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武術師範は異世界でも道を示す  作者: 白玉男爵
第三章 武術師範、名を知られる
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武術師範、自立を促す

ヤスヒコが街外れの旧神殿へ向かった、その頃――


ビル、カミリー、シャーロットの三人は、王都冒険者ギルド本部の依頼掲示板の前に立っていた。


「先生がいない依頼……か」


ビルは小さく息を吐く。


昨日までなら、不安の方が大きかっただろう。


だが今は違う。


「自分たちで考え、自分たちで動け」


その言葉が三人の背中を押していた。


カミリーは掲示板を見渡し、一枚の依頼書を手に取る。


商隊護衛任務


目的地――隣町ブラクンド。


往復護衛。


「これにしよう」


静かに告げたカミリーへ、ビルとシャーロットも頷いた。



王都から隣町ブラクンドへ荷を届け、その帰路まで護衛する往復任務。


依頼自体は難しくない。


だが参加者を見て、三人は思わず息を呑んだ。


「……四級?」


「五級もいるのか」


筋骨隆々の戦士。


巨大な斧を背負う男。


歴戦を思わせる女剣士。


王都では見慣れた顔なのだろう。


互いに軽口を叩き合っている。


その中で七級は三人だけだった。


「おい」


一人の五級冒険者が笑う。


「荷物持ちが来たぞ」


周囲から失笑が漏れる。


「七級なら後ろで荷車でも押してろ」


ビルは拳を握った。


だがカミリーが小さく肩へ手を置く。


「今は耐えよう」


シャーロットも黙って頷いた。



商隊は王都を出発した。


王都周辺はエンターサンドとは違う。


森も深い。


魔物の数も多い。


昼過ぎ。


最初の魔物が現れる。


ゴブリン。


十数匹。


だが四級冒険者が前へ出た。


「お前らは下がってろ」


一瞬だった。


斧が振るわれる。


剣が走る。


数分もしないうちに全滅した。


ビル達の出番は無い。



その後も同じだった。


オーク。


フォレストウルフ。


見たこともない魔物。


だが全て格上冒険者が倒してしまう。


「だから七級は邪魔だって言ったろ」


ビルとシャーロットは悔しさを押し殺した。


しかし、カミリーだけは違う。


魔物の動き。


連携。


囲み方。


隊列。


全てを静かに観察していた。


「なるほど……」


誰にも聞こえないほど小さく呟く。


「そう動くのか……」



ブラクンドへ到着。


荷物を届け終え一泊。


翌朝、王都への帰路についた。


その途中だった。


森が異様に静まり返る。


カミリーだけが違和感に気付く。


「止まって!」


次の瞬間。


森から大量のゴブリンが飛び出した。


数は三十以上。


さらに後方。


杖を持ったゴブリン。


「メイジゴブリン!」


誰かが叫ぶ。


火球が足元へ飛んでくる。


四級冒険者たちは突然の事に隊列を乱し、一瞬だけ誰も指示を出せなかった。


五級冒険者も当然対応しきれない。


商人達が悲鳴を上げる。


その瞬間カミリーが叫んだ。


「前衛は下がらない!」


「右はもっと際へ!」


「左は馬車を守って!」


「ビル!正面!」


「おう!」


「シャーロット!メイジを狙え!」


「分かった!」


誰もが一瞬驚いた。


だが、指示は正しかった。


混乱していた冒険者達も自然と従う。


ビルが前へ飛び出す。


「道を開けろ!」


剣が走る。


ゴブリン二体を斬り伏せる。


シャーロットの風魔法。


「ビル!行って!」


メイジゴブリンの杖を弾き飛ばす。


その隙を見逃さない。


ビルが踏み込む。


一閃。


メイジゴブリンは倒れた。


統率を失った群れは一気に崩れる。


残ったゴブリンも各個撃破された。


戦いは終わった。



静寂。


商隊の商人が深く頭を下げた。


「助かりました……!」


「ありがとうございました!」


四級冒険者達も三人を見る。


「さっきの指示……」


「お前が出したのか」


カミリーは少し照れ臭そうに頷いた。


「皆さんの動きを見ていました」


「一番戦いやすい形を考えただけです」


四級冒険者が笑う。


「やるじゃねえか」



その頃。


馬車の中。


商人の娘はずっとカミリーを見つめていた。


冷静に状況を判断し。


誰より落ち着いて皆を導く姿。


「……素敵」


その小さな呟きを聞いた者はいなかった。



夕方。


王都へ帰還。


完了報告にギルドへ訪れる。


受付嬢は報告書を見て驚いた。


「今回の作戦指揮……」


「カミリー様ですか?」


周囲の冒険者達もざわめいた。


「七級だろ?」


「本当か?」


四級冒険者が笑う。


「本当だ、俺達も助けられた」


王都冒険者達の、三人を見る目が少し変わった。



その夜。


宿へ戻る。


ヤスヒコは食堂で静かに茶を飲んでいた。


「戻ったか」


「はい」


「無事だったか」


「はい」


それだけだった。


ヤスヒコは小さく頷く。


「そうか」


その一言だけで十分だった。


三人は互いに顔を見合わせ、少しだけ笑った。


今日、自分たちは確かに一歩前へ進んだ。

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