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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第三章 武術師範、名を知られる
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武術師範、静かな来訪者

数日後の夕方。


ヤスヒコとビル達三人は、同じタイミングで依頼を終え宿へ戻る。


宿の扉を開けると、女将のマールが穏やかな笑みで迎えた。


「お帰りなさい。お客さんがいらしてますよ」


「俺たちにですか?」


ビルが首を傾げる。


「ええ。食堂でお待ちです」


四人は顔を見合わせ、そのまま食堂へ向かった。



食堂には二人の女性が座っていた。


一人は十五歳ほどの少女。


栗色の長い髪を肩まで流し、上品なワンピースを身にまとっている。


その隣には、落ち着いた雰囲気を漂わせる女性。


腰には細身の剣。


姿勢には隙がなく、ただ者ではないことが一目で分かった。


少女は四人を見るなり立ち上がった。


「お待ちしておりました!」


深々と頭を下げる。


「先日は護衛していただき、本当にありがとうございました」


ビルは思い出す。


「あ……」


「商隊の」


少女はにこりと笑った。


「はい」


「改めまして、エイヴリル・ラブと申します」


「こちらは護衛兼侍女のアンジーです」


アンジーも静かに一礼した。


「よろしくお願いいたします」


ビルたちも慌てて頭を下げる。


「ビルです」


「シャーロットです」


「カミリーです」


エイヴリルは嬉しそうに笑った。


「お会いできて良かったです」


「どうしてもお礼が言いたくて」



話は自然と護衛任務のことへ移った。


「本当に助かりました」


「あの時はもう駄目かと思いました」


エイヴリルはそう言って笑う。


しかし。


話をしているうちに、ビルは違和感を覚え始めた。


(……あれ?)


エイヴリルは、ほとんどカミリーばかり見ている。


「カミリーさんは、ずっと槍を使われているんですか?」


「え、ええ」


「その判断力はどこで?」


「先生に……」


「素晴らしい指揮でした!」


質問は尽きない。


ビルとシャーロットは互いに目を合わせた。


(分かりやすい)



やがてシャーロットが何気なく口にする。


「私、カミリーの妹なんだ」


その瞬間。


エイヴリルの目がぱっと輝いた。


「そうなんですか!」


「子供の頃はどんな方だったんです?」


「好きな食べ物は?」


「苦手なものはあります?」


「昔から真面目だったんですか?」


質問攻めだった。


シャーロットも困ったように笑う。


「え、えっと……」


「小さい頃から真面目だった、と思う……」


「そうなんですね!」


エイヴリルは嬉しそうに頷く。


一方。


当のカミリーは落ち着かない。


「そ、そのくらいで……」


エイヴリルは思わずカミリーを見る。


目が合う。


「……!」


顔が真っ赤になった。


「す、すみません!」


慌てて視線を逸らす。


アンジーはその様子を見て、小さく口元を緩めた。


(本当に分かりやすいお嬢様ですね)



その頃。


食堂の隅では、ヤスヒコが静かに茶を飲んでいた。


誰も話しかけない。


完全に蚊帳の外である。


そこへチコが近付いてきた。


不思議そうに首を傾げる。


「ヤスヒコお兄ちゃん」


「なんだ」


「透明人間みたい」


ヤスヒコは少しだけ眉をひそめた。


「……むぅ」



カミリーが改めて口を開いた。


「紹介が遅れました」


「俺たちの師匠です」


エイヴリルは立ち上がり、丁寧に一礼した。


「初めまして、エイヴリル・ラブです」


ヤスヒコも軽く会釈する。


「臼井ヤスヒコだ」


短い。


実にヤスヒコらしい挨拶だった。


しかし。


アンジーだけは、その一瞬で違和感を覚えていた。


(立ち姿に、一切の隙がない)


目の前の男は、自分が今まで見てきた誰とも違う。



楽しい時間はあっという間に過ぎた。


日も沈み始める。


エイヴリルは立ち上がった。


「今日はありがとうございました」


「また皆さんとお話ししたいです」


「いつでもいいわよ。ね、お兄ちゃん」


シャーロットが笑う。


カミリーは少し照れながら頷いた。


「……ああ」


エイヴリルはその返事だけでまた頬を赤くする。


アンジーは苦笑しながら頭を下げた。


「失礼いたします」


二人は宿を後にした。



帰りの馬車。


エイヴリルは窓の外を眺めながら微笑んでいた。


「皆さん、素敵な方でした」


「特にカミリーさんは……」


その先は言わない。


アンジーは静かに答えた。


「お嬢様」


「あの男は化け物です」


「え?」


「ウスイ・ヤスヒコ」


「私では歯が立ちません」


「恐らく、一級冒険者でも」


エイヴリルは目を丸くした。


「でも、とても優しそうな先生でしたよ?」


「それに」


「カミリーさんの先生ですし」


言いながらエイヴリルは顔を赤くし、両頬に手を添える。


その様子を見たアンジーは苦笑するしかなかった。



その夜。


王都裏路地。


誰もいない路地裏に、不気味な魔法陣が浮かび上がる。


紫黒い光。


空気が震える。


やがて。


魔法陣の中心から、巨大な黒い影がゆっくりと姿を現した。


重い足音。


低いうなり声。


王都へ、災厄が静かに足を踏み入れていた。

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