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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第三章 武術師範、名を知られる
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武術師範、微笑みと出会う

翌朝。


宿を出たヤスヒコは、王都冒険者ギルド本部を訪れていた。


依頼掲示板を静かに眺める。


派手な討伐依頼。


高額報酬の護衛任務。


魔物調査。


その中で、一枚だけ古びた依頼書が目に留まった。


◇◇◇


孤児院修繕依頼


依頼主 聖ベルトールズ孤児院


老朽化した建物の修繕補助


報酬 銀貨三枚


◇◇◇


ヤスヒコは迷わず依頼書を手に取った。


受付嬢は少し驚く。


「こちらでよろしいのですか?」


「ああ」


「ありがとうございます」


「孤児院は職人を呼ぶ余裕もなくて……」


ヤスヒコは短く頷いた。


「行ってくる」



王都西地区。


石畳の住宅街を抜けた先。


白い塀に囲まれた小さな建物。


そこが聖ベルトールズ孤児院だった。


庭では十数人の子供達が元気よく走り回っている。


「マディお姉ちゃーん!」


「見て見て!」


「できたー!」


一人の修道女へ子供達が次々と飛びついていく。


その修道女は困ったように笑いながら、


一人、また一人と抱きしめていた。


「ふふ、みんな元気ね」


胸元が少し開いた白い修道服。


長い銀髪。


目元は薄いヴェールで隠れている。


それでも整った顔立ちだけは十分に分かった。


子供達は口々に呼ぶ。


「マディお姉ちゃん!」


彼女は笑顔のまま頭を撫で続けた。



ヤスヒコへ一人の年配シスターが歩み寄る。


「冒険者の方ですね」


「修繕をお願いしたく……」


「ああ」


案内された建物はかなり古かった。


屋根は雨漏り。


窓枠も腐りかけている。


床板も軋む。


「ここか」


「はい」


「よろしくお願いいたします……」


ヤスヒコは袖をまくる。


「任せろ」



その様子を、


少し離れた場所からマディが眺めていた。


「ふぅん……」


興味深そうに小さく笑う。


そのまま近付いていく。


「こんにちは」


「私はこの孤児院で働いております」


「マディ、と申します」


ヤスヒコは軽く会釈した。


「臼井ヤスヒコだ」


「今日は修繕依頼で来た」


「よろしく頼む」


マディは少し首を傾げる。


(……え?終わり?)


(普通ここは驚くところでしょ?)


胸元の開いた修道服。


少し色気を意識した格好。


男なら大抵、一度は目を向ける。


だが、ヤスヒコは一度も視線を逸らさなかった。


本当に何も反応しない。


マディは小さくため息をつく。


「……つまらない男ね」


「?」


「いいえ、独り言です」


ヤスヒコは特に気にする様子もなく、木材を担いで歩いて行った。



修繕は昼を過ぎても続いた。


梁を補強し、


屋根を直し、


窓枠を交換する。


子供達は興味津々で見守っている。


「すごーい!」


「お兄ちゃん力持ち!」


ヤスヒコは笑わない。


だが、質問されれば丁寧に答えた。


「これは危ない。」


「近付くな」


子供達は素直に返事をする。


「はーい!」


それを見たマディは、少しだけ目を細めた。



休憩中。


小さな男の子が転んだ。


「あっ……」


泣きそうになる。


その瞬間。


「大丈夫?」


誰より早く駆け寄ったのはマディだった。


そのまま抱き上げる。


ぎゅっと抱き締める。


「痛かったわね」


「もう大丈夫」


頬を優しく撫でる。


男の子はすぐ笑顔になった。


「えへへ」


周囲の子供達まで集まってくる。


「マディお姉ちゃん!」


「私も!」


「ぎゅー!」


「はいはい、順番、順番」


そう言いながらも、


結局全員まとめて抱き締めてしまう。


年配シスターが苦笑する。


「また始まりましたね」


「マディさんは本当に子供達に甘いんです」


ヤスヒコはその光景を見ながら一言だけ呟いた。


「子供が好きなんだな」


マディは自然に笑った。


「ええ」


「この子達は宝物ですもの」


その笑顔は、少しも演技には見えなかった。



夕方。


修繕は無事終了した。


年配シスターが深々と頭を下げる。


「本当にありがとうございました」


「子供達も安心して過ごせます」


ヤスヒコは道具をまとめる。


「依頼だからな」


子供達が一斉に手を振る。


「お兄ちゃーん!」


「また来てね!」


ヤスヒコも軽く手を上げた。


「ああ」


孤児院を後にする。



ヤスヒコの姿が見えなくなる。


マディは静かにヴェールへ手を添えた。


一人の修道女が近付く。


先程まで他のシスター達と一緒に働いていた女性だった。


誰にも聞こえない声で尋ねる。


「……いかがでしたか」


マディは小さく笑う。


「噂以上ね」


「噂以上にお人好し」


小さく笑う。


「それでいて、呆れるくらい真面目」


「そういう人間ほど厄介なのよ」


修道女は顔を強張らせる。


「邪魔になりそうですか?」


マディは孤児達が笑い合う庭へ視線を向けた。


「……まだ分からないわ」


そう答えた彼女の紅い瞳だけが、


ヴェールの奥で静かに揺れていた。

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