がぽつりと呟く。


もう一人が苦笑した。


「知らないのか」


「あれが十六歳で特級になった怪物、アリア・グランだ」


夜空を駆ける少女は、無邪気な笑顔のまま、災厄の待つ戦場へ一直線に向かっていた。

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